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夜のバレリーナ

ある夜、お店に、一羽の蝶がやって来ました。

どこから迷い込んだのか、その蝶は、お店の中を、ひらひら舞っておりました。

まるで、美しい衣装を着たバレリーナのようなその姿に、お店の中のガラクタたちは、みんなで見惚れておりました。

壊れたミシンは、目を見開いて。曇った小壜は、口をポカンと開けながら。汚れた少女の人形も、ため息まじりに、思わず声をもらしたほどです。

「まあ!素敵!なんて綺麗なんでしょう!私も蝶になりたいわ」

もちろん、お店のおじさんも、その様子を観客の一人になつて、食い入るように眺めていました。

なにしろ、ひらひらと舞う蝶からは、キラキラとした光の粒が、さらさらとこぼれていたのです。

やがて、美しいその蝶は、お店の古い地球儀の上に、静かにふわりと舞い降りました。そして、みんな向かって言いました。

「こんばんは。突然迷い込んで、ゴメンなさい。私はみんなが、うらやましいわ。こんなにたくさんの仲間がいて」

それから、淋しそうに、こう言いました。

「それに比べて、私はいつも独りなの。あっちへひらひら、こっちへひらひら、いつまで経っても居場所がないの…」

それを聞いて、みんなは言葉を失いましたが、その後すぐにおじさんが、微笑みながら、蝶に向かって言いました。

「でしたらいつでもお店にどうぞ。ここが、あなたの場所ですよ」

それを聞いて、その蝶は、涙が出そうになりました。出来ればここで、暮らしたいとも思いました。

けれども蝶は、深いお辞儀をひとつして、お店の窓から飛び立つと、ネオンが煌めく夜の街へと、ひらひら舞ってゆきました。


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