無能の人

*きのう、1991年に放映された、竹中直人さんが主演、かつ初監督の『無能の人』という映画を観ていた。30年も前の作品、映像技術も、時代も、街並みも何もかもに良い意味での「古さ」を感じる。しかも、つげ義春さんが原作なもんだから、その「古さ」に情緒を感じずにはいられない。

竹中直人さん演じる父親と、風吹ジュンさん演じる母親(これがまたキレイでね…)と、お子さんの三人家族の話だ。父親は描いていた漫画が売れなくなり、多摩川で拾った石を売って生活を立てている。けっして裕福ではない、むしろ貧しく質素な生活。ただその生活は、ものすごく等身大で、美しい。情けないし、ばかをみるし、調子に乗ったり落ち込んだり、人間味あふれるまさにつげ義春さんらしい作品。

ぼくは原作を読んだことがないのだけれど、いや、原作を読んだことないにも関わらず、映画を観ていて「忠実に、誠実に原作を再現しているんだろうなぁ」という印象を受けたんです。それって、すごくおもしろいことじゃないですか。カメラワーク、役者の演技、間、すべてに監督の意図を感じて、しかもそれが何かを伝えるための意図というより、原作の世界に近づけるためのもの、というか。それがおもしろくて、すごかった。「あのカメラワーク、なんだったんだろう」と疑問や違和感をおぼえるにとどまらず、「原作に近づけている」ことまで、観ている人に伝わるのだから。

こんな感覚は初めてで、原作を読みたいのはもちろん、監督である竹中直人さんに話を聴きたくなる映画。彼女の帰りを待ちながら料理をするシーンがあるのだけれど、あのアングルは素晴らしかった。あの情景を、ぼくは忘れることができそうにない。いや、素晴らしい作品だったなぁ。年末に、良いもの見ちゃったよ。皆さんに良いもの見ちゃったよがあれば、ぜひお裾分けしてください。


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