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A 五感に依らない嫌な気配を全員が感じた話

体験者:結城さん/30代男性(取材年月日:2022年9月11日)

 先日の体験者・唱さんは、「自分だけにしか感じられない悪臭」に悩まされていました。
 一方で、「不思議な感覚」をその場にいる全員が共有したという報告もあります。しかもそれは目や耳などの感覚器官で捉えた異常ではなく、どうやら「第六感」とでもいうべきものらしいのです。
 もしかしたら、似たような体験をされた方もいらっしゃるかもしれませんね。「ここ、何となく嫌な感じがする」――五感認識だけでは説明のつけられない不思議な感覚。
 その感情をもたらしているものは、いったい何なのか。解明される日はくるのでしょうか。

「この部屋、ヤバくね?」

 30代の男性・結城さんは高校時代にテニス部に所属しており、休みの日には合宿や試合であちこちの県に遠征していました。
 これは彼が広島県のとある民宿に泊まったときの出来事です。

 他校との練習試合を終え、テニス部一同は夕方5時頃に民宿に到着しました。一日張り切って体を動かしたので、みんなくたくたです。早く荷物を置いて一休みしたいと、おのおの自分たちの泊まる部屋へと急ぎました。
 結城さん達にあてがわれたのは、民宿にあるいくつかの部屋のうち、6人が泊まれるくらいの和室でした。結城さんは同室の5人とワイワイはしゃぎながら、部屋に足を踏み入れます。――その瞬間、結城さんはなにか嫌な気配を感じて思わず立ち止まってしまいました。
 入口から見渡す限り、その部屋はごくごく普通の和室でしかありません。窓から光も入ってきていますし、妙に薄暗いとか、変な臭いがするとか、わかりやすい異常は何もありません。ただ何か、言葉では説明できない嫌な気配が充満していて、立っているだけで気分が悪くなってくるのです。

「ここ、なんかヤバくね?」

 誰ともなしにそう言って、みんながそれに頷きました。
 その嫌な気配を感じていたのは、結城さんだけではなかったのです。同室の6人が全員、この部屋によくない気が漂っていることをハッキリ認識していました。

お札探し


 とりあえず荷物だけは置いた6人ですが、さてどうしたものかと考えます。
「こんなに嫌な気配が漂っているってことは、もしかしたら探せばお札が出てくるんじゃないか?」
 幽霊が出るとかラップ音がするとか、いわゆる「いわく付き」の客室には、魔除けのお札が貼ってある――というのが定説です。
 その意見に賛同して、みんなで協力してお札を探してみることにしました。全員がこんなにはっきりと異常を感じるなんて、絶対に何かがあるに違いない。そう思って、みんな部屋の隅々まで念入りに捜査しました。

 しかし結局、その部屋からは何も見つかりませんでした。いやな気配が無くなることもありません。みんなは額を突き合わせて相談しました。
「どうする? 本当にこの部屋で寝るのか?」
 彼らにとってはそれほど深刻な問題でした。原因はわからないけれど、とにかくこの部屋に留まっているのは嫌だと全員が感じています。端的に言ってしまえば、それは「本能的な忌避感」と言えるでしょう。せっかく用意して貰った1室ですが、みんなここで一夜を過ごすことに言い知れない嫌悪感を覚えていたのです。

あの部屋では寝たくない!


 そうこうしているうちに夕食の時間がやってきてしまいました。食事のあとはお風呂に入って、あとは各自に割り振れた部屋で寝るだけです。
 お風呂から上がったあと、結城さん達は「あの嫌な気配は、うちの部屋以外でも感じるんだろうか?」と気になり、他の部屋に行ってみることにしました。6人のうち一人はもうくたくただからと、1人で部屋に残ります。

 結城さん達は10人以上が泊まれる大部屋に顔を出しました。その部屋は広さこそ違いますが、内装も雰囲気も結城さん達の部屋と変わったところはありません。でもその部屋では、結城さん達の部屋に充満していた「嫌な気配」はまるで感じられませんでした。

「俺たちもこっちの部屋で寝ようぜ。……あの部屋だけは絶対ムリだわ」
 結局結城さんたち5人は、少し窮屈ではあるものの、他の部屋のメンバーと一緒にその大部屋に泊まることにしました。疲れて先に休んだ1人を除いて、あの部屋に泊まることを誰もが拒否したのです。

 でも結局、どれだけ頭を捻って考えても、それほどまでに忌避感を覚えた理由はわかりませんでした。

 その部屋に泊まった1人は、幽霊を見たり悪夢にうなされたりといったような被害はなく、翌朝は普通に起きてきました。
 ただ、この1件と関係があるかはわかりませんが、それから少ししてテニス部を退部してしまったそうです。

解釈

 なぜあの部屋からあんなに嫌な気配がしたのか。その原因は何だったのか。結城さんには今でもわからず仕舞いです。
 腑に落ちる解釈は浮かんでいませんが、何かしら霊的な存在が関わっているのではないかとは感じています。

 はじめに述べた通り、結城さんは学生時代に、部活動の遠征であちこちの民宿や旅館に泊まりました。そんな時に彼らがよく部屋で行っていたのが、「お札探し」です。
 1~2人で1部屋をあてがわれるようなビジネスホテルでの宿泊を除き、何人かで一つの広い部屋を使うような合宿では、部屋での暇つぶしにお札が貼られていないかチェックするのです。特にその部屋に掛け軸や絵画などが飾ってある場合は、その裏側を必ず確認します。実際にこれまでにも何度か、部屋に貼ってあるお札を発見したことがあるそうです。

 ある時は天井近くに設置されているエアコンの影に、なるべく人目につかないように貼ってあるものもあったそうで、それを発見した時にはさすがに驚いたといいます。
 ただ、そのようにお札が貼ってある部屋でも、嫌な気配を感じたとか、その部屋で寝るのを拒否するほどの嫌悪感を覚えたことは一切ありませんでした。
 それだけに、お札さえ見つからなかったあの部屋で、6人全員が嫌な気配を共有したことが、結城さんには不思議に思えてならないのだそうです。


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