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必要な時に、必要な分だけ。

おトクに釣られると発生する管理コスト。

 ある日、都内某所のスーパーへ買い物に行った際、人参が1本のバラ売りで50円。5本入りの袋で買えば150円で、1本辺り30円であった。今必要な人参は1本だけの時、あなたは割高だと分かりつつも、1本50円の人参を買えるだろうか。

 恐らく多くの方が、どうせ別の料理に使うだろうと、割安な一袋150円の人参を買うだろう。長らく私もそうだったし、今でも気を抜くとコスパの良い方を選択してしまう悪癖が無意識に出てしまう。しかし、その場で使い切れないのであれば、経営学的には例え割高でも1本だけ買うのが正解となる。それは在庫を管理する手間が発生し、これも立派なコストだからである。

 腐らない工業製品ならいざ知らず、食べ物は基本的に時間経過とともに腐って食べられなくなる。先の例であれば、人参が1本だけ必要なのに、4本余計に購入したことによって、余分な人参を使い切る必要が生じてしまう。

 そのため、わざとレシピの分量よりも多くの人参を投入した結果、1本1本の切り方が雑になり、本来食べられる部分も面倒で捨ててしまったり、料理してみたら想定した量よりも多く、残飯となったことで結局悪くしてしまったり、過食により体調を崩して余計な医療費が掛かってしまったり、次回以降の献立に人参縛りの制約が生じたりして、まとめ買いでお得になった2本分、バラ売りの金額換算で100円相当の利益のために、必要以上に買った人参4本を管理するコストが発生してしまうのである。

 人参のバラ売りか袋買い如きで、ここまで話を膨らませる変態もそうそう居ないと思うが、一見すると下らないと思える管理コストも、5件、10件、20件と積み重なると認知資源を消費してしまい、脳内でジャグリングしている状態になってパフォーマンスが低下することだろう。

必要な分だけ買うと管理を委託できる。

 四角大輔さんの著作で、"ストック"と言う概念を捨てる。の見出しで以下のように記されている。

”なかなか使わないモノに大事な居住&作業スペースを奪われる。
それは、無駄なモノにエネルギーと家賃を浪費しているのと同じ。
使いそびれないように、注意を向けている時間だって無駄だ。
ほとんどのモノは手元に保管しなくて良い。
たいがいのものは通販ですぐに買えるし、レンタルだってある。
たとえば近所のコンビニは大型の冷蔵庫で、Amazonは巨大な倉庫だ。
どちらも「常時、膨大な数のアイテムを一つ何円というコストで管理してもらっている」と考えれば、本や日用品などのストックから解放される。

自由であり続けるために 20代で捨てるべき50のこと|四角大輔

 全く同感で、私は冷蔵庫を所有していない。自身の労力を割いてまで、食材を管理しないと決めているから、食べ物がすぐ腐る夏場は割高でも毎食毎に食べ切れる分量だけを買い、外注している管理費用として小売店に金銭的なコストを支払っているのである。

 故にフードロスは限りなくゼロに近いし、一般家庭なら24時間365日稼働している冷蔵庫がないから、所持していないテレビと合わせれば電力消費量は一般家庭よりも2割以上少ない自信がある。冷蔵庫のうるさいインバータ音とも無縁である。

 それに、小売店で在庫管理を担当している人は、在庫管理で賃金を得ているプロなのだから、在庫管理の素人である我々が自己責任のもとなんでも管理しようと思うのがそもそもの間違いではないだろうか。

 そんなことを思いながら、向こう1年では使い切れないほどの台所用スポンジを、かつて可能だったコ◯トコの同伴でまとめ買いした過去の自分を戒めながら、いつまでも食洗機を購入せずに手動でひたすら食器洗いに励む今日この頃である。

死蔵するメリットはインフレ耐性だけ。

 ありがちなのが、洗剤などが安売りされていて買ったは良いものの、帰宅したらまだ開封していないストックがあり、何ヶ月、場合によっては数年間使えずに結果として死蔵するパターンである。

 そもそもストックする習慣がなければ、無くなった消耗品だけを買い足せば良いのだから、こんな事態には陥らない。

 たかが食品や日用品なのだから、死蔵しても使い切れば良いと思うかも知れないが、仮に1年在庫として寝かしてしまった場合、お金なら利息を生み出すが、物の場合は何も生み出さないため、死蔵している物品の総額と期間に応じた金利分だけ損をしたと捉えることもできる。

 仮に1年間死蔵しているものが1万円分であれば、それを全世界株式のインデックスファンドにでも投じていれば、翌年には10,600円になっているかも知れず、死像によって将来得られたであろう600円と在庫を捌く認知資源を失うのである。

 唯一メリットがあるとするならば、ハイパーインフレが発生した時で、この時ばかりは金融資産よりも現物資産の方が強い。そのため、貨幣経済を介した取引よりも、物々交換によって欲しいものを手に入れた方が、金利上昇に伴う貨幣価値の下落幅を考えると、良くも悪くも価値が下落しないモノで所有している方が損失は少ない。

 これは、第一次世界大戦後のドイツ人兄弟の話が端的に表している。勤勉で質素倹約な生活で貯蓄に励む兄と、所持金でビールを飲みまくるアル中な弟が居たが、敗戦後にハイパーインフレが起きたことで、兄の貯蓄は紙屑同然となり貧困に陥ったが、ビール瓶を庭に捨てていた弟は、その瓶を売ることで生計を立てたのである。

 つまり、日本ではいずれハイパーインフレが到来すると考えるのであれば、過剰なまでに在庫を所有しておくと経済的には得をして、金利収入がインフレに負けないと考えるならば、必要な時に必要な分だけ購入して、浮いた資金を運用するのが経済的に得をすると言えるだろう。私は後者を選択している。

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