オンリーワンのチョコクッキー

*今年もバレンタインデーが過ぎた。毎年、当日は家の前に五トントラックの大渋滞(もちろん、ぜんぶちょこだぜ)ができるので、交通整理や謝りに回ったりで大変なんだけれど、今年はまあ、穏やかに過ぎた。穏やか過ぎて、今の今までバレンタインの存在を忘れるくらい穏やかに過ぎた。

今のぼくにとってバレンタインは、チョコをもらう日でもあげる日でもなく、母親が小さい頃に毎年作ってくれていたチョコチップクッキーを作る日になっている。十九歳で実家を出るときに母親に聞いたレシピは、カレーでも卵焼きでもなく、2月14日にしか出てこないクッキーだ。少しカクカクとした、でも読みやすい綺麗な文字の手書きレシピを母は送ってくれた。そのとき初めて、母はこんな字を書くんだ、と思った。

小麦粉とアーモンドパウダー、バターを同量入れて捏ね、固まってきたらチョコチップを追加し、牛乳を入れる。あとはひたすらこねて、一塊になったら冷蔵庫で少し寝かせる。あとは好きにちぎって、200℃のオーブンで20分焼き上げる。砂糖が入っていないことをレシピで知った。形は綺麗じゃなく、でこぼこで不揃いにする。そのほうが、なんだか好きなのだ。

思えば「おふくろの味」とは、おふくろ自身が得意な料理じゃないのかもしれない。腕によりをかけたものでも、自信のある料理でもなく、食べていたぼくたち子の記憶に、たまたま残っているものなのかもしれない。その「たまたま」の部分にキッカケがあるから、いいんだろうけどね。ぼくにとってはそれがバレンタインのチョコクッキーなのだ。そしてこのクッキーが、オンリーワンな美味さなんだよなぁ。


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