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交通機関の現場、もう限界かも...


2005年の悪夢が再来するのは時間の問題?

 TSMC効果で賃上げなどの、羽振りの良い話題に事欠かない熊本だが、その陰で社会に必須なエッセンシャルワーカーの待遇が見劣りし、慢性的な人手不足となった結果、社会インフラである公共交通機関に綻びが生じ始めている。

 生活必須職従事者は、社会インフラを支える性質上、公共性が重要視され、高い付加価値を生み出す営利性とは水と油の関係にある。

 つまり、営利性を追求し、高い付加価値を生み出す者に、高い賃金を支払う資本主義社会の構造上、社会を支える上で必須な存在であるにも関わらず、社会インフラを支える重責さとは裏腹に、安い賃金で使われる傾向にある問題を抱えていることを意味する。

 そして、地域全体が賃上げムードとなったことで、誰も年収400万円程度で、他人の命を預かるシフトワークなど、就きたがらなくなり、先日減便したばかりの熊本市電では、「組織における非常事態」の見出しがつくレベルで、不祥事が相次いでいる。

 元業界人として、インシデントが頻発するということは、ハインリッヒの法則が正しいという前提において、相当数のヒヤリハットが黙殺されている状況にあり、多忙などの何かしらの要因で、事故の芽を摘めずインシデントが頻発していると捉えられる。

 重大インシデントは、結果として事故には至らなかったが、事故に直結しかねない事態であり、ハインリッヒの法則に当てはめるなら、29件の軽微な事故に該当すると思われる。

 決して大規模とは言い難い事業者が、このペースでトラブルが頻発していると、どうしても元業界人として、運輸安全マネジメント制度が発足する一端となった、2005年の悪夢が再来するのは、時間の問題ではないかと危惧している。

国交省は至急、鉄軌道の規制緩和を断行するべき

 私は電車の運転免許を持っておきながら、シフトワークで身体を壊したのを機に、鉄道業界に見切りをつけた身として、コロナ禍で既にボロボロな現場と、5類移行で経済活動が正常化するタイミングで、人手不足による減便が相次ぎ、不便を強いられている世間との温度差を感じずにはいられない。

 是非とも、国交省の方々は、利権のある道路ばかりに注力するのではなく、高齢化、人口減少社会を見越したコンパクトシティ化、カーボンニュートラルの観点から、鉄道大国日本の大量輸送システムを活用するために、免許取得年齢を18歳に引き下げるとか、技能実習生の項目に追加する小手先かつ場当たり的な対応ではなく、規制緩和を始めとする、必要な措置を講じて頂きたいものである。

 そのアイディアとして、まずは甲種(鉄道)と乙種(軌道=路面電車)の免許区分を実務上取りやめ、甲種電気車+普通自動車運転免許があれば、実地訓練によって路面電車を運転できる。乙種電気車運転免許があれば、実地訓練によって鉄道を運転できるくらいの規制緩和があっても良いと考える。

 動力源に応じて、蒸気車、内燃車、電気車と免許を分けるのは、動作原理が異なるため一定程度、理に適っている側面がある。

 とはいえ現にJRでは、内燃機関で発電した電気で走行する、ハイブリッド方式を採用し始めており、国交省の見解としては、甲種電気車、甲種内燃車いずれかの運転免許があれば、運転そのものはどちらでも問題ないとしている。

 それらを踏まえると、甲種と乙種は、監督省庁が同じである今、わざわざ分けるほどの違いがあるようには思えない。むしろ、郊外電車がそのまま路面電車にもなって市街地に乗り入れられる、世界的なLRTの形態を鑑みると、日本では甲乙のダブルライセンスが必要で、障壁となる。

 現に新設された宇都宮LRTは、70km/hで走れる車両と、立派な鬼怒川橋梁があるにも関わらず、軌道法と運転免許の制約がネックとなって、現状は40km/hまでしか出せない。

 だからこそ、ハイブリッド車両では内燃車と電気車、いずれかの免許があれば運転できるように、鉄道と軌道のハイブリッド路線でも、甲種と乙種いずれかの免許があれば運転できるようにするべきではないだろうか。

 強いて両者の違いを挙げるなら、乙種である路面電車は、道路交通法が絡むものの、自動車免許さえ持っていれば、公道を走る上で必要な知識・技能が習得できているのだから、自動車免許を以て実務上は問題ない筈である。

 自動車で例えるなら、路面電車は一般道、鉄道は高速道路を走る程度の違いであり、免許取得時に高速教習を行えば、下道も高速も、同じ自動車免許で走れるのだから、鉄道もそうあって然るべきではないだろうか。

 それが甲種(鉄道)電気車+普通自動車運転免許で路面電車を、乙種(軌道=路面)電気車運転免許で電気鉄道を運転できるくらいの規制緩和があっても良いと考える所以である。

潜在運転士も工夫次第で活用の余地がある

 また、電車を運転する資格はあるが、諸事情から鉄軌道の運行事業者に在籍しておらず、免許の持ち腐れ状態となっている私のような、潜在運転士を活用するアイディアとして、路線バスで採用されているパートタイム労働を、鉄軌道でも採用できるよう、規制緩和するのはいかがだろうか。

 先述の熊本市電では、TSMC効果とは裏腹に、市は財政的に厳しい状況にあり、運転士を会計年度任用職員で採用していて、正規雇用できていないのが実情である。

 それに加えて、およそ半年間を教育に割いて、会社負担で免許を取得させたところで、来年度から上下分離方式で、民間に移管する見込みとなっている現状も、人材が定着しない要因のひとつだろう。

 また、朝ラッシュと夕ラッシュに最も運行本数を多くしなければならない都合上、シフト勤務がマストで、仮に正規雇用であっても敬遠されるのは目に見えている。

 そこで、路線バスで朝ラッシュだけ、夕ラッシュだけ応援する形でのパートタイム労働者を募っているように、鉄軌道事業者でもラッシュ時の増便に対応するための、パートタイム労働者を募れる規制緩和を行うべきだと考える。

 これにより、経営の厳しい中小事業者や、財政再建や健全化中の公営事業者は、増便が必要な時間帯に、必要な分だけコストを支払って外注化できるため、確保しなければならない正規雇用者の頭数(=人件費)を抑えられる。

 労働者目線で、たとえ社会保険料が自己負担だとしても、バス運転手の相場である時給2,000円前後なら、薬剤師と同じ要領で、誰でもできるような最低賃金スレスレのアルバイトと比べたら、資格を活かして高単価が狙える方を選ぶだろう。

 それにより、私のように持病でシフトワークが難しくなった免許保有者が、平日の朝か夕に3〜4時間だけラッシュ要員として勤められると、短時間でサクッと稼げて社会貢献にもなるため、潜在運転士の掘り起こし策としては、悪くない選択肢のように思う。

 そもそも都合よく人が集まるのか?安全運行に支障はないのか?と課題はあるものの、減便や不祥事が相次ぐ、地方の現状を鑑みれば、運行に必要な人員を自社で満足に賄うことが、人口減少時代には土台無理な話で、公共性を維持するには、四の五の言ってられる状況ではなくなりつつあると思うが、いかがだろうか。


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