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なぜRESEARCH Conferenceがポスターセッションを始めるに至ったのか?

RESEARCH Conferenceとは、日本最大級のデザインリサーチ、UXリサーチを扱ったカンファレンスです。昨年はUXリサーチャー、デザインリサーチャー、UXデザイナーなどの方々がオフライン/オンライン併せて2,000名超参加しました。第3回となる今年は、5月18日(日)に東京都・九段下でさらに大きい規模で開催される予定です。

RESEARCH Conference2024では、新たにポスターセッションをはじめます。
本企画のリードを務めております、MIMIGURIのリサーチャーの座敷童子(@a_praxisnohito_)です。この記事では、なぜRESEARCH Conferenceがポスターセッションを始めるに至ったのかを語ります。



1.なぜRESEARCH Conferenceでポスターセッションを始めるのか

ポスターセッションの概要は、前回の記事をご覧ください。

この記事では、なぜRESEARCH Conferenceでポスターセッションを始めるのか理由を紹介します。自分は去年からスタッフを務めています。イベントでは多くの仲間と「リサーチ」という共通言語で繋がり、社外での関係ができたことも嬉しかったです。しかし、イベントを通してどうしても気になったことがありました。

登壇スピーカーが語るプロジェクトが、スゴすぎる・・・。

RESEARCH Conferenceが招聘する「ゲストスピーカー」はもちろんのこと、毎年公募される「公募スピーカー」も非常に高倍率であるため、必然的に中で語られるプロジェクト事例もクオリティが高くなります。

そのため、スピーカーの語りを聞いてると「そんなことが出来てしまうんだ!」という衝撃を受ける一方、人によっては「どうやったらそんなことができるんだ…?」「このスゴすぎる事例から私は何を学べばいいんだ…?」と唖然とさせている感覚を受けました。

つまり産業界におけるUXリサーチやデザインリサーチの「可能性」や「将来性」を展望する上では最適なイベントだったのに対し、自分もこのスピーカーの語りから学んで何か持ち帰ろうという「自分ごと的学習」や「触発」が起こりにくい構図になってやしないかと気になっていました。

昨年の分析をしてみます。昨年の参加者自体も、リサーチを経験したことがあるかに対しては「ほとんど経験したことがない」が28.2%で最も多く、また2年未満の方で全体の5割以上を占めています。

母数は昨年connpassに記入した2177人の回答結果

また、参加者の職種に関しても「デザイナー」が38.2%と最も多く、次にPdMやPMなどが11.5%エンジニアが9.3%事業開発などが10.6%と続いています。他方で専業のリサーチャーは7.4%でした。

その背景は様々ありますが、主に事業会社などでは、デザイナーやPMなどが、リサーチャーロールを兼ねる面があるからだと考えられます。純粋にリサーチのみの技術を磨くよりは、様々な職能の一つとしてデザインリサーチやUXリサーチを実践されている方がいらっしゃると解釈した方がよさそうです。

母数は昨年connpassに記入した2177人の回答結果

とはいえ、昨年はオフライン/オンラインあわせて2,000名超が参加していることを踏まえると、産業界の中での注目度が高まっていることも事実です。つまり「(熟練者じゃないけど)学んでみたい」「ゼロからでも始めてみたい」という学習者の共同体をRESEARCH Conferenceで創れないかと考え、企画化したのが、新たに始まった「ポスターセッション」になります。


2.「リサーチを共に学び、探究しあう共同体づくり」としてのポスターセッション

デザインリサーチという営み自体は、決して新しいものではありません。日本デザイン学会では1983年に『プロダクトデザイン教育におけるデザインリサーチのこころみ』という論文があり(横溝ら、1983)、また欧米では水野らが紹介するように長い歴史があります。

