ことばは、実態ありきだ。

*恐れずに、はっきり言ってみよう。ことばは、いつだって調子がいいのだ。だって、どんなことばだって言うのは簡単だし、タダなんだから。無愛想な人間でも「愛想が大事だ」と言うのは言える。巷でウワサのやさしくないおじさんだって「やさしさってのが一番大切なことだよ」とは言えるのだ。その人がどんな人であろうと、そこに関係なくただ言葉を扱うことができる。もちろん、いいことだってたくさんあるし、自分を律するように、言い聞かせるように言うこともあるだろう。

ただ、それを「何を言っているか」だけで判断してしまったら、口の合戦になると思うんだよ。上手いこと言ったもん勝ち、の世界になってしまう。そこでは、口達者な奴がいつだって勝つし、上手いこと言う奴だけがのし上がっていく世界だ。でも、そんな世界、おもしろいだろうか。おもしろいかもしれないけれど、本当にいいのだろうか。ことばなんかよりも大切なことなんて、いくらだってあることをぼくたちは知っているというのに。

ことばなんて、なんとだって言えるのだ。なんとだって言えてしまうのだ。だからこそ、ことばだけに惑わされちゃいけない。結局、人は「何をやったか」で決まるんだ。と、ぼくは自分に言い聞かせるように今も書いている。このことばだって、ぼくに言う資格はないかもしれない。それでも言えてしまうんだから、ことばってのは便利で、やっかいで、おもしろいわけでもある。

ことばはいつも調子がいい。「やさしくなりたい」と言うだけで、やさしくなれるわけなんてないのだ。「おれはお金持ちだ!」と言うだけで、お金持ちになれるわけじゃないのだ。どんな言葉を使うか、吐くか、思うかはもちろん大事なんだけど、それに追い付こうと自分を動かすことが、いちばん大事なんだよなぁ。ことばだけが先に行ってしまっている人を「うそつき」と呼ぶのかもしれないし。ことばは、実態ありきなのだということを、忘れずにことばを扱っていたい。


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