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いちごの在野研究所を目指して@伊東・伊豆高原  第4回 夏イチゴの栽培ガイドを、伊東・伊豆高原用にカスタマイズ

いちご生産者用と家庭園芸用の両方で通用する栽培管理方法を模索

準備課題 栽培環境・方法の選択肢を考える

伊東・伊豆高原の地域の特性から、副業型のイチゴ生産者用と家庭菜園用の双方に適した栽培環境・方法を考えることとした。

夏イチゴについては品種開発者の信州大学の試験栽培データを参照。栽培条件の基礎資料として活用することとした。

いちごは果菜類の中で出荷金額では、トマトに次いで2番目に大きな農産品である。 1990年代から、自治体・JA等で品種開発が進み、各自治体(県単位が多い)が、差異化のために独自品種を商品化し、自治体内のいちご生産者に「栽培ガイドライン」資料と共に、営農指導・産地ブランド強化を図っている。 

静岡県では、「紅ほっぺ」の特性と栽培技術 ~試験データから読み取る栽培管理~ 静岡県農林技術研究所著を発表し、様々な栽培管理パラメーターと参照栽培データを示して、いちご生産者の営農経営にとって貴重なデータを提供している。 筆者は、冬春いちご「紅ほっぺ」の栽培に2011年から係わり、2017年より伊豆高原でいちご生産者として「紅ほっぺ」のいちご栽培を行って来た。 

本試験栽培着手以前に、夏いちごの信州大品種を導入している関係者より、冬春いちごと夏いちごの品種特性、栽培管理方法は大きく異なると指摘されていた。そこで、以下の公開情報等を参考にし、地域環境に沿った栽培環境・方法を実施することとした。 

参照試験データ: 品種開発者である信州大学が発表した「信大 BS8-9ʼの品種特性と栽培指針」信州大学農学部 蔬菜花卉園芸学研究室著が公開されている。信州大の参照試験データを、伊東市・伊豆高原用にカスタマイズして実施

カスタマイズ検証事項①  家庭菜園向けに屋外プランター栽培への適用
培土種類/1株あたりの培土量、液肥資材等の選定、栽培管理方法については、施設園芸/高設栽培と同様(いちご生産者仕様)に出来るだけ近い栽培環境の下で検証栽培を行う。 カスタマイズの際の考慮事項は以下の通り。・培土種類は、いちご専用培土と同等の成分のものを選定・高設栽培システムの代替としてプランターを使用、但し、1株あたりの培土量は、冬春いちごの高設栽培システムと同等以上とした。・液肥は、冬春いちごの高設栽培で静岡を含めて広く普及している液肥メーカーの製品を使用・屋外環境: 試験栽培への参加者には屋外での栽培環境をご用意頂いた。豪雨時には、それを避けるプランターの移動も併せて推奨した。冬春いちごについては、県別の単収(単位面積あたりの収量)および、単収から試算できる1株あたりの収量生産性が、様々な組織より公表されている。夏いちごについては、冬春いちごと比較して、単収が相当量小さい、および、1粒平均果重が小さいと言う特性が示唆されていた。 

カスタマイズ検証事項② 温暖な伊東・伊豆高原を考慮に入れた定植後初期期間(4-5月)の栽培管理方法
伊東・伊豆高原の定植時・栽培初期(4-5月)の温度環境は温暖で、信州大学の栽培指針では明記されていないが、伊東・伊豆高原地域の最低温度より遥かに低温環境を前提としていると思料される。従い栽培管理方法についても温度環境の違い(特に、定植後初期の4-5月)を考慮に入れた試験栽培を実施した。検証事項としては、(伊東・伊豆高原の4月-5月が温暖な栽培環境での栽培管理)x(屋外プランター栽培)と言った、長野県での高設栽培と異なる栽培環境で試験栽培を実施することとした。 評価事項としては、夏イチゴの現状産地の施設園芸のいちご生産者の収量生産性とどの程度の違いがあるか比較することとした。

自分で育苗するか、定植苗を購入するかの選択肢の課題

いちご栽培には「育苗の栽培管理」と「定植後の栽培管理」の2つの管理プロセスがあるが、育苗の生育管理が定植後の生育・収穫に大きな影響を及ぼすことは、いちご生産者が身に染みて実感していることである。試験栽培の参照文献である「紅ほっぺ」の特性と栽培技術 ~試験データから読み取る栽培管理~ 静岡県農林技術研究所著、「信大 BS8-9ʼの品種特性と栽培指針」信州大学農学部 蔬菜花卉園芸学研究室著の中でも、親株からの採苗(ランナー受け)、施肥管理、防除管理の推奨方法について相当量の記載がある。

特に、「紅ほっぺ」の特性と栽培技術の中では、育苗方法の違いによる定植後の収穫量の影響の試験データが発表されており、いちご栽培に占める「育苗」管理の重要さが示唆されている。

