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吉田修一が好きすぎる。 「おかえり横道世之介」を読んで
読みました。
人生のダメな時期、万歳。人生のスランプ、万々歳。
青春小説の金字塔、待望の続篇。
バブル最後の売り手市場に乗り遅れ、バイトとパチンコで食いつなぐこの男。名を横道世之介という。いわゆる人生のダメな時期にあるのだが、なぜか彼の周りには笑顔が絶えない。鮨職人を目指す女友達、大学時代からの親友、美しきヤンママとその息子。そんな人々の思いが交錯する27年後。オリンピックに沸く東京で、小さな奇跡が生まれる。
『続 横道世之介』を改題の上、文庫化。
前作「横道世之介」は大学1年生の1年間。
今作は25歳になった世之介の1年間が描かれます。
ほんとにおもしろかった。
最高でした。今年読んだ小説で1番か2番。
主人公の世之介の人間性が魅力的。
世之介の心の中の葛藤が上手に書かれてます。
真剣なシーンで的外れな事がどうしても気になってしまう「心の中の脱線」が瑞々しく表現されてて好き。
例えば、床屋の理容師と話していて、褒めようとしたのに、相手の事を何て呼べば良いか悩んで、考えてるうちにタイミングを逃してしまったりとか。
人間らしくて、あるあるとも言える心の中の動き。
誰しも1つは共感できるんじゃないでしょうか。
前作、19歳の頃はセレブな彼女祥子のお兄さんに誘われてクルーザーパーティに参加していた世之介。
今作は対照的にヤンママの彼女桜子の実家の自動車整備工場で働いてます。
どんな場所でも愛されて、周囲に馴染んでいく不思議。世之介いいやつだなー。
こんな人間でありたいと思わされました。
そして、桜子の実家、家族がとても明るくてサバサバしてて魅力的。
吉田修一、こんな感じのヤンキーファミリーとか工場労働を魅力的に書くのがうますぎます。
作業着で汗をかいて、煙草休憩で一服して、仕事が終われば酒飲んで。
工場で働きたくなる。
し、昔2〜3か月工場で働いてた頃の良い思い出に浸れました。
「ひなた」とか「東京湾景」でもそんな感じだった気がする。
僕が一番好きなシーン。
寿司を目指している浜ちゃんが、スーパーで買い物をしている世之介と桜子を見て言います。
なんか私にしても、コモロンにしても、みんな、いろんな夢を追ってるじゃない。でも、結局、そのゴールって、こうやって楽しそうにスーパーでちらし鮨買ったり、おいしかった焼肉のタレ、探したりすることなんじゃないかなって
んー。納得。
僕は、有名な“メキシコの漁師“の寓話を思い出しました。
メキシコの田舎町の海岸に小さなボートが停泊していた。 メキシコ人の漁師が小さな網に素晴らしく生きがいい魚をとってきた。
それを見たアメリカ人旅行者が尋ねた。
「すばらしい魚だね。どれくらいの時間、漁をしていたの?」
すると漁師は 「そんなに長い時間じゃないよ」 と答えた。
旅行者が 「もっと漁をしていたら、もっと魚が獲れたんだろうね。おしいなぁ」と言うと、漁師は「自分と自分の家族が食べるにはこれで十分だ」 と言った。
「それじゃあ、あまった時間でいったい何をするの」 と旅行者が聞くと、漁師は「日が高くなるまでゆっくり寝て、それから漁に出る。戻ってきたら子どもと遊んで、女房とシエスタして。 夜になったら友達と一杯やって、ギターを弾いて、歌をうたって…ああ、これでもう一日終わりだね」と答えた。
すると旅行者はまじめな顔で漁師に向かってこう言った。
「ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得した人間として、きみにアドバイスしよう。いいかい、きみは毎日、もっと長い時間、漁をするべきだ。 それであまった魚は売る。お金が貯まったら大きな漁船を買う。そうすると漁獲高は上がり、儲けも増える。その儲けで漁船を2隻、3隻と増やしていくんだ。やがて大漁船団ができるまでね。 そうしたら仲介人に魚を売るのはやめだ。 自前の水産品加工工場を建てて、そこに魚を入れる。 その頃には君はこのちっぽけな村を出てメキソコシティに引っ越し、ロサンゼルス、ニューヨークへと進出していくだろう。 きみはマンハッタンのオフィスビルから企業の指揮をとるんだ」
漁師は尋ねた。
「そうなるまでにどれくらいかかるの?」
「20年、いやおそらく25年でそこまでいくね」
「それからどうなるの?」
「それから?そのときは本当にすごいことになるよ」と旅行者はにんまりと笑い、「今度は株を売却して、きみは億万長者になるのさ」
「それで?」
「そうしたら引退して、海岸近くの小さな村に住んで、日が高くなるまでゆっくり寝て、日中は釣りをしたり、子どもと遊んだり、奥さんとシエスタして過ごして、夜になったら友達と一杯やって、ギターを弾いて、歌をうたって過ごすんだ。 どうだい。すばらしいだろう?」
大好きな話です。
ゴールって一体どこにあるんでしょう。
結構すぐ近くに、既にあるけど気付いていないだけかもしれない。
スーパーの買い物。馬鹿にはできない、幸せのひとつだと思う。
今作の時代設定は1993年。
1991年生まれの僕は当時2歳。
全く記憶はないけど、どこか懐かしい感じがして不思議。
雅子さま、吉原炎上、レンボーブリッジ。
時代を象徴するようなフレーズがたくさんあって、
当時はこんな感じだったのかーと。まるでその時代を過ごしたかのような錯覚を味わえました。
1993年に旅をしたような感覚とも言えます。
僕が生まれた頃の両親に思いを馳せました。
自分が生きていない時代を味わえる、読書の魅力を堪能しました。
1993年に生きた人も当時に浸れるはず。
総じて、僕は吉田修一の小説大好きです。
まだ読んでないのをはやく読みたい。
超おすすめです!
以上
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