ライフイズビューティフル

*デートの待ち合わせ、15分早く着いた男に不運かどうか、にわか雨が降ってきた。それはもうざあざあと、傘がなけりゃずぶ濡れになるくらい降ってきた。天気予報では雨なんか降らないはずだったのに。「ああ、これはどうしたもんか」と思っている男は一旦トイレに駆け込むと、個室におき忘れていた傘があった。男はその忘れ物の傘を持って、待ち合わせ場所についた。女はもちろん傘は持っておらず、男はその手に入れた傘を使って、女と二人、夜の街に消えていった。

ということが、あったとします。もちろんつくり話ですけど、ま、ない話じゃ無いでしょうよ。このとき、意中の女性とデートをする予定の男は、その「傘を置き忘れていった人」にある意味では救われているのです。もちろん、会ったことも声を聞いたことも、名前も風体も知らない。なんだったら架空の人物かもしれない人に、男は助けられた。その男の人生に登場することのない人に、救われたとも言えます。ぼくはこういうのが、けっこう好きなんだよなぁ。自分が傘を忘れてきて「あちゃー」と思ったときは、こういうことが起こって良く使ってくれたらいいなと強引に考えたりもします。

これはもちろん想像であり妄想であり、空想であるかもしれない。けれど、もしかしたら世界はちょっとだけそんなふうに回っているのかもしれない、と思うし思いたいんだよなぁ。ニュートンさんだって、りんごが落ちてきたのを見て万有引力を発見したわけでしょう。人はそれを「天啓」とか「神の気まぐれ」とか言うけれど、もしかするとニュートンさんがくる前にその木をがさがさを揺らしていた子供がいたかもしれない。もしいたならば、その子供にニュートンは助けられたわけだ。

今年のM1の代名詞、ライフイズビューティフル。人生はうつくしい、というのは自分の認識の範囲内だけでなく、そういうことまで含めて、いや、含めることも含めてうつくしいんじゃないかとどこか信じたいんだよなぁ。自分の視界の外側というか、知らない世界、けっして出会うことのない人、触れることのない世界、そういうものにすら、ぼくたちはやさしくされている瞬間が、どこかにあるのかもしれない。もちろん、先に書いた通り想像だし妄想だし空想ですよ。でも、そういう妄想ができるってのも、人間の持つおおいなる力のようにも思うわけでさー。


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