EXHAUSTED #THINKTOBER


 人間だって一種のテレフォンカードのようなものだ。磁気をまとっていて、それを読み取りあって残りの金額を確かめながら、ぼつぼつと穴が空いていくのを見て、自分の端数がどんなもんかを脳裏に浮かべたりする。
 そして、あまりに強い磁場を受けると消え去ってしまう。
 そう思ったのはこの男が、もうこのあたりでは駅前のロータリーのはずれ、つまりここにしかない電話ボックスで、テレフォンカードの最後の穴を確かめながら、これで実家に電話がつながらなかったら誰が迎えに来てくれるだろうかと寒々しい気持ちを思い浮かべた、というのが最期だったからだ。それがこの男、つまり今、おれとなった者が、ついさっきまで思い浮かべていたことで、こいつらにとっては磁石にあたるもの、つまりおれの意識がぶつかってこいつを上書きしたとき、一番最初に思考の表層へ滑り込んできたことだった。
 だからおれはそう思う。人間だって使い切ってしまえばそこでおしまいだ。同じものだと思う。
 そういう基準で言うならおれはチャージ式のカードなのだ。あるいは、電子マネー機能がついたスマホ? おれは通信できるが、人間にはその機能がない。だからそのぐらいの差はあるだろう、でもそれはおれがコイツの尊大さをひきずって思っただけの誇大妄想かもしれない。とはいえ、自尊心というやつはいわばパスケースや保護フィルムみたいなものだから、ないよりはあるほうが安心するだろう。
 おれはすぐに実家に電話をかけた。素面で鞄を置き引きに遭うなんてろくでもない日だと、偶然家にもう帰ってきていた妹に悪態をついて、「それは自業自得でしょ」と言われながら、ぐうの音も出ない。
 こんなに擦り減っているなら、もともと長い命じゃなかった。五体満足の健康よりもこっちのほうが重要だ。カードの折れより、残金のほうが大切なのは当たり前。こっちを失ったらどうせおおもとが元気だって何の意味もない、ただあとは棄てるだけなんだから。
 問題はそう、今のこのおれが、あとどのぐらい、節約して生きていけるのかということ……、……それだけだ。
 がちゃん、と吐き出される擦り切れた何年前かに上司からもらったテレフォンカードを地面に置き捨て、おれは意識を振り絞る。
 家計を見直せ。節約しろ。スマートフォンはソフトバンクを解約して格安シムにしろ。必要以上に考えて必要以上に伝えようとするのをやめろ。通信費が嵩む。
 おれには、一千万円が必要なのだ……いまはただ。
 月へ帰るために。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?