#4 菌類に覆われた世界 研究により明らかになる菌類の可能性
普段の生活の中でキノコや納豆のことを意識するとこはあまりないかもしれません。しかし、実はキノコや納豆は菌類なのです。しかも、菌という分類には、納豆菌や、数百にものぼるキノコの種類だけではなく、カビや酵母、バクテリアと呼ばれる細菌などの多種多様な微生物までもが含まれます。その数は300万種以上と言われており、未だそのすべてが解明されているわけではありません。昨今、そんな菌類の生態についての研究が進むなかで、菌が非常に有用な特性を持っていることがわかってきました。今回は、菌類の持つ特性とその活用の可能性についてご紹介します。
微生物としての菌類、その分類基準
まずは、その違いから。菌類を含むすべての生物は細胞から成り立っていますが、そのすべての生物は細胞の核を持つ真核生物か、核を持たない原核生物かで、大きく2つに分けることができます。私たち人間を含む動物、植物やキノコ類はすべてこの真核生物に分類されるのです。一方で「乳酸菌」「納豆菌」「大腸菌」など細菌と呼ばれるものは原核生物に分類されます。これらの細菌は肉眼で確認することはできませんが、私たちの体や食品の中に存在しています。今回のシナリオでは、菌類の中でも主にキノコやカビを総称する「真菌類」にフォーカスし、「菌類に覆われた世界」を描いています。
キノコの本質は菌糸部分にあり
みなさんは、食卓に並ぶキノコとお風呂場のカビが同じ「真菌類」と呼ばれる分類の生物だと言われても納得がしにくいかもしれません。これら真菌類の共通の特徴は、胞子で増えること。キノコ類を例に挙げると、普段私たちが食べている部分は植物で言うところの花や実の部分であり、胞子を撒く為に地上で大きく成長するところ。その地下や原木の中には、菌糸と呼ばれる繊維状の根の部分が広がっていて、真菌としてのキノコの本体はこの菌糸の方なのだそう。カビ=菌糸が地表にも広がっている状態と考えると、菌糸をイメージしやすいと思います。
ちなみにキノコは落ち葉や倒木、切り株などの有機物素材を養分として菌糸を成長させていきます。そうすることで有機物素材が分解され、その腐敗した植物が土に還っていくという仕組み*。カビも同様に、食品や石鹸カスなどの有機物素材を養分とし、菌糸を成長させて発生する仕組みです**。近年の研究によって、この菌糸の特性を様々な産業に広く活用できる可能性が明らかになり、菌類に対する注目が非常に高まっています。
菌類スタートアップへの投資が増えているのはなぜか
真菌類の菌糸を活用する事例も別記事にて取り上げていますが、欧米を中心に新しい技術への期待がここ数年で非常に高まっています。ある調査によると、2015年から2022年にかけて、菌類を活用するスタートアップ企業数は32社から80社に増加し、投資額は€39Mから€1.5B(約38倍)に急増しているのだそう***。
なぜ菌類がこれほど注目されるのでしょうか。それは、菌類の特性が人類の抱える様々な課題を解決する可能性を秘めていると考えられているから****。菌類の生産の利点は、大きな農地や大量の水を必要とせず、省スペースの工場内で生産ができ、生育のスピードが非常に速いこと。食用のキノコが食糧問題の解決策となることはもちろん、有機物を分解し自然に還すという特性から食品産業以外では環境負荷の低いサスティナブルな素材としての期待が寄せられています。SDGsに対する関心が高まる中で、菌類の持つポテンシャルに投資が集まっていることも十分に納得できます。
まとめ
「風の谷のナウシカ」では、植物が瘴気を吐き出すことで、人間に汚染された大地を浄化する腐海という世界設定が描かれています。自然界に元々存在する菌類の持つ能力に注目が集まっている現状は、この腐海という設定にも重なるように思います。人類には工業化や機械化を重ねることで豊かな暮らしを手にしてきた歴史がありますが、これからは自然界の小さな生物を尊重し共生の道を探ることが、持続可能な豊かな暮らしを実現するカギとなるかもしれません。菌類はこの先も人間が地球上で心地よく生活していく為の大切な共生パートナーと言えるでしょう。
(文・高橋 功樹/未来予報株式会社)
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