ぽつんと置かれた手袋は、いつからあるのだろうか。

*この前ね、喫茶店でこんなことがあったんですよ。テーブル席にぽつんと手袋が置かれてあったんです。混んでた喫茶店だから、ぼくを含めたみんなが「席を取る」ために誰かが置いたものだと思っていた。チェーン店で店員さんが注文を取りにくるタイプでもないので、誰もが空席に「誰かがいるんだな」と予想して疑わなかった。ただ、その席に10分経っても30分経っても、誰もやってこない。ぼくがそこの喫茶店を出る頃、入ってから2時間近く経ってからも、その席は誰も座らず「席取りのための手袋」だと思われている「忘れ物」が、ぽつんとあるだけだった。この手袋、いつからあるんだろう。もしかして、今日の朝からずっとあるわけじゃなかろうな。

この感じは、なんだか他のことでもたくさんあるような気がしてきたのだった。例えば、「高嶺の花はモテない」みたいなことを聞いたことがある。美人すぎて、この人にはもうパートナーがいるんだろうな…とみんなが思っているので、誰にも声をかけてもらえない。この話にちょっと似ていたりするな、なんて考えていたわけだ。

そういえば、ぼくたちは「忘れ物」と「落とし物」の明確な違いを知らない。電車の席にぽつんと財布が置かれてあったとして、それは「忘れ物」なのか「落とし物」なのかと問われれば、どちらでもあるし、どちらか一方は違うのだ。落としたのか、忘れたのか。それとも落としたことを忘れたのか、忘れた頃に落としたのか。

「それ」を手に取って別の場所に動かせるかどうか。自分のものと他人のものの違いは、そこにあるんじゃないか、なんて考える。いや、友人かどうか、という尺度にもなり得るかもしれない。友人の荷物は移動できるけれど、そこまで発展していない仲の人の荷物を勝手に移動させるのは気が引ける。このへんも、人間の心理のおもしろいところだよなぁ。あれ、いったい何の話をしていて、何の話をしたかったんだっけ?


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