CHICKEN #THINKTOBER

 無理だって。いや本当に。
 鳥肌すごいよ。
 だいたい馬鹿だって。ついこの間ケイスケがさ、なんかこう、行方不明になったばっかじゃん。行方不明。マジかよ本当にそんなんあんのかよってみんな言ってたじゃん? それでこれってさ……逆にすごいよ。

 某県某氏某トンネル。
 鳴り物入りの心霊スポットだって。でもそれってみんなもう行ったってことじゃん? じゃあ大丈夫じゃん。
 でもなんでそのさあ、どうやってそこに見つけたわけ? っていう、国道から降りた切り替えしもできない山道みたいなところ通ったところにある小っちゃいトンネルみたいなやつね。そんなんもうだめじゃん、どこで見つけてきたんだよ? って言ったらカナコがまとめブログで見かけたって言うんだって。カナコあいつ普段は眼鏡なんだよな、ユウキが一緒にいるときは絶対コンタクトしてるけど。大学行ってるし、俺とか絶対馬鹿にしてるよ。下に見てる。そういうの俺わかっちゃうんだよね。
 とにかく5人で行ったの。その小っちゃいトンネルね。苔だらけで、石で括ってあってさあ。もう明らかにヤバいわけ。夜中だったから周り真っ暗だし、いちおう車一台とちょっと、ギリギリ俺のバンと軽一台だったらすれ違えるかな? ぐらいの広さはあるんだけど、向こう側はマジ真っ暗闇で何も見えないし、電灯とかスマホつけると蛾とか寄ってくるし最悪なわけ。でも俺が蛾にビビってるの見てカナコとかザキとかは笑うわけね。

 でも違うんだよ。俺がビビってたのは蛾じゃないの。いや蛾にもビビってた。でもそれだけじゃないのよ。本当に。
 あのトンネル。
 ありえないよ。でもなんつうか……「喉」っぽく見えた。なんかこう、壁面がごつごつしてる感じ、あれが喉骨っぽく見えたの。喉仏みたいな……なんつうか、本当に、生暖かい息みたいな風でさ。飲み込まれそうに見えたんだよ。入ってったらそのままゴクンッて動いて飲み込まれるみたいな。そう思ったら鳥肌とまんなくて。もう一歩も近寄りたくなかった。
 でも誰も気にしやしないんだよ。俺のこと笑うんだよな。ビビりだからさ。でももうあんなの……ビビりでもいいやッて思っちゃったよ。俺車で待ってるわっつって車に戻ったのね。もうホントに、怖いっていうか……気持ち悪くて。絶対あの中に入るなんてお断りって思った。だからカナコが電灯向けて、みんながゾロゾロあの中に入っていくの見ながら、俺はひとりでダッシュで車に戻って、大音量でバンプのCDかけて寝た。見えないものなんか見えなくていいんだよな。俺はなんにも覗き込みたくなかったよ。

 それで……それで本題なんだけどさ。
 それで朝ね。普通にケツと腰ガッタガタで寒くてブルブルしながら目ー覚めて、でも誰も戻ってきてないわけ。鍵も開けてあったし、てゆうか朝になる前に誰か起こすと思ってたのよ。だってそんな長い間トンネルでやることなんかないじゃん。
 なんか薄ら寒いどころじゃなくなっちゃって、暖房ガンガン、バンプ大音量でかけたまんまエンジンかけて、どうせほっそい道で切り返さなきゃいけなかったからトンネルの前までいったわけさ。なんか明るいときに見たら思ったより森~って感じでもなくて、トンネル自体も全然、普通のちゃっちいコンクリのトンネルなわけね。苔蒸して? あー、そう見えたんだけど……普通のコンクリのトンネルだったわ。てゆうか、向こうからフツーに、オッサンが運転してる軽トラがくるわけ。切り返せないからさ、仕方なくすれ違いながらトンネル入るじゃん。いやもう全然ビビんなかったよ、だって向こう側の道とか普通に見えてんだもん。何にビビってたのかわかんないって。
 したらオッサンが怒鳴ってくるのね! エッて思って窓開けるじゃん、オッサン「私有地だぞ!」って言うわけ。「行ったらヤバいすか」って聞いたら「誰だ」って言うから肝試しですって言ったらしこたま怒られて……曰くつきとかなんか? と思ったら全然、要するにトンネルの向こうにあるのってそのオッサンの畑だったわけ。仕方ないから一生懸命謝って、切り返すためにトンネルも超えたわけさ。ほんの数十メートルぐらいのトンネルだよ。出たところに普通に畑があって、あー畑だなーって。でもじゃあさ、あいつらどこいったの? って話じゃん。もうなんかその時にはさあ、からかわれてて、あいつら反対から抜けて別の車で帰ってさ、俺のことLINEでもうげらげら笑ってんだろうなーって思ってたけど、いちおう名前呼んでみたりして、まあいるわけないんだよね。小っちゃい畑だったし。
 え? いや聞いたよもちろんオッサンにも。見てるわけないんだよね。普通に怒られたし。だから普通に切り返して帰ってきた。
 気づくべきだったんだよな、LINEグループ消えてたときに。勝手に誰か俺のこと追い出して、それで笑ってるんだろうって思ってたんだけど……

 帰ってきたらさ。
 いないわけ。いないんだよ。カナエもナッちゃんも、ザキもノリアキも。いなくなっちゃった。LINEもツイッターもない。カナエんち知ってたから行ったんだ。カナエ、いなかった。いなくなってた……「誰?」って言われて警察呼ばれそうになった。カナエのお母さんに。いや待って、ノリアキだけツイッター残ってたんだけど、鍵になってて外されててもうわかんねえ。会いに? 行くわけないじゃん! ブロックしたし! だって……ノリアキの家知らないし、もし知ってて、会いに行ってさ、いますっていってそこに出てきたのがさ……ノリアキじゃなかったらどうする? なんか……別のものだったら?

 絶対やだよ俺。もう忘れることにする。なかったって思えば楽だから。



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