高校一年の冬まで、僕は冴えない人生だった。
小学校中学校ではいじめられっ子。高校もただ惰性で行っただけで、たいして勉強もせず夢も目標も持っていないパッとしない高校生だった。
あれは確か、雪が降りそうな寒い日だったと思う。
友達が、お姉ちゃんからスクーターを借りてきて僕の家まで遊びに来た。そうして僕に「乗ってみる?」と聞いたのだ。
僕は『スクーターなんてオバさんでも乗れるだろう。余裕じゃん。』と心の中でつぶやき、そのスクーターに跨った。
家にもパッソルがあったので、そのイメージで完全になめてかかっていた。
でも実は友達のバイクは、当時軽量かつ最もパワフルと名高かったいわゆる“旧ジョグ”だったのだ。
僕は無造作にアクセルを捻った。途端に、恐ろしいほどの勢いでバイクは加速した。
ガクンッと首がのけ反って、危うく体ごと後ろにズリ落ちるところだった。
とてもビックリした。
でも不思議と恐怖はなく、逆に『バイクって、なんてスゴイ加速なんだ!』と心が震えるような感動を覚えた。
この一瞬で、僕はバイクの虜になった。
バイトをしてお金を貯め、自分のスクーターを買った。
バイクは、僕を信じられないほど遠くまで運んでくれた。今までは親の車で連れて行ってもらう以外になかった遠い遠い場所へも、自分一人で行くことができる。
大袈裟かもしれないが、僕は生まれて初めて、親や学校の先生の指図ではなく自分の意思で『何かをやりたい』と思うようになった。
それからの僕は人生に積極的になった。なんでも自分で決める。自分が好きな道を進む。
高校一年の冬、僕は変わった。
そのきっかけを与えてくれたのはまぎれもなく、バイクの、あの時の加速なのだ。
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