池を作った中学生

*ぼくは中学校の頃、理科研究部に所属していた。というのも、クラブチームで野球をやっていてチームでの練習は土日にあったため、平日の放課後は暇でなにか部活に入るかなと思って入ったのが、理科研究部だった。とくに理科がすきだったわけでも、興味があったわけでもない。クラブチームに所属する人はなぜか「理科研究部」に所属するという風習があって、先輩の言う通りに入部しただけだった。

ただ、うちの学校の理科研究部はなかなかのもので、先生が有名な人だったことや、学校の奥に山を持っていることもあって、その山でいろんなプロジェクトをやっていた。先生は山に生えている植物にはもちろん詳しいし、「これは食べれる。似ているけどこっちも食べれる。でも毒があるから食べ過ぎたらダメ」なんてことをよく教えてくれた。ハシモト先生って名前だった気がするんだけど。

ちょうどぼくらが二年生の頃、ハシモト先生が奥の山に「池をつくろう!」とある日言い放って、理科研究部総出で(と言ってもちゃんときてたのは5人くらい)で池をつくることになった。最初の方はみんなでどんどん穴を掘って、2mくらい掘ったかな。池の下地ができたら、次は山の奥の方の谷にみんなで行って、そこから流れる水を引いてくる作業もした。合間には理科室から持ってきたアルコールランプとおたまと重曹と砂糖で、カルメ焼きをつくって食べたりもしたなぁ。そうして半年くらいかけて、ぼくたちが三年生になる手前くらいに、池は完成したのだった。

ぼくは理科が苦手だったし、べつに好きだったわけでもない。ただあの先生のやるプロジェクトのひとつひとつがおもしろくって、なんだかんだ参加していたんだよなぁ。知識とかはぜんぜん憶えていないけれど、たしかに楽しかった。秘密基地をつくろう!はやったことがあるけど、池をつくろう!なんてやったことなかったし。その池はぼくらが卒業する頃には、水草がたくさん生えていて、鯉なんかも泳いでいたはずだ。あれもたぶん、先生がどんどんやっていったんだろうな。

たいして憶えちゃいないけど、あの頃の経験は今のぼくにとっても影響しているように思う。生徒のやりたいことを聞いたり、先生のアイデアが面白そうならみんなで乗っかったりして、理科室内にあるものでそのアイデアを実現していく。もちろん失敗もしたし、池を掘るところなんて文化部とは思えないほど肉体労働だったし。それでも楽しくできたのは、先生が思いつくことや「こうしたらできるよ」ってアドバイスがおもしろかったのもあるけれど、先生がいちばん楽しそうだったんだよなぁ。池ができたとき、ぼくらも感動したけれど、先生がいちばんよろこんでたもんね。べつに特段好きな先生ってわけじゃなかったけれど、それでも先生が楽しそうってのが、あの頃はとても大事だったんだと思う。「楽しんでるよ」ってことばではうそをつけても、楽しそうって、うそつけないよねー。


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