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古い扉とパッションと

貴方の一番好きな画家は誰ですか?

と、突然誰かに聞かれれば、何の迷いもなく僕は、佐伯祐三と答えます。

ピカソでもなければ、ピカビアでもなく、モネでもなければ、マネでもなく、僕が一等好きなのは、佐伯祐三に他なりません。

それぐらい、僕にとっては誰よりも、とにかく好きな画家でして。若い頃に、彼の絵をはじめて観た時の衝撃は、未だに忘れられません。

書き殴るような烈しいタッチで、裏寂れた巴里の裏町を描いたその絵は、僕の中の華やかなパリのイメージを払拭して、もう一つの巴里の魅力を教えてくれました。

明るく清らかで朗らかな世界だけが、この世界の美しさではなく、醜く傷つき薄汚れて朽ちてゆく、そんな美しさもあることを、彼の絵はあらためて、僕に教えてくれたのです。

もちろん、それだけではなく、僕は彼の絵から、画家としての情熱や、孤独であることの大切さ、常識からはみ出す面白さなど、そんな人生の哲学さえも、学んだような気がします。

そんな彼の微かな痕跡を探して、パリの街を歩いていると、偶然なのか、必然なのか、僕の目の前に、いきなりふいに現れたのが、この古びた大きな扉です。

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傷ついて、落書きだらけのこの醜く美しい扉を見ていると、おのずと、彼の作品を観ているようで、しばらく動けませんでした。

そこには、傷や落書きだけではなく、目に見えない、夢や孤独や情熱までもが刻み込まれているようで…。


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