シビックテックから見たオープンな科学技術とデータのあり方

三浦です。
シビックテック(Civic Tech)って皆さんご存知でしょうか。

昨日東京大学本郷キャンパス伊藤国際学術研究センターで行われたフォーラム「シビックテックから見たオープンな科学技術とデータのあり方」に参加してきました。簡単にですがフォーラムの内容をまとめようと思います。間違っていたらご指摘いただけると幸いです。挿絵はあくまでイメージです。

登壇者

瀬戸寿一:東京大学空間情報科学研究センター特任講師
専門は参加型GIS・社会地理学、博士(文学)。オープンな地理空間情報の研究・教育・普及に関わり、アーバンデータチャレンジ事務局、OSGeo財団日本支部OpenStreetMapファウンデーションジャパンなどに参画。

近藤康久:総合地球環境学研究所准教授
2018年4月よりオープンサイエンスプロジェクトのリーダーを務める。シビックテックの方法を研究に取り入れて、琵琶湖の水草資源活用コミュニティーの形成などに取り組んでいる。文部科学省科学技術・学術政策研究所客員研究官を兼任。

白川展之:文部科学省科学技術・学術政策研究所科学技術予測センター主任研究官
専門は科学技術・イノベーションに関する公共政策と社会情報学。博士(政策・メディア)。科学技術イノベーションと社会イノベーションに関する政策・実務の双方に通じCode For Japanには設立時理事として創業・参画。

佐々木一:東京大学政策ビジョン研究センター准教授(coordinator)
専門はイノベーションマネジメントや計算科学に基づく意思決定支援。社会が抱える課題と科学技術の実装のあり方に関心を持つ。
私が所属している坂田・森研究室のメンバーの一人でもある。

目次

1. シビックテックとは(佐々木さん)
2.オープンチームサイエンス(近藤さん)
3.地理情報とオープンデータ(瀬戸さん)
4.Code For Japan(白川さん)
5.シビックテックのこれから

1.シビックテックとは

テクノロジーやデータの民主化に伴って、社会課題にアプローチする方法も徐々に民主化されつつあります。これまでは行政が社会課題解決の役割を担っていた(依存型社会)が、組織や立場にとらわれない柔軟なアプローチとしてシビックテックが近年イノベーションを生み出しつつあります(共創型社会)。

市民が自らの手で課題解決する社会が活発になっていく中で重要な課題となってくるのがオープンなデータや科学技術のあり方です。アメリカのCode For Americaの活動から波及して、日本でもCode For Japanや各県ごとにCode For xx が作られてきて、行政が集めたデータをオープン化し立場の垣根を超えて多様な人が集まるコミュニティの中で課題解決が行われてきているところです。

2.オープンチームサイエンス

学際的な研究は近年注目を上げてきており、異種分野の専門家が集まって課題解決を行うことは珍しいことではなくなってきました。一口に学際的研究と言ってもその度合いによって意味は様々です。多分野的(multidisciplinary)研究は各々の分野で個別に課題解決を模索するもの、分野融合的(interdisciplinary)研究は各分野間で意見交換を行い落とし所を見つけていくもの、分野横断的(transdisciplinary)研究は課題解決のために各分野が役割を分担し1本の筋を通す超学際的研究とも呼ばれます。オープンチームサイエンスはこの超学際的研究を目指していると言えます。

多様な人が集まるプロジェクトの課題として、プロジェクト内で持っている知識の不均衡から問題の認識にズレが生じることが多々あります。このズレは情報や地位の差から生じるもので0にできるものではありません。この不均衡(隔たり)をできるだけなくすために、コミュニティ内で①ずらし②倫理的平衡③可視化④対話といった総合的アプローチが必要です。ここでの説明は以下に簡略化しますが、上2つは留意すべき考え方、下2つはそのための手法のような形になっています。

ずらし:視点の違う意見の中でも繋がる点、違う点などを模索し各々の持つ世界を結びつけるはたらき
倫理的平衡:対等な立場としてフラットに向き合うこと
可視化:イメージで持っているものを見える形に表現すること
対話:積極的にコミュニケーションを取ること

例えば、琵琶湖の湖岸に水草が打ち上げられその異臭で近隣住民が迷惑を被っているという社会問題があります。近隣住民にとっては生活に関わる社会問題ですが、行政側(滋賀県役所)にとっては環境問題としての側面を持っています。他にもステークホルダーは様々で、

行政:環境問題
近隣住民:社会課題
琵琶湖の漁師:生活の糧になる死活問題
近隣大学生:ボランティアサークルによるイベント
他の滋賀県民:他人事(琵琶湖は好き)

といったように見方は色々あります。行政の視点だけでこの課題を解決しようとしても真に課題が解決したとは言えません。時間が経てば別の問題が表出してくるでしょう。なのでシビックテックな視点から共創的に課題解決を行うためにオープンサイエンスな手法がとられました。

学際研究を行うときに気をつけなければならないのは欠如モデルです。欠如モデルとは「知識や技術が社会に受け入れられないのはその社会に知識が足りないからだ」という考え方のことで、代表的な例で言えば情報アドバイザーの設置や専門の委員会の発足など「成功した人のやり方を採用する」というものに近いです。特に研究者畑で育って、evidenceベースな考え方をする分野ほどこのモデルに陥る可能性が高く、社会課題を解決する一つの弊害となっています。社会課題を解決するにはサイエンスファーストではなく、トランスサイエンスと呼ばれる専門研究とは別のアプローチが優れていることも多分にあります。

