伝えたいことは、「ちゃんと」伝える。

*誕生日前夜は、思い立って好きなお店で過ごすことにした。ぼくが二十歳ぐらいの頃からお世話になっている店のママが、ひとりで構えるお店だ。なんだかんだ足を運べておらず、半年ぶりに行ったけれど、ママも、お店も、空気感もなにひとつ変わっていなくて安心した。ぼくの好きなお店と人が、半年前と変わらずにそこにある。いろんな商いが難しいこのご時世で、これほど嬉しいことはない。

昨日も書いたんですけど、ぼくは誕生日が苦手なんです。一年のなかで一番苦手な日だと言ってもいい。過ごし方がむずかしい、という意味で苦手だったんだけど、近頃はそれなりにおじさんになってきたこともあって、歳を重ねるのがおっくうだった。

そんな誕生日の前夜、大好きなお店で、大好きなママから聞けた話がとんでもなくよかった。何年か前に離婚をされて、さいきん彼氏が出来たママが言った「この歳になってな、死んだ父親が言ってた『伝えたいことがあるなら、ちゃんと言いなさい』って意味がようやく分かってきた気がする」という言葉に涙が出た。そうだ、伝えたいことがあるなら、ぼくたちは「ちゃんと」伝えるべきなんだ。

この「ちゃんと」の部分には、ほんとうにいろんなものが入るよ。感情的にならず、かといって論理に丸投げせず、相手のほうを向いて、泣くでも怒るでもなく、ちゃんと伝える。自分の言いたいことを言うのではなく、伝えるためには「ちゃんと」が大事なのだ。

相手の話をまったく聞かない人が、その相手に「ちゃんと」伝えられるだろうか。言葉を選ばずに勢いに任せて使った言葉で、「ちゃんと」伝えられるだろうか。相手の事情やタイミングを考えないまま、自分勝手に放たれた言葉は、相手に「ちゃんと」伝わるだろうか。

伝えたいことがあるのなら、「ちゃんと」伝えなければいけない。それは、距離感が近ければ近いほどむづかしい。「ちゃんと」しなくても分かるでしょ、と相手に甘えてしまうからだ。距離感が遠い人ほど、「ちゃんと」伝えようとするのは、ちょっぴりヘンテコな話だ。

二十八歳を迎える前夜、大切な人に「ちゃんと」伝える大切さを、大好きなお店のママから教えてもらった。好きな人からの言葉が、ちゃんと自分に伝わるのも、その人が好きでいさせてくれるから、なんだな。


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