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あたしゃバカだよ

 世の中のためになるように記録を残す。

 何の記録かって? それはね、頭ではダメだな〜とか、まずいな〜と思ってても地雷原へ突き進む愚者の心理だ。うん💢もうグシャグシャだよ、芸術は爆発するが、愚か者は倒壊するのだ。

 見たものに鮮烈な印象を与えて砕け散るのではなく、誰の目にも触れぬ日陰でぐしゃりと潰れる。残るのは記憶や伝説ではなく通行に邪魔な残骸のみ。大抵の愚者はそのままダンゴムシの餌になって土に還るが私には紙とペンがある(ネット上だけど)、記録に残して犠牲者が続かぬように啓蒙を行う。特にギャンブル依存症の予防になるんじゃないかな?

 さていくか。

 はい、

 この変なヤンキーみたいなおっさんのカード。これ、いくらしたと思う?

 25,000円

 ……ん?

 は?

 25,000円。


来月我が財布に着弾するミサイル

25,000円ってどれほどの値打ちがあるか知ってる?

 なんと、25,000円分の買い物ができるのだ!! 米だったら100キロくらい買えるし、ガリガリくんだったら4166.666本買える。寒い冬を耐えるためのヒートテックだって32枚手に入る。それほどの値打ちの金銭をこの変なカードに費やした。

 はっきり言って正気の沙汰ではない。

 そこで「とほほーあたしゃバカだよ😧」で終わらせるのはあまりに淡白だし、次に繋がらないのでこの行動に至る過程を思い当たる限り記してみる。

 まずはこのカードが何なのかから始めようか。

 これは『Fate/Grand Order』というソーシャルゲームのキャラクター『テスカトリポカ 』のカードだ。ちなみにさっきからカードカードと連呼しているが、実態はなく、ゲーム上のカードだ。これを所有することでゲーム内でこのキャラクターを使える。

 そもそも『Fate/Grand Order』(以降FGO)とは何なのか。

 平成に青春時代を過ごしたオタク層ならだいたい知ってるだろうが、そんな層はごく少数のため説明すると、シナリオライターの”奈須きのこ”とイラストライター“武内崇”からなるゲームブランド「TYPE-MOON」が2000年代初期に発表したPCゲーム「Fate/stay night」から派生したゲーム作品だ。

 ここで”ゲーム”と表記したが、その本質は一般的にイメージされるファミコンやプレステのようなテレビゲームとは異なり、シナリオを読むことを目的としたものだ。

 物語の本文であるテキストと、その場面を演出するイラストやBGMからなるシンプルな作りで、ビジュアルノベルとかADV(アドベンチャーゲーム※何がアドベンチャーなのかは知らん)と呼ばれる。小説と紙芝居の中間のようなイメージだ。

 先述の「TYPE-MOON」とは、このビジュアルノベルを作るブランドであり、その母体は中学時代の同級生である“奈須きのこ”と“武内崇”を中心とした同人サークルであった。2人の出会いについて簡潔にまとまっている文章があったので、引用しておこう。

二人の出会いは中学校の入学式直後に、奈須が消しゴムを忘れ、武内に借りたことからスタート。その後、ゲームやマンガ、小説などを薦め合う内に、武内はマンガ家に、奈須は小説家になることを目指したという。そして、夢を実現させるため、中学2年時には小説を書き上げる奈須。その作品を読んだ武内は奈須の才能を見出す。

 その後、それぞれ別の高校へ進学し、別の仕事に就く二人。だが、武内はイラストの道も、「奈須きのこという才能を世に送りだす」ことも諦めていなかった。やがて、武内は奈須を誘って、1998年に同人サークル「竹箒」を立ち上げる。そして、サークル名義のHPに劇場版アニメになった『空の境界』の小説が掲載された。
下記リンクより引用

 先ほど私の金を溶かしたスマホアプリの原点であるPCゲーム「Fate/stay night」は、奈須きのこが学生時代に書いた小説が原案となっている。子供の頃に教室で想像していた物語が20年以上続く大ヒット作品になるなんて、クリエイティブな夢を追う若者にとっての理想そのものだろう(もちろん苦難もたくさんある)。

 この「Fate/stay night」(以降Fate)は、2004年の架空の町(冬木市)を舞台に7人の魔術師が、手にした者の願望を叶えるという聖杯(ドラゴンボールみたいなもの)を賭けて最後の1人になるまで戦う「聖杯戦争」という闘争を描いた物語だ。この世界には魔術や神秘が存在するという舞台設定で(ハリーポッターみたいに一般人には秘匿されている)あり、ひょんなキッカケで1人の青年がこの争いに巻き込まれることから物語は始まる。