しかし、RESEARCH Conferenceも始まって今年で3年目ですし、書店に並ぶ著作も増え、ようやく求人でも「デザインリサーチャー」や「UXリサーチャー」の応募が目立ち始めています。国内産業でのデザインリサーチやUXリサーチの広がりはまだまだこれからです。他方で生成AI技術などのテクノロジーの進化によって「デザインリサーチ」の価値や意義が早くも問い直される機運も見られています。

こうした「需要の高まり」と「淘汰への恐怖」のパラドックスに向き合いつつ、それでも人間社会の本質的な「豊かさ」にリサーチが貢献できる可能性を探究することがRESEARCH Conferenceの価値ではないでしょうか。

その第一の探究が「産業で行われている最先端のリサーチを学べる機会づくり」、すなわち登壇セッションです。公募スピーカーやゲストスピーカー、スポンサーLTなどがその機会になります。RESEARCH Conference2024も昨年と同様に様々な業界で先端的なリサーチをされている方々が登壇します。昨年と同様に「そんなことが出来てしまうんだ!」を知り、2024年のデザインリサーチやUXリサーチの現在地点を知ることができます。
昨年の公募スピーカーセッションで登壇された方は、2023年のリサーチトレンド(Goodpatchさん、Sansanさん等)を作り出すほどの影響力がありました。

そして第二の探究が「リサーチを共に学び、探究しあう共同体づくり」で、今年から始まるポスターセッションがその役割を担います。
リサーチが始めたてでも、自分のリサーチの事例をポスターにして発表することで、同じ関心を持つ参加者とつながり、明日に繋がる学びが得られるかもしれません。RESEARCH Conferenceにおけるポスターセッションは「学びと仲間づくりを応援するプログラム」として位置づけています。

「公募スピーカーで発表するのは敷居が高い」「そんなに自分の事例は他者に話せるほど誇れるものでもない」と公募スピーカーに申し込むことを躊躇されている方もいるんじゃないかと思います。
昨年もスタッフに「来年は公募スピーカーとかいかがですか?」と聞いてみたら「私はそんな…まだまだ….」と語る方もいらっしゃいました。

ただ始めたてで「凄く(ダイナミックで)なく」ても、小さく一歩を踏み出したようなリサーチの事例があるはずで。そうした「小さな一歩」を大切に分かち合うような場にポスターセッションはしていきたいと思ってます。是非とも自社、自組織の踏み出した一歩を分かち合い、参加者と自由闊達に意見交換できるような学びの共同体づくりにご参加いただけますと幸いです。


3.学びの共同体を「学生」にも開きます

また、ポスターセッションでは学生による登壇枠も設けることにしました。美術系・工学系大学のデザイン科の卒業研究の発表の場として、授業課題の発表の場として、総合大学の学生にとってもサークル活動やインターンシップなどで行った「リサーチ」の発表の場として奮って応募していただきたいと考えています。

とはいえ「開催されるのは東京だし…自分は地方だから、交通費とか宿泊費が高いから参加できないな…」という学生もいらっしゃるかと思います。
そこでRESEARCH Conference2024では、遠方から参加し、ご発表される学生の皆さん向けに交通費と宿泊費の支援制度を整備いたしました!制度をご利用希望の方はぜひとも要項をご覧ください!

実際にさまざまな大学の先生方から「うちの学生もポスターで参加したい…!」「学生に声をかけてみてます!」という声をいただいております。私は今春、おもに東京で開かれている美大や芸術系の大学の卒展を巡っているのですが、非常に興味深いデザイン・リサーチに溢れていました。

そうした卒業研究を終わったばかりの方は、新卒一年目であっても「学生時代に取り組んだもの」であれば学生枠に参加可能です。もちろんこれから就活を迎えるという現3年生、授業課題に取り組む2年生や1年生も、さらには学生枠なので高専生、専門学生や短大生、大学院修士課程、博士課程の学生など幅広く参加していただきたいと考えています。

