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考えながら動く、動きながら考える【Footwork & Network vol.25】

 私が所属する長岡ゼミでは、半学期の活動の中で新たに出会った人を紹介しつつ、気づいたことや考えたことなどを文章にまとめ、「Footwork & Network (略してF&N)」というマガジンにて発信をします。



元気な子供たち

 私は今回のF&Nで、碓井さんという方を紹介しようと思います。碓井さんは、板橋区南常盤台にある、カフェバー lil infinityというお店を経営していらっしゃる方です。日中は、小学生や中学生にお店を開放しており、自由に使って遊べるボードゲームが何十種類も用意されているなど、近所に住む子どもの遊び場となっていました。その中で碓井さんは、毎月2回、子ども食堂を開催しており、料理を子どもたちに振る舞うようです。
 私は、以前から「子どもを取り巻く環境」に関心があったのです。その中の一つとして、居場所や子ども食堂には何かしらの形で携わってみたいと考えていました。
 そのような中で、他の場で知り合った方に紹介していただいたこと、人手が足りなくて碓井さんが困っていたということもあり、交流しながら子どもたちを見守ったり、碓井さんのお手伝いをするボランティアとして、7月9日(日)に遊び場・子ども食堂に行ってみました。

ガラス張りの窓には大きなスクリーンも設置できるよう

 初めてお店に行った時の明るい店内と、10人ほどいたかという沢山の子どもたちのパワフルさが一番印象に残っています。店内は、元気いっぱい動き回る子どもたちが集まっていると、少しキュッとなるように感じられました。しかし、道路に面したガラス張りの壁からは、店内にいる子どもたちの賑やかさが見え、初めての場に飛び込む緊張は、ほんの少しネガティブなものから、ポジティブなものに変わったように感じました。
 お店の上の階にはアパートの一室のような空間があります。現在改装中で、8月中旬に完成した際には、子どもたちが勉強できる部屋や、工作ができる部屋にする予定だと碓井さんは仰っていました。

 子どもたちは、黙々とミニドローンを飛ばしたり、おしゃべりに興じたり、持参のゲーム機で対戦したり、その後ろからゲームの様子を見つめたり・・・みんなそれぞれが思い思いに過ごしていました。私ははじめ、おしゃべりをしている女の子に「こんにちは、初めまして。」と声をかけると、人見知りをすることもなく笑顔を向けてくれて、自然と輪に混ざることができ一安心。
 碓井さんは、子供たちの様子を見守りながら、2階の改装を進めたり、かき氷を作ってあげたり、ボードゲームに参加したりと、常に子供たちの側にいました。とても楽しそうに見えました。
 その日の子ども食堂で振る舞われたのはカレーライス。「食べる人手あげて!」という碓井さんの号令がかかると、「食べる!」と子どもたち。まだ沢山あるから、と私もご馳走になりました。

背景にあったのは「楽しさ」

 私は、子どもたちの元気な姿と自由な遊び場を見るうちに、碓井さん自身の思いが気になり始めました。どうしてこのような場を作ったのか、どういった経緯で子どものための場にしたのか、という疑問を碓井さんにお聞きすると、以下のように教えてくださいました。
「社会人になっても、ワクワクする事が無かった。ワクワクしてたものは何だっただろうかと考えたときに、小学生の頃の自由研究がそうだったと思い出し、こども達と自由研究をしたいと思った。」

 また、「今後は、さらにどのような場にしていきたいか考えていることはありますか」と尋ねると、「子ども達が今より、もっと色んな事にチャレンジするキッカケ作りができる場所にしたいと考えている。」「とりあえずの目先では、工作室を作り、子ども達が自由に使える場所にしたい。」「他には3Dプリンターを置いてみたり、早いうちに才能をお金に変えられるような子ども達を増やせたらなぁと思っている。」と教えてくださいました。

 これらの返答は、私にとって意外なものでした。子どもに対する慈善活動という訳ではなく、子どものためを思いつつ、むしろ「子どもと一緒に楽しみたい」という思いが根底にあったことを意外だと感じたのです。
 遊び場の様子は、元気はつらつな子どもたちが気軽に誰でもお店に出入りし、お昼ご飯を食べてまた遊び、保護者の方も気軽におしゃべりし合うという、表現するならば「友達の家のリビング」のような場所でした。それはきっと、碓井さんご自身が、楽しく子どもたちと関わりたいと思っていることが表れているのだろうな、と腑に落ちました。さらに、地域の交流拠点としての機能も果たしているようでした。

考えながら動く、動きながら考える

 私は、居場所づくりと子ども食堂そのものを、安らげる居場所のない子や家庭環境に恵まれない子に、色々なものを無償提供する場であると無意識に捉えていました。つまり、私の頭の中において、それらは慈善活動以上でも以下でもないものだったということに気がつきました。これが、気付かぬ間に持っていた私の先入観です。

 今回は、紹介していただいたことをきっかけに、初めてお店へ足を運び、場を見て、子どもたちと関わって、そして再び訪れてみて、碓井さんとお話しするという段階を経て思い込みを自覚し、捉え方が変化しました。
 一口に先入観とはいっても、自分の脳内や、視野にない物事を自力で認識するのは容易ではありませんでした。だからこそ、長岡ゼミが活動する際に念頭に置く、「考えながら動く、動きながら考える」という実践が必要ということです。文献で読んだもの、テレビで観たものなどではなく、自分の頭の中にあるイメージでもない。「知っている(つもりになっている)もの」を、手足や五感を動かしながらあらためて見直すことに意味がある。そして同時に、見えていない範囲にも意識を巡らせること、見えたもの、触れたもの、感じたことについて考えてみる。それが、「考えながら動く、動きながら考える」なのだと再確認しました。

 視点は変わりますが、碓井さんは、お知り合いからの寄付や支援、ご自身の収入で食材を調達なさっているとのことでした。一方で、以前、別の子ども食堂を運営している方と少しだけお話しする機会があった際のことです。その方は、「何かしらの事業としての形を作りたい。慈善活動としてだと、長く続けることができないから。」というようなことを仰っていました。確かに、活動の維持が課題として捉えられることは多いです。しかし、子ども食堂としては同じでも、何を重視するかによって運営の方法も様々で、「どちらが良い」という単純な話ではないのだということも知ることができました。

終わりに

 その日、私はどういった思いでお店に行ったのか。もちろん、子どもと交流したい、何かお手伝いをできるなら、とは考えていました。しかし、それだけではなく、慈善活動という一面的で一方的な構えをしていたことも否定できません。「子どもの遊び場・子ども食堂」の名前とイメージが先行して、ただの関心事として捉えようとしていた姿勢は反省点でした。

 そもそも、なぜ私が子どもを取り巻く環境に関心があるのかというと、子供が好きだという理由があります。また、子どもというのは大事な存在だと思っていることもあります。気兼ねなく遊んだり学んだり、誰かや何かに窮屈に制限されることなく、のびのびとその場にいられる、そんなふうにあってほしいと思っています。子ども食堂としてであれ、遊び場としてであれ、そんな場所を提供する方を知ったことで、私自身その気持ちを忘れたくない、と思いました。また、さらに様々な場を見て、少しずつでも考えを深めたいとも思うことができました。「考えながら動く、動きながら考える」を意識しながら、越境活動を続けたいです。

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