 奈須きのこ氏は、こういった現実世界の中に潜むファンタジー(ローファンタジー)を題材にした作品を得意としており、他作品でも世界観を共有し物語がリンクしている。

 Fateで特に面白い部分は先ほど紹介した「聖杯戦争」のシステムにある。これに参加する魔術師はそれぞれ「サーヴァント」と呼ばれるパートナーと共に優勝を目指す。サーヴァントというのは、神話や歴史に名を残した英雄を現代へ召喚した存在で、この物語のミソはここにある。そう、魔術師たち各々がギリシャ神話の英雄ヘラクレスや、宮本武蔵のライバルである佐々木小次郎、ブリテン島に伝わる勇者アーサー王を呼び出してサバイバルをするのだ。盛り上がらないわけがない。

 なにより群像劇としてのクオリティが凄まじい。聖杯戦争の参加者だけでも7人とサーヴァント7騎と結構な人数だが、ぞんざいに扱われるキャラクターは1人もいない。過酷な戦いに挑む魔術師たちはみな、聖杯で叶えたい願いや信念、魔道の道に関わった経歴など様々な背景を抱えており、対決に共闘、裏切りなど濃密なドラマが繰り広げられる。

 彼らの相棒たるサーヴァントももちろん個性的だ、なにしろ古今東西の偉人たちがモデルなのだから魅力に溢れている。アーサー王物語に登場する聖剣“エクスカリバー”をはじめとした伝説の武具を携え縦横無尽に駆け回る。めちゃくちゃカッコいいんだ。

 壮大なファンタジーや濃密な人間ドラマを語り尽くすには相応の物量が必要だ。その点Fateは伊達じゃない。シナリオを一周するのに50時間ほどかかる。文字数としては文庫本20冊ほど、恐ろしいボリュームだ。

 しかし多くのファンは一気読みしてしまったことだろう。謎が謎を呼ぶ展開なので、一度ハマると抜けられないのだ。完徹して読み進めるほどのめり込んでしまう。謎のアーチャー(射手)の正体は? 冬木市で過去に起きた惨事の真相とは? 聖杯の裏に潜む陰謀とは? そもそもなぜ英雄が現代人なんかに従うのか? 気になって仕方がないのだ。

 で、スマホアプリ『Fate/Grand Order』の話に移る。詳細があるあなたなら気がつくと思うが、この「聖杯戦争」というシステムはめちゃくちゃ拡張性が高いのだ。古今東西の英雄譚を元ネタにして無限に話が作れるのだから。

 「あの時代のあの英雄がサーヴァントになったら?」「あの神話のあの女神を召喚したら?」と世界に物語が存在する限り無限にキャラクターを生み出せる。つまりアップデートを必要とし、定期的にコンテンツが拡張され続けるオンラインゲームと異常に相性がいいのだ。

 そんな想像を実現したのがこのゲームで、2015年にスタートして以来、時代や国をまたにかけ膨大なサーヴァントが参戦している(2023年現在300騎を超える)。キャラクター数に比例するかのようにその物語も壮絶で、『人理保証機関カルデア』(厨二病だとそういうの好きでしょ?)の一員である主人公が、何者かによって突如焼却された人理(人類が滅ぼされたと思えばOK)を救うため果てしのない戦いに身を投じる。

 この人理修復の旅を描いた物語は2017年に完結したのだが、その完成度は凄まじく、特に奈須きのこ氏が執筆した6章と7章は涙なしには語れない。ゲーム部分は単調で大して面白くないが、壮大な冒険譚に圧倒される。

 とりあえずこんなところかな。

 これで察せたと思うが、

 この怪しいホストみたいなヤツもサーヴァントだ。

 名前の通り、中南米アステカ神話の神様「テスカトリポカ」をモデルにしたキャラクターであり、シナリオ上のとある事情で人間の姿をしている。

 そう。

 奈須きのこ氏の執筆活動は今も進行中で、先月末に中南米を舞台にした壮大な物語『黄金樹海紀行ナウイ・ミクトラン』が発表されたのだ。

 中南米に出現した異聞帯(本来あり得なかったifの人類史。パラレルワールドみたいなもん)に足を踏み入れる主人公たち、アステカ神話における冥界「ミクトラン」で繰り広げる大冒険に、地球に侵攻する異星生命体ORTとの死闘と寝る間も惜しんで(物理的に)のめり込むほど面白かった。物語のキーパーソンはもちろんこの世界の神「テスカトリポカ 」だ。ミステリアスで冷酷な全能神がシナリオをかき乱し予想のつかない結末へ向かう。敵味方それぞれに信念があり入り乱れる群像劇に私は涙した。

しかも今ならガチャで引き当てれば「テスカトリポカ 」がゲーム内で仲間になるのだ。

 確率は0.7%、ガチャは2,100円で10回挑戦できる。かなりの低確率だ。

 しかもここが重要なんだが、シナリオ自体は無料で読める。

 サーヴァントを仲間にするためのガチャに金がかかるだけで散々語ってきた白熱の物語は0円で楽しめる。

 じゃあこんなことする必要ないじゃん。

 うん。

 無駄金であろうが、リスペクトがあるため、タダで遊ぼうとは思っていない。

 ハイクオリティなシナリオを楽しませて貰ってるから映画や単行本を楽しむくらいの対価は払いたいと思ってるが、ここまですることないんだよ。

 ちくしょーーー

 俺は泣いた。

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