作るか、または、買うかは、最重要課題の1つ。その選択肢は、農園経営の考え方次第であろうが、選択の際に考慮すべき点には以下が挙げられる。

・ランナー受けの親株の手配、育苗場所の確保・花芽分化、その後の収穫量に影響のある育苗管理方法の習得

・育苗の防除方法の習得・育苗管理に要する時間(育苗期間+定植後生育期間=いちご栽培期間)

家庭菜園、自給的農、副業農、専業農の各々のケースで、育苗の経済的生産性に対する見方が異なる。 専業・大規模生産者にとっては育苗コスト(●●円/苗)の経済計算は全体の営農計画にとって重要な指標となる。 

家庭菜園/自給的農/副業的農の場合は、経済生産性とは異なる「イチゴと共に暮らすライフスタイル価値」の視点からの選択肢となる。
本夏イチゴ試験栽培2023では、長野のいちご生産者で育苗された定植用苗を購入。 定植後での試験栽培課題に注力することとした。

いちご栽培の文献から読み解く栽培管理条件&観察ポイント

参照文献とした「紅ほっぺ」、「信大BS8-9」各品種の栽培ガイドラインで、管理すべき栽培条件と観察ポイントについては、公開されている試験データの濃淡の違いはあるが、概ね以下のパラメータに着目して栽培管理と観察を推奨している。

・定植関係: 定植時期、定植の際の株間長さ、定植準備作業潅水管理:
・給液のEC値による濃度管理、廃液EC値測定による給液濃度調整、培土の推奨
・水分率温度管理: いちご栽培にとって適温な温度環境づくりの調整
・摘芽/摘葉/摘花管理: 収量の最大化、病気予防のための株の管理

試験栽培の検証課題

屋外プランター栽培(家庭菜園)、小型ビニールハウスで、いちご生産者と比較してどの程度の収穫量が実現できるか?、または、どの程度の違いが出るか? この点を試験栽培での検証課題とした。

伊東・伊豆高原で栽培管理でカスタマイズした重要事項

信大の栽培指針の文献の中では、定植後45日間は花房(恐らく頂花房のこと)を摘除して、株の育成を図ることを推奨している。一次腋花房(5月28日∓18.0)から収穫に持っていくので初収穫は7月としている。

伊東・伊豆高原は、信大の試験栽培地の長野より温暖であり、4-5月の株の生育が旺盛であったことから、頂花房の摘除を行わず収穫に持って行ったととした。 結果としては、摘除しなかった花房から相当量の早期収量が実現出来た。 4-5月の早期収量は、夏イチゴの信州大の試験データ文献では見られない傾向である。

夏イチゴ試験栽培2023 では、「花房の連続出現」/「出蕾/開花/着果」については検証目的のために、摘除/摘果をせず放任管理とした。
その分、開花の果実番号順の収穫果重を観察ポイントとした。

花房の連続出現:長野県の夏イチゴ生産者を見学させて頂いた時、信大の栽培指針文献に「花芽/花房の連続出現」が示唆されていたが、 定植後1か月程度(4-6月)で花房数の増加が顕著であり、7月になっても同様。「紅ほっぺ」冬春いちごの生産者にとっては、花房数の多さが収穫量にどのようの反映されるか等、未知なる体験であった。・

伊東・伊豆高原では、4-5月の温暖な気候故に、屋外プランター栽培、小型ビニールハウス栽培共に、早期収量が上がる栽培地としての優位性があることが確認された。小型ビニールハウスではそれが顕著に現れていた。

高設栽培システム vs 屋外プランターの培土量の経済性

高設栽培システムはいちご生産地域毎に独自のシステムが開発・販売されており数十種類さるとされている。 高設ベットの種類により培土量が決まり、初期設備投資の経済性に影響する。

静岡県西部で普及が進んでいる発泡スチロールベットで株間20センチで2条植えの場合、1株あたりの培土量は3リットル程度となる。今回、試験栽培用の施設園芸ハウス内に設置した高設ベットは、この発泡スチロールベットと、ハンモック式と呼ばれるベットの2種類である

ハンモック式は培土量の調節が出来るが、信州大の夏イチゴ品種のライセンス契約窓口となっている業者は、5リットル程度のハンモック式のベットを推奨している。

夏イチゴ試験栽培2023で、屋外プランター栽培の培土前提量は5リットル強とした。今回、試験栽培参加者に推奨したプランターは、1株用と2株用のプランター。いずれのプランターについても、培土量は5リットル程度となる。

今回の試験栽培のプランター栽培においては、信州大学の栽培ガイド公開文献を参照して栽培条件を決めた。

高設ベットシステム用に推奨している潅水量(給液量/廃液量比)、液肥濃度は、培土の種類、および、培土量等、いちご生産者の栽培条件に可能な限り近づけたプランター栽培環境の下で栽培を実施した。

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