現象のパワー、マジシャンのノイズ、そしてその効率
現場に出ているマジシャンの演じるトリックにおいて
まあ、似たり寄ったりになってきたり
というのは、ありうることです。
原資がかかるようなトリックを繰り返しできるだけの
ギャラを頂ける場なら別ですが
そうではないなら、扱うアイテムやトリックは
似てくるとは思います。
ただここ最近は、そういった事を勘案しても
どうにもネタが似てきているようで。
フォークまげて、キューブ揃えて、スマホでメンタルして
アンビシャスでも行う、のような。
しかも、演じる手順に関して、既にリリースされている
手順そのままで、それぞれのマテリアルにおいて
学んだ手順を作った人のキャラクターまで引きずるような。
もちろん、僕もそういった時期を通ってきたので
あまり強くは言えないのですが
とはいえ、あまりにもマジックを学ぶ範囲が
狭くないか?と思うことも。
で、大抵ね、そういった発表されるものって
パワー強めのトリックになってくるわけで。
そうすると、無駄にパワー強めの現象が
あまり意味なく並んでいる手順になるわけです。
韓国のマジシャン・ルーカスのノートでも書かれていますが
現象の強弱をつけることで、目立たせたい現象を
より強く相手に見せられるようになるわけです。
見ている観客の認知や感情の起伏など、それを考えておき
現象の強弱などを考えて手順化していくのが
僕は当たり前のことだと思っております。
簡単なことではないですが、諸先輩やDVD等から学んできて
そういった部分が大事だな、という事は
学んできました。
相手の感情の動きなどを無視して、演者側の勝手な「手順」
の流れに乗らないといけないという事が伝わるから
それを見ている観客がヘックラー化するきっかけになることも
あると思っています。
お笑いにおいて、「緊張と緩和」の理論があることは
有名だと思います。
2代目桂枝雀師匠が提唱したもので、様々な所で引用されています。
現場のマジックにおいても、この緊張と緩和は必要であり
緊張しっぱなしでは、相手は疲れますし
緩和ばかりでは、恐らく不思議を感じないでしょう。
現象が起こり、何らかのオチが付くことが緩和につながり
相手は落ち着くわけです。
たまにオチを先に言う人がいますが、あれって
恐らく緊張のレベルが十分に上がってないから?
なのでは。
緊張してくると、頭はビジーになり、視野は狭まり
何かに集中していくので。
これはマジックの現象だけで起こることではなく
落語で起こるわけですから、話芸をきちんと行う事で
マジックでの緊張度合いを強化することも軟化させることも
可能になると思います。
どれだけパワーが強い(不可能感が強い?)ものでも
オチが見えたら緊張は起こらないし、オチが想像できても
そこに到達する経路があり得ない、と相手が思うなら
それはそれで緊張感は上がるはず。
例えばこういった事を考えながら、手順を作ってる?
って思ってしまうわけです。
小林は、意図的に弱いエフェクトを入れるわけです。
緊張をあまりさせない、緩和までが早いなど
そして、メインで見せたいことに対して
裏で準備していき、緊張と緩和のギャップを作り
驚きを強くする感じでしょうか?
手順全体、またはパートでもそういった事を考えます。
昔から僕を知っている人からすると
「なんで洋介が「大人のたしなみ」とか「AI美女画」を
扱っているのか分からない(笑)」
なんて言われますが、緩和部分を強制的に作り上げるアイテムであり
この後に演じる真面目なマジックのパワーが相対的に
強く見えるわけです。
それが例え、シンプルなカード当てのトリックだとしても
十分に手順のオチになるようなパワーを持ちます。
つまり、パワーのあるトリックを「無駄に」繰り出しても
そのパワーは十分に伝わらないのです。
なぜなら相手は緊張しっぱなしで、ガードが強くなっているような
状態だからです。
そして、そういった「目に見えない動き」に対して
学んでない、経験してない、意識してない、興味がない
マジシャンは、相手のリアクションを見て
「ウケない」
って思うわけです。
それって自分が生み出した結果なのに
なので、また新しいトリックやパワーのある現象を
探し求める、という悪循環に・・・
マジックのパワーを適切に届けることができるなら
実は、僕らが思っている普通のトリックで
十分に楽しんでもらえると思っております。
そして、上手く手順を構築すれば
想像以上に容易に相手は不思議を感じますし
そして楽しんでくれるものです。
今の自分が頑張ってパワーのあるモノを演じないと
いけないという事は、何か無駄があり
それゆえに威力が十分に伝わってないと思った方が
良いと思います。
相手にパンチを打つ際に、力んで思いっきり行うより
リラックスしている状態で、自身の身体を柔軟に使う事で
より効率的にパワーを伝えられると思います。
(まあ、北川先生は少々特殊かと思いますが、とはいえこの中で語っている対人関係における、脱力・リラックスは非常に学びの多いものかと)
マジックのパワーをきっちり伝えるために、相手の感情の動きを
考えたり、それに合わせて手順を考えたり、ももちろん重要です。
ただ、もう少しシンプルに、自身がマジックのパワーを
奪っている動作をしている事もあります。
このノートの中でもノイズに関して触れている部分があったかも
しれませんが、このノイズが走ることで、観客の意識が
そっちに持っていかれて、マジックのパワーが
十分に伝わらないことがあります。
ココでのノイズとは、ざっくり行ってしまえば
「無駄な動きやセリフ」
です。
矛盾のあるセリフ、無駄にカードをリフルしている
ふらふら動く、ポケットの中に手を入れているなどなど
そういった動作によって、観客の頭のRAMを奪ってしまうわけです。
不思議な事って、ちゃんと見て理解してもらわないと
いけないために、このRAMに無駄なものが無いというのは
非常に大事なことになります。
なので、十分なRAMが無いと、そこからマジックがこぼれて
相手に十分な不思議などが伝わらないわけです。
繰り返しに?なりますが、僕にとっては
こういった考え方は当たり前の事であり
決して強く主張することでもありません。
みんなが知っている必要もないのですが
分かっている人は、こういった感覚を持ち合わせている
事を感覚として知っています。
だから、無駄にRAMを使わせるようなことをしていると
相手のお腹にミットをいくつか置いてパンチを
そこにやっているように見えるのです。
そりゃあ、あまり威力は無いよね、と。
マニア出の僕らのような人たちは、自然と無駄な
動作を減らすことを考えます。
ただ、そうすると、相手にとってあまりにもスムーズに
進みすぎてしまう事も。
なので、適度なノイズを生み出しつつも
そのタイミングや分量なども意識してコントロール
していくこともまた、マジシャンの仕事になるかと思います。
だからね、そういった「マジック以外」の事柄を
考えていくと、マジックそのものの難易度って
下げて行かないとどうにも自分のRAMが埋まってしまうんです。
狙ったほどマジックに驚いてなかったり、パワーが不十分ある場合
ノイズの分量や自身のRAM、そして相手の中の感情の動き
そんなことを考えていけば、より良くなるのでは?
マジックのパワー、単純にその現象の強烈さを上げれば
相手が驚いてくれるわけではないんですよ。
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