学生枠を設けた理由は様々ありますが、一つは「リサーチする」ことを専門とした職能を広く伝えていく重要性があると考えたためです。
上のアンケートで見られたように、昨年の参加者の学生率は3%にすぎず、デザインの領域において「リサーチする」ことが仕事になるという認識はそこまで広まっているわけではありません。またデザインリサーチャーやUXリサーチャーに関しても、まだまだ新卒での募集枠は決して多くはない実状があります。

しかし、昨年のカンファレンスを含めてリサーチャーと触れる中で分かってきたことですが、デザイナーやエンジニア、PM(PdM)など「ものをつくる」経験をつみあげる中で、徐々に最終アウトプットとしての成果物を作り上げることから、生活者に話を聞き、彼らの可視化されてこなかった文脈を辿り、彼ら(受け手)と私たち(つくり手)の関係性を編み直す「リサーチ」に関心が移りゆく方が多く見られます。

現時点で、最終アウトプットをつくりだす「デザイナー」志望の方であったとしても、今回のポスターセッションを通じて自分を一度リサーチャーとして捉えてみることは、無数の「デザイン」に関係する職業のなかから、中長期的に自分がどのように「ものづくり」に関わりつづけていくかを内省する経験になり、有意義なものではないかと考えています。


そしてもう一つ、理由というより動機があります。それは今回のRESEARCH Conferenceのテーマが「ROOTS」であることです。ホームページにも記載がありますように「リサーチを育む根を張る、そもそものリサーチの成り立ちや進化から学ぶ」という意味が込められています。

ROOTSの解釈の方法はいろいろなものがあると思いますが、私は「Researchしたいという気持ちのROOTSはどこからやってくるのか」を考える機会にしていきたいと考えています。

というのも、デザインリサーチやUXリサーチの著書が流通する中で、リサーチについても一般化された手法諭やノウハウ、ナレッジが広がりつつあります。しかしそれらの手法諭の根源に、人々がリサーチに掻き立てる想いの原点としての、他者に対する好奇心があるのではないかと考えています。

実際に、UXリサーチャーもデザインリサーチャーも、インタビューやエスノグラフィ、行動観察、アンケートなど幅広い方法を用いて「他者」に向き合います。「他者」を慮り、「他者」に関心を向け、「他者」に対する好奇心を維持し続けることが求められる仕事です。

たとえ、デザインを専門に学んでいない学生であっても、他者のことを想って「しらべる」活動――その瞬間は「ひたむき」すぎて、語れなかったけど、みなさんのこれまでの人生や営みを「リサーチ」として語りなおしていただく中で、「これってリサーチというかは分からないけど、他者を想う好奇心に突き動かされていた」ケースについても、ポスターセッションでは受け入れてみたいと議論しました。

友人への誕生日プレゼントで喜んでもらうために行ったリサーチ
・競技クイズで他者に押し勝つためのリサーチ
・カラオケが少しでも上達し、他者に喜んでもらうためのリサーチ
・排他的そうに見えたコミュニティで、自分が他者とともに一員として馴染みだすために行ったリサーチ。
自分が好きな町をもっと好きになるために、毎日のように足しげく通った町のリサーチ。

参加者は「UXリサーチ」や「デザインリサーチ」などを仕事に取り入れている方が多いですが、議論する中で、新しいリサーチの考え方が生まれるかもしれませんし、その他者を想う関心から、リサーチャーとしてのポテンシャルが見いだされていくかもしれません。ポスターセッションは、そうした偶発的な創造や出会いが生まれる場にしたいと楽しみにしています。


4.0→1で学びの場をつくるリサーチをしています

0→1で新しいモノをつくることは楽しいけども、不確実要素が多くて怖いものでもあります。ただポスターセッションリードを務める中で自分自身も新しいチャレンジをしながら、「『リサーチの可能性/将来性の展望』と『自分ごと的学習』を両立するデザインカンファレンスとは何か?」という問いに向き合うリサーチができていることは楽しいです。

今年新しく始まった試みではありますが、スタッフ一同「最高の学びの場」を用意してお待ちしております!


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