おにぎりの具はなんだろな

*仕事をしに入った喫茶店で、ラジオが流れていた。BGMがてら聴きながら仕事をしていると、正午直前にリスナーへ電話をつないで、お昼ご飯を聴くというコーナーらしい。お昼ご飯とその経緯を聞いて、正午ちょうどに「いただきます」と言うんだとか。なんとも平和でへんてこなコーナーだなと思ったけど、ちょっと心休まるいい塩梅の企画だなとも思った。

そうこうするうちに、リスナーと電話がつながった。声色から察するに、30代くらいの男性だった気がする。パーソナリティが「じゃあさっそく、今日のお昼ご飯はなんですか?」と聞くと、ちょっと恥ずかしそうに「おにぎりです」と答えた。おにぎり、いいなぁ。具はなんだろうなんて思っているうちにパーソナリティがぼくの疑問を代弁してくれた。代弁してくれたんだけど、その聴き方にちょっと感動しちゃったんだよね。パーソナリティは「おにぎり!いいですねぇ。具は何か知っていますか?」って訊いたんだよ。

たぶんほとんどの人がぼくと同じように「具はなんですか?」って訊いちゃうと思うよ。でもそこでパーソナリティはすかさず「具は何か知っていますか?」って、あの一瞬で訊いた。なんて素敵な聞き方だ、と思って感動しちゃったんだよね。「具はなんですか?」の半歩手前にある「具は何か知っていますか?」という質問。このなんでもない質問に、どれほどの考えが込められているか、ぼくは計り知れなかった。

そのおにぎりが、自分で握ったものなのか、それとも買ったものなのか、誰かが握ってくれたものなのか。おにぎりが自分の手元まで届く経緯を間接的に知る質問なんだよね。「具はなんですか?」って訊いてたら、たぶん省略される部分なんだけど、「具は何か知っていますか?」と聴くだけで、このあいだの部分がまじまじと輪郭を帯びてくる。このパーソナリティの方、すごいなー。プロが仕事を楽しんでいるさまを、見せつけられたような時間だった。


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