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大袈裟な老後資金4,000万円不足問題


そもそも、何を根拠に2,000万円不足してた?

 N○K対策で受信機を所有していない私は、マスメディアで昨今のインフレと絡めて、老後資金4,000万円不足問題とか言い出していることを、今になって察知した。

 ご丁寧に、老後2,000万円問題に、直近のインフレ率である3.5%の物価上昇を加味したら、いくら必要かをシミュレーションしたと記載されているが、大元の2,000万円が不足する根拠を知っている人は、どれほど居るのだろうか。

 金融庁が公表した「高齢社会における資産形成・管理」の報告書を読み解くと、定年退職した夫婦が30年間、年金だけで生活すると仮定して、年金収入が毎月約18万円。

https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf

 総務省の「家計調査」(2017年)における高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上)の平均支出が23.5万円。

https://www.stat.go.jp/data/kakei/2017np/gaikyo/pdf/gk02.pdf

 差し引き月当たり5.5万円の赤字となり、この状態が30年続くと、5.5×12×30=1,980と、およそ2,000万円不足するため、年金とは別で蓄えがが必要になると試算した具合だ。

実態より少ない年金収入

 この資料のツッコミどころとして、まず年金収入。現行制度では国民年金の1階建て部分で受け取れる金額は月当たり6.8万円だから、夫婦二人で13.6万円。

 報告書の年金収入は18万円と4.4万円多いのは、夫の厚生年金を加算した金額だからで、厚生年金の年間受給概算額は、勤続年数×期間中平均年収×5481/1000で算出される。

 現実的な数字として、勤続38年、平均年収400万円と仮定しても、年間83.3万円、月換算で約7万円受給できる計算だから、年金制度が改悪されなければ、定年まで勤めた場合の厚生年金は月当たり5万円以上貰える筈だ。

 それこそ今の現役世代は専業主婦(夫)なんて夢のまた夢で、夫(妻)の収入だけでは生活が苦しく、夫婦共働き世帯が標準になりつつある。夫婦で厚生年金を受給出来れば、年金だけで十分に生活できるだけのお金は貰えると思って良いだろう。無論、年金制度が改悪されなければの話にはなるが。

無駄だらけの生活費用

 次に支出。「家庭調査」の資料では、生存に直接関係のない交通・通信費、教育・教養娯楽費、その他・交際費の支出が45%を占めており、10.5万円も計上されている。

 この資料の場合、ローン完済済みの持ち家があるので、贅沢をしなければ月5万円の厚生年金がなくても、夫婦で受給する月13.6万円の国民年金で十分暮らせる筈で、この辺りの詳細は森永先生が本で出している。

 そのため、老後2,000万円不足問題はマスコミが不安を煽って、CMスポンサーである民間の保険会社を潤すための茶番劇にしか見えない。

数字は嘘をつかないが、嘘つきは数字を使う

 さて、ここまで「実態より少ない年金収入」−「無駄だらけの生活費用」を元に算出した老後資金不足問題だが、「無駄だらけの生活費用」に、直近のインフレ率3.5%の物価上昇を加味する発想が、そもそもの間違いだと思わないだろうか。

 実際問題、単純計算で月に11万円赤字家計で、4,000万円の蓄えがあるからと、構わずガンガン消費する前に、多少なりとも支出を引き締めるべく、家計をやりくりするのが自然ではないだろうか。

 また、インフレを前提としている以上、年金収入に関してはマクロ経済スライドを加味しなければ、名目値−インフレ率=実質値ベースで、年金額がいくら不足するのか、正確な値が算出できずフェアではない。

 それに加えて、FRBの物価目標は長らく2%だったが、昨今のインフレ率を鑑みて、2〜3%と幅を持たせたことを踏まえても、日本社会が世界標準よりも高い、3.5%のインフレ率のまま10年、20年と推移するとは考えづらい。

 単純に72の法則を、インフレ率3.5%で計算すると、およそ20年後に物価が倍になる計算のため、老後資金も単純に倍額が必要となると試算した4,000万円に過ぎず、4,000万という数字に大きな意味はなく、私からすれば、「数字は嘘をつかないが、嘘つきは数字を使う」典型例にしか映らない。

 大事なのは、マスメディアのプロパガンダに踊らされることではなく、株式投資などを入り口に、経済知力を身につけて、自分の頭で考え、判断することだろう。

 既に2,000万円の蓄えがあるなら、今から20年掛けてもう2,000万円貯めるのではなく、今ある2,000万円を株式で適切に運用できれば、例えインフレ率3.5%であっても、株式市場全体の期待値の方が高くなるため、インフレに対処できる可能性が極めて高い。

 こうした、今のインフレ率のまま推移すると、20年後に物価が2倍(日本円の価値が1/2)となるから…、そもそもインフレ率3.5%が持続することは想定しづらく…と、数字の相場感もとい経済知力を身につけるのに、株式投資で経験を積みながら学ぶことが有効なのは、筆者である私が工業高校の出自でありながら、独学と学び直しを経て、こうしてつらつらと記していることからも、間違いないだろう。千里の道も一歩から。


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