A 知ったばかりの心霊スポットに偶然巡り合った話
体験者:結城さん/30代男性(取材年月日:2022年9月11日)
「因果性」という言葉で端的に表されるように、世の中の物事は原因と結果によって成り立っていると考えられています。「自分の行い」という原因があって、なにがしかの結果が生じる。両者が単純に結び付けられれば良いのですが――その二項間に何者かの見えない意思が介在しているように思える出来事も、時には起こるようです。
特に原因となりうる行動が「普段の自分ならば絶対にしないようなこと」だった場合は――まるで何かに導かれるようにして、その因果が形作られたように感じられるかもしれません。今回の体験もそういったお話です。
立ち読みした心霊本
テニス部の合宿で泊まった民宿で、説明のつけられない嫌な気配を感じた結城さん。彼は高校3年時の夏休みにも、不思議な体験をしています。
結城さんはその夏、友達と誘い合わせて東京に行こうとしていました。進学を検討している都内の専門学校で、オープンキャンパスが開かれることになっていたからです。
東京出発の数日前のことです。その日結城さんは、何かの用事があって近所に出かけていました。時間に余裕があったので、彼を暇をつぶすため、コンビニに寄って立ち読みをすることにしました。
漫画本や週刊誌……様々な種類の本がずらっと並べられています。その中で結城さんが手に取ったのは、日本各地の心霊スポットを写真付きで紹介する「オカルト系のコンビニ本」でした。
結城さんは心霊モノやホラーといったジャンルにはまるで興味がありません。その手の本は、普段の彼だったらまず真っ先に立ち読み候補から除外する類のもの。それなのに、その日に限ってどうしてオカルト本を読もうと思ったのか――結城さんはその動機をまったく覚えていないそうです。
その本の中に、どのような曰くが伝わっていたかは忘れてしまったそうですが、東京某所にあるという某陸橋の写真がありました。
その時は他に載っていた多くの場所と同様、「日本にある心霊スポットの1カ所」として、結城さんの記憶の片隅に残されることとなりました。
陸橋、現る
それから3、4日して。結城さんはオープンキャンパスに参加するため、東京へと旅立ちました。
詳細な地理は覚えていないそうですが、高田馬場駅を利用した覚えはあるので、おそらくは新宿区内――のとあるビジネスホテルに宿入りしました。
遠方からの出立ということもあり、ようやく腰を落ち着けて一息ついた結城さん。なんとなしにカーテンを開けて窓の外を見た彼は、驚いて目を見開きました。
窓の外、ホテルのすぐ近くに陸橋が見えます。それがどうにも、この間の心霊スポット紹介本に載っていた陸橋のように思えてならないのです。最初はただ似ているだけかとも思いましたが、見れば見るほど同じに見えます。
気になって仕方がない結城さんは、一旦ホテルを出て、そちらの方向に向かって歩いてみることにしました。
「……やっぱりあの陸橋だ」
近くまで寄ってみて、結城さんは確信しました。陸橋も、そのまわりの風景も――あのコンビニ本に載っていた写真そのままの景色が、目の前に広がっていたからです。
不安の表象
その陸橋を目にした時から、結城さんの心には不安な気持ちが込み上げてきました。
――あまりにもタイミングが良すぎる。たまたま気まぐれに、普段読まないような心霊系の本を手に取って、そこに紹介されていたスポットにたまたま行き当たるなんて。しかも自分が本を読んでから、たった3日ほどしか経っていないのです。
体験した当時は、その陸橋にどんな曰くが伝わっているかも当然覚えていましたから、その内容も自然と思い起こされてきます。少なくとも、「行けば幸運になれる」といったプラスの内容のものではなかったのは確かです。
結城さんは、これは何らかの不思議な力が働いているのではないか。この陸橋に巡り合ったのをきっかけにして、これから自分の身に何か悪いことが起きるのではないかと、そんな嫌な想像が頭に湧きあがってきました。
不安な思いを抱えたまま東京で過ごすことになった結城さんでしたが、オープンキャンパスも無事に終わり。幸運にも、その陸橋と直接かかわるような悪いことは何も起きないまま、帰途につきました。
帰ってきた結城さんはさっそく近所のコンビニへと出かけました。あの本はまだ売れずに残っていたので、パラパラとページをめくって確認します。
『東京都〇〇区 ××陸橋』
そこに載っている写真は、確かにあの日自分が見た通りの陸橋だったのです。
解釈
普段ならまず読まないような本を手に取って、そこに載っていた場所に導かれるように行き当たった――その陸橋が東京のどこにあるのか、どのような曰くが伝わっていたのかすっかり忘れてしまった今。なぜそのような不思議が起きたのかについても、思い当たることは何もないと結城さんは言います。
ただ、結城さんは昔からインスピレーションを感じ取る力が人より強いという自覚があります。良きにせよ悪しきにせよ、まるで図ったかのように物事のタイミングが合ってしまうことがしばしばあるのだそうです。
今回の一件も、外的要因(陸橋に引き寄せられた)か内的要因(陸橋を引き寄せた)かはともかくとして、彼の持っているそうした力が作用した結果なのかもしれないとは考えています。
※トップ画像はイメージ写真です。
本文中で語られた陸橋についてご存じの方は、ご一報頂けると幸いです。
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