思い浮かべるひとがいる。

*おいしいものを食べているとき。おいしい。うまい。もっと食べたい、なんて思いながら「あの人と一緒に食べてみたいなぁ」なんて思う人がいる。それはべつに恋愛感情の話だけじゃなくてね。友人でも家族でも今はもう疎遠になった人でも、思い浮かぶことがある。「あの人、みょうが嫌いって言ってたけど、このみょうがの天ぷらを食べたらびっくりするだろうなぁ」とかね。今頃そいつはみょうがをばくばく食べてて、おいらは「ぎゃふん!」って言っちゃうかもしれないけど。

とてもいい音楽を聴いているとき、「この人もきっと、この曲が好きだろうなぁ」と思うことがある。ひとりで行ったライブハウスでとんでもなくいい音楽に巡り合ったとき、今は誰もいない隣に、その人を思い浮かべる。きっと横目でちらっとその人を見ながら、ぼくは音楽を聴くだろう。終わった後に「よかったねー」なんて言いながら、その歌について話したり話さなかったりするんだろうな。

ひとりで散歩をしているとき、「この人といま一緒に歩いてみたいな」と思うことがある。しゃべってもいい、しゃべらなくてもいい。「今日さ、こんなことがあってね」なんてたわいもない会話をしながら歩いてもいいし、とくに喋らず、隣にその人の存在を感じながら歩くだけでもいい。目的地があってもいい。ないなら、今いる場所を目的地にして歩き始めたらいい。

そういう人がいるってのは、ひとつ、しあわせなことだよなー。その人が呼んだらすぐに会える人だろうが、会えない人だろうが、そういう人がいるってだけで、心にその人が住んでいるのがしあわせだ。さみしいことのように思うかもしれないけれど、それはたしかに、しあわせなことだと言い切りたいよ、ぼくは。

え?そんな思い浮かぶ人があたしにはいませんだって?あんたにはいなくても、そんなあんたを思い浮かべてる誰かがさ、いるかもしんないよ。


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