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A 一人だけ姿が消失していた心霊写真の話

体験者:ケイさん/20代男性(取材年月日:2022年9月13日)

 真実を写す、と書いて写真――カメラは真実の世界をありのままに写し取るものだと思われがちですが、時には人間が感知できない存在を捉えた写真を生み出してしまうことがあります。一般に「心霊写真」と呼ばれる類のものです。

 オカルトな内容を取り扱うテレビ番組でも、心霊写真特集は定番中の定番。さまざまな不気味な写真たちを目にされたことのある方は多いでしょう。また学生の頃、遠足や修学旅行中に撮った写真の中に、心霊写真が混じっていないか探したことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 これはデジタルカメラが世間一般に普及しはじめた頃。フィルムからデジタルへと移行する過渡期の頃に撮られた、一枚の不思議な写真のお話しです。

不気味な写真

 20代の男性・ケイさんがまだ小学生だった、2002年頃に体験した出来事です。
 ある日の19時ごろ。ケイさんたち家族は自宅のリビングに集まって、久しぶりにお父さんと顔を合わせました。彼のお父さんはその日、仕事の出張先である中国から帰って来たばかりだったのです。お土産を貰ったり、中国がどんな所だったかを聞いたり、和やかに家族団らんの時間を過ごしていました。

 「実はな、中国ですごく珍しい写真が撮れたんだよ」そう言うとお父さんは、一枚の写真データを見せてくれました。
 お父さんの話によれば、取引先の人に連れられて出かけた酒場で撮った一枚とのことです。ケイさんたちはお父さんを囲んで、その写真に注視しました。――それは確かに奇妙な写真だったのです。

 写真が撮られたのは酒場の店内。酒場に勤務する接待役の女性とケイさんのお父さんが、真っ赤なソファーに並んで腰かけている写真でした。背景には室内を照らすランプやインテリアらしき小さな仏像など、さまざまな調度品も写っています。
 奇妙なのはお父さんの隣に座っている女性の姿でした。髪の長いシルエットから確かに女性だということはわかるのですが……その人の体がすっかり透明になってしまっているのです。もともと室内が薄暗いのもあってか、胴体は真っ黒な影法師に。さらに顔面は完全に消失してしまっていて、座っているソファの背もたれや、その背後の窓ガラスなどが透けて見えるのです。
 もしかしたら、手ブレか何かでぼやけてしまったのでは? とも思いましたが、その女性以外に写っているもの――ケイさんのお父さんや、後ろに並んだ家具などにはなんの影響もありません。確かにその女性一人の姿だけが薄れて消えてしまっているのでした。
 この写真を撮影したのはデジタルカメラでしたが、撮ったその場でデータを確認して、そのまま自宅に持って帰ったもの。もちろんパソコンソフトで編集をしたわけではありません。

なぜ消えた?

 「何これ、スゴい!」
 「本物の心霊写真じゃん!」
 写真を目にした家族たちは大いに盛り上がり、お父さんもその様子を楽しそうに見つめていました。人や物がたくさんある中で、たった一人だけが透けてしまっている――納得のいく説明もつけられないので、これは正真正銘の心霊写真だろうとみんな口々に言いました。
 どうしてこのような写真が撮れてしまったのでしょうか。みんな便宜上「心霊写真」と呼んではいたものの、いわゆる「幽霊が映りこんでいる」といったタイプの写真ではありません。
 そのため写真の解釈についても、「霊的な存在が現れたから消えた」のではなく、「何かしらの予兆が現れているのではないか」という意見が多く出ました。
 ケイさんのお母さんたちが考えていたのは、「ケイさんのお父さんではなく、体が透けてしまっている女性に、これから何か悪い事が起きるのではないか?」というものです。

 結局はっきりとした答えは出ませんでしたが、とにかく家族全員「これはすごい写真だ」ということで意見が一致しました。小学生だったケイさんにとっても非常に興味深く思え、その写真の不可解さが鮮烈に目に焼き付いていました。

 その後ケイさん一家は、珍しい写真ということもあって、印刷した写真をしばらくリビングに飾っていたそうです。

その後のお父さん

 ケイさんのお父さんは根っからの理系で、量子力学などの学問領域にも深く関心があります。お父さんはこういう写真が撮れるのは極めて珍しいのだと家族に力説しました。
 「もしも本当に女性が透明になってしまったのであれば。科学的に考えるならば、その確率はどれだけ少なく見積もっても数兆分の1という途方もない値になる。だからこそ不思議な写真なのだ」と語っていたのです。

 科学的な態度を掲げる一方でお父さんには信心深い一面もあり、大きな事業に携わる前にはお祓いや厄除けなどに必ず行くようにしています。
 今回の心霊写真に関しては、お父さんは姿が消えた当事者ではありません。なのであえてお祓いをしてもらう事は無かったのですが、実際お父さんの身に不可解なことは何も起こりませんでした。

 気になるのは、姿が消失してしまった女性の顛末です。とはいえお父さんは酒場で一度顔を合わせたきり。彼女のその後については知る由もありません。ただ、姿が消えたのは凶事の前触れだろうという家族の考えについては同意見でした。
 お父さんは件の女性について「たぶん死んだろうな」と直感しています。

解釈

 ケイさんもお父さんと同じく理系の道に進みました。彼もまた、世界を科学的に検証することを大切にしています。

 女性が消えた写真についてはいまだに不可解なままです。何が作用してそのような現象が起きたのか、本当に未来に起きる悪いことを知らせていたのか、「こうだろう」という確かな答えは持ち合わせていません。
 ただ、お父さんが言っていた「人が透明に写るのは量子力学的にも非常に低い確率だ」という意見を踏まえて、当時も今も、強い関心を持ち続けています。
 今回の取材にあたってケイさんは改めて写真を見返してみましたが、「やっぱり当時のデジタルカメラ一つでどうにか出来るようなものではないな」と実感したそうです。

 いったいどういう仕組みでこのような写真が撮れてしまったのか、ケイさんはその答えを知りたいと思っています。


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