およげ!たいやきくん

*なぜだか分からないが、この前ふと「およげ!たいやきくん」を聴いたのだった。聞こえてきたわけじゃない、「およげ!たいやきくん」を聴こうと思って聴いたのだ。人生でまさか「およげ!たいやきくん」を自らすすんで聴くなんて思わなかった。失礼かもしれないけど、ほんとそうなんだ。幼い頃、テレビで流れていた記憶しかない歌で、でも強烈におぼえている。それをなぜか、急に聴こうと思って聴いたのだった。

「およげ!たいやきくん」、ちゃんと聴いたことありますか?あれ、すんごい歌だよ。聞こえてきたBGM的な楽しみ方じゃなくて、聴こうと思って聴いてみたら、あれはすごい歌だった。いまだに日本で一番売れた、というのが分かるし、分からないぐらいすごい歌だ。だって最初は「まいにちまいにち ぼくらはてっぱんのうえでやかれていやになっちゃうよ」から始まるんだぜ。自分の現在地からの逃避、日常への飽き、抜け出したい衝動から始まるんだ。

あれはものすごーい、さみしい歌だよ。自分の日常が嫌になった、飽き飽きとしたたいやきが、にげこむように海に冒険へ出る。そこでサンゴと出会ったり、サメにいじめられたりしながらも、なんだかんだ楽しい日々を送っていくわけさ。しかし、腹が減ったからえさに食いついたら、それはつりばりで、おじさんに釣り上げられちまう。そこで、あの最後の歌詞だよ。「やっぱりぼくはたいやきさ すこしこげあるたいやきさ おじさんつばをのみこんで ぼくをうまそうにたべたのさ」。どうだい?なんとも、なんともさみしい歌だと思わないかい?

けっきょく最後には食べられちまうんだけど、そこでたいやきが思ったのが「やっぱりぼくはたいやきさ」っていう、ある種のあきらめなんだよなぁ。ああ、けっきょくおいらはたいやきなんだ、と自分を受け入れるというかさ。それがなんともさみしくて、それでいて自分を受け入れられたようにも見えて、たまんない歌なんだよ。ちょっと愚か、とも言える。でもそういう愚かさが、たまんないんだよなぁ。落語でもなんでもそうだけど、人間の愚かさをおっちょこちょいに描いているのがおいらは好きなんだよなぁ。成功譚やかっこいい物語もグッとくるけどさ、やっぱりおれたち愚かだよなぁって諦念のようなものが、ぼくたちの底にあるような気がしてさ。だから涙も出るもんだし、だからよろこんだりするもんだ。そんなことを、「およげ!たいやきくん」を聴きながら考えていたんだよなぁ。


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