3.地理情報とオープンデータ

地理情報分野は一番最初にオープンサイエンス化が進んだ学問の一つと言われています。地理情報とは地図の作成や都市計画などを行う分野で、3次元位置データを意味づけるためにもともと市民の協力が盛んでしたが、市民参加までが限度で市民への権限委譲(研究者と市民が一体となった課題解決)までは至っていませんでした。近年はwebとオープンソースの台頭で、市民からのvoluntaryな地理空間情報が潤沢になりつつあり、より学際的な研究が進んできています。
昨年はインフラ系ながら計算科学系の学会で道路損傷の画像データ1万枚を提供し分類モデルを作るコンテストを行い、予想外に多くの研究者にjoinしてもらってさらにオープンサイエンス化が進んでいます。

オープンサイエンス化を実現するには社会課題を解決するコミュニティと解決に必要なオープンデータが必要です。がむしゃらにオープンデータ化を進めようとしても情報を提供する側は誰が使うかもわからないのにデータを提供したくはありません。提供側のincentiveが少なくエコシステムとして長続きしないのです。
その両方を実現するシビックテックコミュニティが2013年頃から増えつつあって、地域課題解決に向けてアイディアソンやハッカソンのみならずフィールドワークや料理のオープンデータ化など様々な切り口と手法で取り組んでいます。

参考
石川県能美市が進めるアートxオープンデータの取り組み
     https://qiita.com/kenchif/items/93bc99d736d99de771c4
Civic Tech Advent Calendar 2018
    https://qiita.com/advent-calendar/2018/civictech

現実の市民参加型のコミュニティでは、集まった途端に「じゃあ社会課題出してください」と言われて発散し、誰が決めたともしれない課題に向けて統率の取れないことがよくあります。これはコミュニティ内のコミュニケーションが不足して、納得感のないまま「全体で決めた感」だけだそうとすると陥ってしまいます。シビックテックコミュニティの強みは、課題を解決するストーリーを持っている人とevidenceベースで分析、手法提案できる人が繋がることで超学際的に課題解決に向かえることなのです。

4.Code For Japan

Code For America(CFA)が起源で、「政府にできないことはこっちでやってやろうぜ!」という運動から始まっています。

参考
Code For America
https://www.codeforamerica.org/

ただアメリカと日本では雇用体系も情報のaccesibleさも違うので、日本にあわせたシビックテックを捉えるために、行政需要・科学技術・市民自治の観点からシビックテックを考えてみましょう。

行政需要:
シビックテックはソーシャルスタートアップとしての特長とコミュニティ活動としての特長を持ち合わせています。アメリカのシビックテックは前者の色が強く行政で手が回らない部分の効率化やオープンソース化などGov.Techと呼ばれるものに近いと言われています。日本のシビックテックは現状後者の文脈で使われることが盛んで、地域に根ざした社会課題をその地域の人と外からやってきた人が力を合わせて解決するという町おこしの意味を持っています。この使い方は日本独自で強く発展したものみたいです。

科学技術:
シビックテック = シビックハック × 技術、目的のない技術は課題解決に向かないし良いアイデアがあってもそれを実現する技術がないと進まないとする考え方です。
近年は課題解決に有効な技術開発が進んでいて、シェアリングエコノミーやクラウドファンディングといったこれまでにない新しい技術が台頭してきました。

市民自治:
これまでの自販機型のブラックボックスなサービス提供から、中身が見える課題解決へとシフトして来ています。コミュニティ形成によるボトムアップ型の課題提案、グラフィックレコーディングを用いて多様な意見を可視化するオープンなプラットフォーム、インフラストラクチャーの変化によって研究者でなくても(むしろ研究者じゃない方が)サイエンスにアプローチできる社会システムづくりが少しずつ醸成されて来ています。

参考
Code for Japan
https://www.code4japan.org/

5. シビックテックのこれから(質疑応答)

オープンデータ化が進む中で知財はどうあるべきか?
A. 知財自体は重要であることに変わりはない。ただ、これからの研究開発ではOpen by defaultの原則に則って、オープンにしていい部分とクローズにする部分を事前に明確に決めていく必要がある。

社会課題解決のカギは知識の創出・供給なのか?
A.  No。研究者なのにscientificなことが言えなくて申し訳ないが、実体験からすると解決に向けた熱量が大きい。あとは共感してくれる人をどれだけ増やせるか。

シビックテックを盛り上げるためには参加者にフィードバックがないと進まないと思う(voluntaryベースだと限界がある)がecosystemをどう作っていくか?
A. シビックテックの大きな課題として、情報や立場の不均衡から起こるやりがい搾取になってしまいかねない問題がある。シビックテックに関わる人がちゃんと食べて行けるシステムを作るために、まず相場をきちんと決めることと資金調達が重要。一過性のmovementで終わらないために今日のフォーラムの参加者はお金の面で徹底しているが全体としてはまだ決まっていない。特にオープンサイエンスはインフラや維持費など継続的にお金がかかるのでそれを誰が負担するかは重要な問題。スポンサーさんなどは本当にありがたい。
現状は通常のIT人材に比べて給料は低いが、データにアクセスできる権利や研究成果を公開する権利を付与することでトレードオフを計っている。シビックテックのインセンティブ付与は大きな課題。

シビックテックに期待すること、課題は?
A.研究者以外の人と研究を1から10まで行うのが新鮮、ただしやりがい搾取にならないように注意。また、シビックテックの成果をpublishする機会も少ないので増やさなくてはならない。
日本のシビックテックがソーシャルスタートアップに向かうのか、Gov.Techに向かうのか楽しみなところである。


自分自身シビックテックという言葉を聞くのは初めてだったのですが、研究者だけではなく、問題意識を持っている人が集まって課題解決に向かうというコミュニティがとても面白いと思いました。今は起業方面に熱が向かう人が多い印象なのですが、社会課題解決という根本の問題を見据えるのにシビックテックは面白い効果をもたらすのじゃないかと思っています!



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