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悩むからこそ見えてきたもの[Footwork & Network vol.26]

はじめに

 4月、ドキュメンタリー映画「ザ・トゥルー・コスト〜ファストファッションの代償〜」を鑑賞しました。低価格に隠れた誰かの犠牲の上に成り立つ大量消費の残酷な映像に戸惑いました。また7月には映画「フード・インク」を鑑賞し、自分が口にする食料がどのように手元へやってくるのか、どのような品質なのか知りました。
 そんなふうに、結構衝撃の強い映像から環境問題のテーマについて意識的に触れはじめた中で、「環境問題と自分の関係をどのように見出すか」という課題に直面しました。
 環境ビギナーな私が、どのように考えていけばいいのか自問する中で、前向きに捉えるためのエッセンスをもらった体験と出会いについて書こうと思います。

1. THE HASUNE FARM(ハスネファーム)

 池袋のグリーン大通りで開催される、隔月のマルシェイベント「IKEBUKURO LIVING LOOP」。2023年11月3日(金)〜5日(日)の3日間、年に一回のスペシャルマーケットが開催され、私はボランティアキャストとして参加しました。

生ごみ回収&コンポストの取り組み

 私は、4つに分割された区画のうち、南池袋公園エリアを担当しました。そこでは、「農民芸術楽団」という出展名で、板橋区蓮根にある有機栽培農園「THE HASUNE FARM(ハスネファーム)」さんが出店しており、そのお手伝いをしました。具体的なお仕事は、飲食系の出店者が出すムール貝やホタテの貝殻、レモンの皮、コーヒーの搾りかすなどの生ゴミを、台車に乗せた大型のポリバケツに回収することでした。予想に反して、重量感をかなり感じるくらいに生ごみが集まり、達成感半分、「ゴミ問題って馬鹿にならないんだな...」という複雑な思い半分でした。
 THE HASUNE FARMさんによる生ごみ回収の提案は、今回のスペシャルマーケットのテーマ「循環」に繋がったそうです。回収した生ゴミは、蓮根の農地にあるコンポストで分解し、土に還します。そして有機栽培した野菜を販売したり、レストラン「PLANT」で使ったりするというサイクルを作っているとオーナーである冨永さんが教えてくださいました。

 生ゴミの中でも貝殻は硬く、そのまま土に還すには期間がかかるということで処理が必要でした。それは、手頃な岩を土台にして、ポリバケツ何杯分もの貝殻を槌でひたすら割るという体力勝負の作業でした。しゃがみながらするこの作業がとにかく大変。冨永さんと他のキャスト数人体制で交代しながら、回収しては割り、割っては回収しを繰り返しました。そんな中、何人もの方がひっきりなしに興味を持って覗いてくれたり、子供が楽しそうに貝を砕くのを手伝ってくれたりする様子が印象的でした。

 「疲れたら辞めちゃってね」と言われつつ半ば意地で続けていた作業中に、冨永さんご夫婦とお話ししました。土の温度は発酵熱で70度以上にも昇ること(実際に展示用の土に触れさせてもらうと、びっくりするくらいホカホカでした)、農業だけでなく鶏の飼育もしていること、有機農業は慣行農業と比べるとやはり手間がかかるため、大変ではあるということ。
 冨永さんは、脱サラをして奥さんのご実家が所有していた農地を受け継いで農業に携わり始めたらしいです。なぜ有機農法を大切にするんだろう(私は正直、虫が大嫌いなので農薬を使えば効率よく簡単だろうにと思ってはいます...)、大きなキャリア転換をして農業に携わり始めることに関してどう捉えていたんだろう、都市部での農業・自然にどう向き合っているのか、価値観や思いなどの部分をご本人にもっと深く聞いてみられれば良かったな、と少し心残りです。生ゴミ回収中、レストランPLANTや農園にもぜひ来てよ!と言っていただいたので、今後行ってみたい場所リストの一つです。

身近にある循環

 都会的な暮らしのペースや環境が段々分かってきたと思ったら、反対に、都市部で農に携わる方に出会いました。3日の間でしたが、そのギャップが自分の中ではインパクトとして心に残っています。
 有機栽培の野菜は価格が高いです。経済的にも気持ち的にもちょっと手が伸びにくかった。でも、今回出展者のお手伝いとして近くで眺めているうちに、案外ハードルは高くないし、循環型は身近にあるんだなと感じました。

