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モノをことばで表すということ

たまには、仕事に関連したnoteも。今回は「モノの特性をことばで表す」ことを、職業ライターの立場から簡単に書いてみます。自分の作品を説明するのが苦手なクリエイターさんや、学生さんにも、多少役に立つかもしれません。(ちなみに、サムネイル写真は全然関係ない。ことばにしにくい、ある日のミラノです)

もう10年ほど前になります。大学生時代、わたしはデザインエンジニアの山中俊治教授の慶應の研究室に所属していました。

関わっていたプロジェクトで、使用するパーツについての説明を先生から求められ、わたしはとっさに「とても薄い部品です」と言いました。案の定「どのくらい薄いの?」と聞かれたのだけれど、あろうことか「えー…とても薄いです…」としか答えられませんでした。呆れながら笑われたのを、今でも覚えています。(山中先生は、0.2mmの誤差を見抜く人なのだ)

こんなポンコツな説明をしながらも、デザインの勉強をしていたわたしが、今では文章を書く仕事をしています。このエピソードは、モノとことばの関係そのものです。もちろん、ダメな例だけれど。

雑誌などでプロダクトの説明をするときには、どうやったらそのプロダクトが最も端的に伝わるかを考え、限られた文字数のなかでことば選びをします。写真を見せればよい、と思うかもしれないけれど、質感や素材感、重さなどはなかなか一枚の画像だけでは伝わりません。それをどうにか、ことばから想像してもらうのが仕事です。

今回はあくまで、仕事としてモノの特性を伝えることに重点を置いて書いてみます。エッセイや小説の場合は、この限りでは全然ないです。そしてあらかじめ書いておくと、伝え方の方法は人それぞれだし、もちろん媒体によっても違うから、これが正解、というわけではありません。あくまで一例。

例えば「非常に軽くて、高級感のある一眼レフ」を説明したい場合。

お気づきの通り、「軽い」というのは数値で表現できるし、相対的な基準があります。もう一つの「高級感のある」というのは、絶対的な指標はないもの。とても主観的な感覚です。

まず「軽い」から考えてみます。どのくらい軽いんだろう?仮に、500gよりちょっと軽いとします。「500g未満の一眼レフ」と書くことはできるでしょう。少しわかりやすくなりました。でも500gってどのくらいだっけ…?とわたしなら思ってしまいます。

よくあるのは、世の中の同じ重さのものを引き合いに出す方法。東京ドーム10個分、と同じようなものです(でも正直、東京ドームの広さってわかりにくいよね)。ご存知の通り、500mlペットボトルの水が同じ重さ。だから「500mlペットボトルよりも軽い一眼レフ」とも書けます。

ここで大事なのは「ほとんど全ての人が共有できる情報」を与えること。キティちゃんの体重はリンゴ3個分らしいけれど、正確に伝えたい場合は使えません。キティちゃんだから許される。

これに加えて、主観を足したり、他の製品と比較したりして、その軽さを強調することもできます。わかりやすいのは、一日中首から下げても疲れなかった、など。書き方はいくらでもあります。(この辺は、ライターのセンスが求められますね)

では次に「高級感のある」の方。これは読者の共感を誘うというのが狙いになってきます。そもそも「なぜ高級感を感じたのか?」から考える必要があります。精度が高いから?使っている素材が上質だから?単純にデザインがそう見せているから?企業がそう言っているから?(この場合は自分でもう一回考えてみる必要がある)

そのうえで、例えば素材感や触り心地がよかった、とします。これは写真では見えないものだから、比喩表現が便利。ツルツルのものならば「磨かれた大理石のよう」とか「グランドピアノの表面のよう」とか。自分がさわってみて、何に一番近いだろう?と想像します。それを自分だけじゃなくて、他の人に伝わるようにことばを選ぶのです。この場合は、高級感に寄せた例えを出してあげるとよいでしょう。

他には、意外性もよく用いられます。「アルミなのに、どっしりとした質感」や「プラスチックなのに、ガラスのような滑らかさ」など。なぜそうなのか、の理由も書けると良いですよね。本来は安い素材なのに、デザインや加工精度のおかげで、その質感が生まれている、ということが強調できます。もちろん、それぞれの素材の特性を自分で知っていることが前提だけれども。

この2つをまとめて、例えばですが「この一眼レフは、500mlのペットボトルよりも軽いため、日常的な持ち運びに向いている。アルミ製だけれども、マグネシウムと見紛う光沢と密度感がある」などと説明できるかもしれません。

たぶんライターによって書き方は全然ちがうけれど、それぞれの要素を分解していくと、構造的に文章は書けます。今回は家電を例にしたプロダクトの特性、つまりは修飾語的な部分についてだけれど、イスやインスタレーションだとまた変わってくるし、ほかにも文章の構造や、キャッチ的なポイントの入れ方なども、いずれまた書けたらと思っています。

がんばって生きます。