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ロヒンギャ問題とはなにか 難民になれない難民 日下部 尚徳、 石川 和雅<編著>

英語で本を読むのがちと疲れたので気分転換に、以前に著者の一人からいただいた『ロヒンギャ問題とはなにか 難民になれない難民』を# 毎日論文生活 の7日目と8日目に読んだ。章は以下の通りで、章ごとに数名の著者が論考を載せている。

第1章 ロヒンギャ問題とは何か
第2章 越境したロヒンギャの今
第3章 ロヒンギャとはいったい誰なのか
第4章 世界のロヒンギャ
第5章 難民支援とロヒンギャ
第6章 難民になれない難民としてのロヒンギャ
第7章 アナン報告が示すロヒンギャの未来

当方の仕事で大いに関係のあるロヒンギャについて日本語で読むのはとても新鮮だったが、18人も著者がいるためか、章のクオリティにかなりバラツキがあった。「結局よく分かんない」を連発する章やエッセイ風のものもあり、読み応えに欠ける章も結構ある。何より残念だったのは事実関係などを叙述するのにいっぱいいっぱいで、考察に欠けていると思われる章が少なかくなかった。文字数の制限も厳しいのだろうが、Wikipediaを読んでいるような、かなりdescriptiveな情報のみが羅列した章も見受けられて、もうちょっと突っ込んで書いて欲しかったなあと思う。

第4章はとても面白かった。特に、ARSA主導者がパキスタン出身であることからもパキスタンにおけるロヒンギャの論考はとても勉強になった。パキスタンにいったロヒンギャのなかには、自らを「ベンガル人」と呼ぶようになったとの記載があり(179ページ)興味深い。ARSAみたいにラディカライズし強くロヒンギャ性を出す者もいれば、旧東パキスタンから来た「ベンガル人」と名乗るパキスタン生まれのロヒンギャもいる。この違いはどこから来たのだろうか。彼らのアイデンティティのあり方や変化についてもっと深い考察が読みたい。

タイ政府によるロヒンギャ難民に対する水際対策もとても興味深かった。シーズンが11月から4月とのことだが、先日も400人を乗せたボートがコックスバザールに陸揚げされた。彼らは2ヶ月も海の上を漂流したとのことで、なかには亡くなった人たちもたくさんいる。この船はマレーシアから追い返されたとしているが、こういった事件は本当にしょっちゅう起きている。シリア難民が地中海を渡る様子はニュースにもよく出るが、ロヒンギャの場合はどうだろうか。超法規的・即決・恣意的殺害に関する国連特別報告者のAgnes Callamardは、国家がsearch-and-rescue operations at seaする義務を怠ることはunlawful killingでありarbitrary deprivation of lifeだと強く非難する。海における国の保護責任はこれからもずっとホットなトピックになるだろう。これに関し国家の対応のみならず、小さなジャーナリストの活動を書いた本論考はとてもおもしろい。

第4章で残念だったのが、タイ、インドネシア、パキスタンしかカバーできなかったこと。世界のロヒンギャについて書くのであれば、インドにいるロヒンギャや、第三定住したロヒンギャを始め、北米にいるロヒンギャについての考察も欲しかったな…。あと中東にいるロヒンギャに関して、論考にするならいかに偽装旅券を使って移動しているかについてなどきちんと説明したほうがいいと思う。2019年ロヒンギャがバングラに国外追放された事件も、なぜ出身国であるミャンマーでなくバングラに送られたのか、考察すべき点があるように思える。

あと第6章について。まずロヒンギャの無国籍性が述べられているが、無国籍であること難民認定されないことに関係はないので、「難民になれない難民としてのロヒンギャ」という章のタイトルはミスリードかと。次の論考ではビハール人について述べられ、それはそれで(とても)面白いが、「ロヒンギャは第2のビハール難民になり得るのか」がタイトルの通りresearch questionなのであれば、ビハール難民の説明や暮らしぶりにかなりの割合を割いて、ビバールとロヒンギャの比較を最後2ページ程度で終わらせてしまうのはかなり強引だと思う。またロヒンギャの中でも1991年からバングラにいる人や2017年以降に来た人もいるので、一括にしてビハールと比べるのは難しい。1991年からいるロヒンギャに絞って、特に教育の権利なんかが認めらていることに言及して書くなら論点として成り立つのだろうか。

ロヒンギャについての日本語文献が少ないことを考えると、とても貴重な本だと思う。また、ロヒンギャがミャンマーとバングラデシュだけの話ではないという点はロヒンギャを考える上で非常に重要だと思う。加えて、チッタゴン丘陵地帯やビハールなど、(あまり知られていない)バングラデシュの多民族性ついても書かれていたのもとても面白かった。でも各論考をあと10ページくらい増やしてほしかったです(笑)

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