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高配当株投資の出口戦略。

生涯保有が前提?

 投資の神様と呼ばれているウォーレン・バフェットさんの、我々が好む株式保有期間は「永遠」は有名である。とはいえ、あの世にお金は持っていけない。

 だから、然るべきタイミングで売却して、有り金は使い切って最期を迎えたほうが、人生の幸福度が高くなるのは、数千万円から数億円もの資産を遺して亡くなった方を「もったいない」と思う感覚からも、一般的な方ほど理解できるだろう。

 しかし、お金持ちは、決してコップの水は飲まず、コップから溢れた水だけを飲んでいる。コップの水は数千万円〜の資産であり、溢れた水は利子や配当所得であることから、投資の世界に深入りすればするほど、例えどれほどの資産を有していても、元本を食いつぶすような行動はしたくないのが投資家の真理と言えるだろう。

 しかし、お金の不安は残念ながら資産の多寡で解決できる類のものではない。老後資金で2,000万円用意できたら、充実した老後生活を営みたいと遊興費も考えて3,000万円、子供に資産を遺すなら5,000万円、ここまできたらキリよく1億円…などと際限がない。

 そんな馬鹿なと思う方は騙されたと思って100万円貯蓄してみて頂きたい。20代単身者の保有資産額の中央値が8万円であることから、100万円も蓄財出来れば十分立派である。

 しかし、いざ100万円貯まると結婚資金で300万円は欲しいとか、子供を視野に入れたら500万円は必要とか、住宅の頭金も考えたら1,000万円だと、目標は高くなる一方だろう。老後資金と桁がひとつ違うだけで構図は何ら変わらない。

 仮に1,000万円の大台を超えたところで、2,000万円、3,000万円と膨らみ続ける。少なくとも私は保有資産額が年収の桁数より1つ上の大台に乗ったときでも、もう十分だとは思えなかった。

 理由はシンプルに、まだコップから溢れる水だけで生活が成り立つような水準ではなかったからで、典型的な大金を抱えたまま最後を迎えるお金持ちマインドとなっていたのである。

長期投資でも売る局面はある。

 私が高配当株投資を始めたきっかけは、配当は確定益であり、年率4%で配当を受け取り続けることが出来れば、25年で元が取れる。20代前半で、平均余命から考えても、人生の残り時間が半世紀以上はあるだろうから二度美味しいと思うのである。

 実際、実行してみて痛感したのは、ひとつの銘柄で安定的に4%の配当を長期に渡って受け取り続けるのは難しいことである。

 配当利回りの計算式が、「年間配当÷株価」からも分かるように、利回りの高い銘柄は配当が高いか、株価が割安かのたった2つの要素しかなく、そのグラデーションによって高配当株が成り立っている。

 配当が高水準の場合、例えば直近の日本たばこ産業(2914)のように、配当性向が8割前後で推移していると、新規事業に投資する余力が十分になく、将来の伸び代が期待できない。裏を返せば、成熟産業で投資先がなく株主に還元していると捉えることも出来る。

 とはいえ、事業のライフサイクル通りに進むと、成熟の先は衰退である。業績が悪化し始めると、いつかは配当する原資が枯渇してしまう。

 普通の会社であれば非情にも減配され、株価も配当も下落するダブルパンチを食らうのだが、安定配当を謳っている会社だと、繰越利益剰余金を削ったり、固定資産を売却してでも前年と同額の(タコ足)配当を行う場合がある。

 しかし、企業が身を削って事業投資ではなく株主に還元しているのだから、業績悪化要因が一時的なものでなければ先細りするのは目に見えている。一概に配当が高ければ良いとは言えないのである。

 もうひとつの株価が割安である点は、〇〇ショックなどによるパニック売りで優良企業が安くなっている場合と、相応の理由があって、嫌気から安値で放置されている場合とに二分される。多くの場合は後者である。

 例えばかんぽ生命(7181)は高配当かつ増配傾向にあるものの、安値で放置されている。これは不正契約で2020年に業務停止命令が下され、多くの投資家は未だにその体質が改善されていないと考えており、また同じことを繰り返して株価が暴落することを織り込んで誰も買いたがらないのである。

 テレビのニュースで取り上げられる規模の例は稀でも、割安なまま放置されている銘柄で、不祥事や役員の逮捕などの問題が潜んでいることはザラにある。

 これらを踏まえた上で、個人的に市場が嫌気売りするほどのリスクとは思えなければ、配当を受け取りつつ、価値が見直されるときを待っていればよい。反対に、投資家界隈でどれほど持て囃された銘柄であろうと、自身の投資方針である高配当の前提が脅かされる事態になった場合は、躊躇せず売り注文を出すことも時には重要となる。

 また、財務が健全かつ増配傾向で、高配当な銘柄は多くの投資家が保有したいと考えるため株価が上がり、結果として高配当銘柄ではなくなってしまい、これもひとつの利確ポイントである。

 これらが、ひとつの銘柄で安定的に4%の配当を長期に渡って受け取り続けるのは難しい所以なのだ。

二割利食いは一理ある。

 減配懸念などの嫌気売りは四の五の言ってられない状況なので、思いの外躊躇せず売りに出せるのだが、難しいのが割安で放置されていた銘柄の価値が見直されて、もはや高配当株と言えなくなってしまった時に保有し続けるか、売って利確するか問題である。

 私は本多静六さんの心得である「二割利食い、十割益半分手放し」は一理あると思っている。+20%はキャピタル狙いで勝っている投資家の中では大した水準ではないかも知れない。

 しかし、気長に配当を受け取る高配当株投資家からすれば、配当で得られる5年分の利益であり、税金を払ってでも利確して、そのキャッシュを元手に株価が一回り大きい高配当銘柄に買い換えることで、受け取れる配当金が2割弱増やせるためである。

 連続増配株の頂点にいる花王(4452)でも、毎年+10%のペースでは増配していない。株価上昇で結果として配当利回りの低くなった銘柄をそのまま保有するよりも、同じ株価で割安なまま放置されている高配当銘柄に鞍替えすることで、蓄財が有利に進むかも知れない。


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