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Resu
2016年3月8日 23:23
強盗になりきれなかった私は、弱盗になった。人の弱さを盗み取っては売りさばくのだけれど、弱さなんてだれも欲しがらない。増えてゆく弱さの在庫。弱さを盗まれた人たちは強さしか残らず、立派な強盗になっていく。奪われた弱さには見向きもせずに。
2016年1月28日 23:30
旅立ちの前日、みんなが別れを惜しんで、送別会をひらいてくれた。「あなたがいなくなっちゃうなんて寂しい」「私も、私がいなくなっちゃうなんて寂しい」いなくなってしまった私のことを、今でも私は考えるのです。
2015年11月4日 21:48
チェリーみたいな赤紫の実が、髪の毛先にぽんと生えるようになった。最初は気味悪くて捨てていたけど、バカな弟が口にして「美味い」の一言。それから私の髪の実は大盛況。おやつ代わりに友達によくもぎられます。だけど好きな人には絶対に食べさせない。この気持ちの意味は、髪の実ぞ知る。なんてね。
2015年3月2日 23:18
「もう現実なんか見たくない」「目を背けるんなら、背けた先にちゃんと見るもの用意しとかなきゃね」「何も見たくないんだよ」「でもあんた見るものなかったら、自分を発見できないじゃない」「じゃあ、君を見る」「そうしなさい」 それからずっと、一緒にいる。 現実よりはいいものを見つめ続けて。
2015年3月1日 17:40
この国のどこかに『でも』が密集している部屋がある。『でも』の主張は一貫していた。どれだけ考えても、どれだけ納得しても、どれだけ感銘を受けても、どれだけ変わろうとしても、どれだけ笑われても、でも、私にはできない。それでも活動は続く。部屋の中を回っているだけなのに、いつまでも。
2015年3月1日 17:23
私にできないことならやりましょう、と、全能の神は言った。できることしかないなんて、無能な神ですね、と私は言った。できないことを探して、神は私の家に居候している。
2014年10月6日 06:34
スマートフォンの画面が光ったと思って見つめると、それはバックライトがきえる瞬間で、視界の端でとらえる光の消失が、いつもまぶしい。光は失うときがいちばん輝いている。星と同じだ。光を失うことで、光っていたという事実が鮮明に届く。消失のきらめきは何よりも輝かしく、心を惹きつける。
2014年8月2日 21:49
「なんかもう出がらしで生きてる気がするんだ」「余生みたいな?」「そう余生。でもね、冷静に考えてみれば、生まれたときからみんな余生なんだよ!」「……うん、そんなどや顔で言われても困るけど」「そんで余生のあとには余死があるわけさ!」「おーよしよし」「慰めなんて……慰めなのそれ?」
2014年7月27日 13:40
「なれあいというのは一人じゃできないので、一方通行の場合は「なれ」と呼ぶべきです」という論を後輩は唱える。「私と先輩で言うと、先輩からのなれですね」「いや俺はおまえになれてないけど」なぜか驚愕されて、以来、なれるまでという名目で付き合いが始まった。なれあいはまだ完成しそうにない。
2014年7月19日 05:18
生まれたあなたは世界最年少の心を育て始める。心は子孫を残さないし、別れることもできない。死ぬまで一緒に生きていく。時には色を変えたり、姿を隠したり、声を失ったりもするけれど、いつでも離れることはない。どうして私なんかを育てたの、と聞かれる時もある。それでもあなたは心を手放さない。
2014年4月17日 19:17
これで最後と決めていた。自転車で追い抜きざまに、老婆が大事そうに抱え込んでいた手荷物を奪い取る。バッグの中には硬貨の一枚もなく、真っ白な卵が一個だけ。どうしたものかと悩んでいると、殻が割れてピアノが出てきた。小さすぎて鍵盤が押せない。太く歪に育った自分の指をじっと見る。
2014年4月18日 01:33
落ちこぼれを拾う仕事をしている。今にも落ちこぼれそうな人を見つけ、監視し、落ちこぼれた瞬間にさっとすくい上げて混乱させる仕事だ。落ちこぼれたはずだったのに、折りよくおさまっている事に気付いたときのあの顔!頼むから落ちこぼれさせて下さいなんて頼んできた奴もいたが、俺は容赦しない。
2014年4月18日 17:53
自分の気持ちを分かってもらえず、泣いてばかりいる娘がいました。娘を憐れんだ魔女は、魔法をかけてあげました。するとどうした事でしょう。娘が流す涙に、感情が宿ったのです。「お腹がすいたよ!」「眠たいよ!」「寂しいよ!」一粒ごとに、娘の感情を呟く涙たち。娘は思いました。正直すごく邪魔。
2014年4月19日 10:44
ママのご飯が世界一おいしい、と息子は言った。「パパもそう思うよね?」何気ない息子の呟きに、私は答えられなかった。翌日、私は長い休暇を取り、息子を連れて世界中を回る旅に出た。ありとあらゆるご飯を食べ、記憶する。帰国後、自宅に妻の姿はなく、私は息子の言葉を証明できないことに涙した。