2. Rinne.bar(リンネバー)

 東京都台東区小島に、「Rinne.bar(リンネバー)」というアップサイクルバーがあります。アップサイクルとは、本来はゴミとして捨てられるはずの不用品や廃棄物に別の価値を与えて、新しい製品に生まれ変わらせる(=アップグレードする)ことです。「Rinne」には仏教用語の「輪廻」の意味が含まれているそうです。
 店内には、壁一面の棚に半端な木材や布切れ、毛糸などが所狭しと並んで、アーティストのアトリエのような空間が広がっていました。

不要だと思っていたものが、価値あるものに生まれ変わる「アップサイクル作品」づくりを誰もが楽しめる小さな「モノづくりBAR」です。

Rinnebarホームページより(https://www.rinne.earth)

愛着が湧いた工作、魅力的な出会い

 12月7日(木)ゼミ終了後、ゼミ生の一人に紹介してもらい、3人でお店へ行きました。その際に、サービスデザイナーのちひろさんと出会いました。ちひろさんは、大学3年生の時にRinne.barへお客さんとして来店した際、アップサイクルに魅力を感じ、その後インターン生としてお店で働くようになったそうです。(実は、同じ大学のOGの方でした!)そして、新卒として入社したとのことです。
 私はコルク栓を使ったマスコット作りに挑戦しました。コルク栓を胴体にして、赤の毛糸を髪の毛に、花柄の布の端切れを服に、不揃いのビーズをボタン飾りに…(一番上の写真、中心のやつです)。もともと手先の作業や工作などは好んでする方なのですが、バラバラだとなんの価値も無いように見える小物たちが、こんなふうに生まれ変わった様子にとても愛着が湧きました。閉店間近でお客は私たち3人のみの中、ちひろさんもDIYの同じ広いテーブルで一緒におしゃべりをしながら、飲み物片手に楽しく手を動かしました。
 各々の工作が一段落した後、お店でものづくりキットとして販売している商品を見せていただきました。細長い30cmほどの透明プラの円筒容器に、クレヨンのかけらや紙切れ、半端なリボンなどなどが隙間無くギュギュッと詰められているキット。水色系統、ピンク系統など色のみを揃えた不揃いの端切れセット。それらを、ちひろさんがニコニコととっても楽しそうに、嬉しそうに説明してくださる様子に、「自分の取り組みをこれほど楽し気に語れるなんて、魅力的だな...!」と私がドキドキしていました。

さらにアップサイクル

 アップサイクルというものを初めて知り、これを使おうか、こんなもの作れるかな、とちょっとした冒険心が刺激されました。とても楽しかったです。身近で簡単なものづくりができる嬉しさと、「捨てない」「さらに価値を生み出せる」ことからの充実感と、ちひろさんの人柄と。Rinne.barには沢山の魅力があるように感じました。
 ということで、またお店へ行くだけでなく、カフェゼミでも何かしら企画にできるかなぁ...とか、思っています。

おわりに

 環境問題と一口に言って扱うには、テーマが大きすぎる。けれど、自分の携わり方や立ち位置を考えることは大切だという葛藤がある。自分の暮らしはエコフレンドリーだとは到底言えないし、分別に気をつけて、物は長く増やさずを心がけるくらいのものです。まだまだ実践者から学ぶフェーズに過ぎない。
 ただ、見落とさないようにしたいことに気づきました。それは、はじめ方も続け方も、人それぞれ沢山あるということです。
 越境先で出会う方たちは、テーマや課題に対して自らアプローチする、言うなれば「完全な実践者」なのだと思っています。全員が実践者になれたらそれは良いことだけど難しい。
 私は、それで良いのではないかと思います。「実践者になりたい」と「(今は)なりきれていない」の間で悩みながら、少しずつ関心を高めていきたいというのが自分の立ち位置です。「環境にいいことを」「SDGs」などとけしかけられるから頑張るのではなく、なぜやるのか、どのように・どのくらいやるのか、自分の暮らしに対して何らかの思いを抱く。それは、完全な実践者ではなくともできることです。
 一方、生ぬるいようでは社会は良くならない!と熱量を持って取り組まれている実践者もいるのかもしれません。私は尊敬の気持ちを持ちたいです。そういう方がいるからこそ、自分みたいな周辺の人が感化されるという面もあると思うからです。

 物を大切に使いつづける豊かな喜びや、物が姿を変えて価値を持ったときめきなど、動機は感情的かつシンプルでいいんだと思えました。二つの体験とお二人の姿を通して、構えずに前向きに思うことができました。それが、私がこの文章で述べたいメッセージです。環境は暮らしと密接なものだから尚更、細く長く考えてみようと思います。


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