絶滅危惧の音楽アルバム

小さなころから、CDアルバムを通しで聴くのが好きだ。プレイヤーから飛び出す各トラックによって、明暗豊かに、近く遠くへ展開する音世界へ導かれ、一枚終わるごとに小一時間のささやかな旅行をした気分になる。

両親の世代はレコードだったからA面の楽曲を聴き終わったら裏返してB面を聴くという感じだった。この手間のかかる作業は、さながら旅の往きと帰りのように、または朝と夕、季節の移り変わりのように、舞台を変化させる装置としても働いていただろう。

サブスクで音楽を聴くのが主流になっている今は、一曲の一部分をひとたび聞いてもらえただけでLikeしてもらうために、短期間の視聴(試聴)でウケる似たような曲が生成されるようになってしまった。一曲ごとの切り売りで提供されるから、曲と曲のつながりから生まれる風景の変化をクリエイターが造形することが難しくなってしまった。そして、目立たない曲が流氷のように伝わってくることが、少なくなってしまった。

プレイリストは聴く側が自由に選んで作るというのが現代の視聴スタイルならば、アルバムにまとまった音楽をリリースするのは古いやり方なのかもしれない。でも僕は、クリエイターがいろいろ考えて創造した音的世界(そこには山あり谷あり陰日向あり)をするめみたいに味わうのがいまだに好きなのだ。これはちょうど、車窓から眺める遠景がその小さなフレームで切り取られることによって魅力を増しているのと同じことなのだ。

音楽アルバムは世界を切り取る一つの窓でありクリエイターの宇宙である。現代においてはもはや絶滅危惧だが、僕はこれからも楽しんでいきたいと思っている。

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