紙一重のアウトとセーフを。

*新作を作り続けること。あたらしいものをつくる、というよりも、今の自分の足跡を、どんな形であれ残すこと。大事だと分かっていながら、これがなかなかにむずかしい。拙いものは出したくないし、かといって100点を目指していたらいつまでたっても完成しない。70点あたりで公表する勇気と諦めを持って、やるしかない。ま、だからこそ〆切というのがあるんだろうね。〆切がない作り手はまだまだ二流だろうし、〆切がなくとも自分で〆切をつくっていないうちは、まだまだ三流だぞ、おれ。

新作を出す、というのは、これが今現在の私ですよ、と世の中に見てもらうことだ。いいところもわるいところも上手いも下手もひっくるめて、さらけ出すことだ。当然、賞賛もあれば批難もある。前の方がよかった、とか言われるかもしれない。これが100%なのか?と、自分も他人も思うかもしれない。褒め言葉も、自分が素直に受け取れない場合だってある。誰かに届くかどうかの不安と、自分の力量がはっきりしてしまうことに怯えながら、また新たな景色に向かって歩むことでもある。

それでもやはり、新作を作り続けることだ。120点を目指すよりも、70点を何度も何度も繰り返すことだ。「おもしろくなかった」と言われるかもしれない恐怖に怯えながらも、どうにかこうにか、つくって発表することでしか前には進めない。し、ほんとうの意味で実力もつかないんだろうね。ホームランを狙って悠々自適にベースを回る夢を見るより、紙一重のセーフとアウトを繰り返しながら、なんとかやっていくことだ。アウトになってもめげずに、何度も何度も打席に立つ。そういう者でしかきっと、そういう世界ではやっていけない。これはクオリティとか芸能界の話じゃないよ。あくまで、プロかどうか、でね。

そういうのを気にせずのびのびやるのも良いもんだろうけど、それはそれで、なんだかぬるま湯なような気もする。スポーツがあれだけ人を魅了するのも、勝ち負けという残酷なルールがあるからだし。「打てなくたっていいんだよ」で打席に入ってるうちは、勝負しているとは言わないのかもなー。新作を作り続けることはやっぱり、打席に立つことだよ。紙一重のアウトとセーフを、幾度も積み重ねていくことだ。そうして、磨かれていくものがある。そうして、魅了される人がどこかにいる。と、信じたいね。


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