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映画の感想 死者の名前を記憶する歌

毎度毎度素晴らしい邦題をありがたく----おそらく配給元がワザとやっているに違いない。
「The Song of Names」が「天才ヴァイオリニストと消えた旋律」とは、おいおい。「消えた天才ヴァイオリニストと消えない旋律」ならまだしも。
「見るレッスン」的に耐えるシーンは残念ながらありませんでした。
ですから、映画として誰かに勧められるかといわれれば、NGかな。アマプラでも十分ですよ、と。
ただし、個人的に原題の 「The Song of Names」になっている一種のユダヤのカディッシュが登場したところで、ハッとしました。主人公のひとりダビデとカディッシュとの出会いが何ともとってつけたような筋立てで、ちょっと納得いかない、女のことなんかどうでもよい些末事なのに、どうもそのあたりの伏線としてあいまいに。
それでも、シナゴークでカディッシュがでてきたときには、まさかとハッとさせられ、そして、うんユダヤ社会においてはありそうなことでは、という説得力を感じました。
これをナンシー・ドルーのようなジュブナイル・ミステリーみたいな邦題でお客にうったえられると思っているのかしら。
そもそもわたしも、ハズレでもいいやと映画館に出向いたのです。
先年、イサーリスの弾くラベルのカディッシュを聴いて感激していたのにも助けられました。
褒められるところは、カディッシュを効果的に響かせるために、それが登場するまでは巧みにそれと想像させる旋律を避けたところでしょう。
防空壕の中のダビデと同郷の先輩格ヨゼフのバイオリン合戦はなかなか印象的なシーンですが、主人公が生涯を捧げるのはそれではない、わけですから一種のミスディレクションのためのシーンになります。ヨゼフは故郷と親族の惨状に廃人になってしまいます。

映画「天才ヴァイオリニストと消えた旋律」


加えて「壊れた魂」を読んだ後でしたので、なかなか興味深く見ました。
「壊れた魂」の主人公の父親と中国人女性のビオラ奏者の関係性の「ロマネスク」さの方が信じられます。この「The Song of Names」の脚色の加減がわかりませんが、主人公ふたりの三角関係のもつれは嘘っぽくチープで蛇足だと思います。
ロマンチックな裏切りは、ラストシーンの祈りが惨めになり、ふたりの主人公のどちらに肩入れしても重苦しい気持ちになりました。35年を経ても、昔の傷はやはり「ゴルディアスの結び目」のように感じます。一刀両断した者だけが勝者なのです。



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