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I was___. 脚本「兆し」

こちらのファッションショーの動画の脚本となっております。併せてお楽しみください😌

YouTubeチャンネル「ぼくらの漁網ファクトリー」
https://m.youtube.com/watch?v=nWYZyVb-844&feature=youtu.be

シーン① 「時が止まった漁網工場」
眼前に広がるボロボロの建物。

これは10年前に時が止まってしまった漁網工場だ。
いや、正確に言えば漁網工場“だった”場所。
この工場が位置する三重県四日市市富洲原地区は、漁網産業と共に発展を遂げた街だ。
今はその面影はまるで残っていないが…。

この工場の前でたたずむ青年は、この漁網工場の創業者の孫にあたる。
祖父が遺したこの工場とその中に眠る10トンはあるであろう「廃棄寸前の漁網」に再び命を吹き込もうと模索している。
そうして、この全ての漁網をアップサイクルし、活用すべく学生団体「RePurposed富洲原」を立ち上げたのだった。

「RePurposed」には「再び役目を与えられた」という意味が込められている。
漁網のファッションへの転用を思いついた青年は、技術も知識もなかったがために、仲間を集い漁網を用いた衣服やアクセサリーの制作を行うことにした。

活動を始めて2年の月日が流れた今、工場を舞台としたファッションショーを行おうとしている。

青年が身につけているのは、王室のマントを連想させる衣装。胸には、これまた漁網で制作されたブローチがついている。腕には漁網で作ったミサンガ。

この衣装は「トラフグ」を連想して作られた。
ふぐは大人しそうな見た目に反し、毒をもち、ピラニアにも匹敵する鋭い牙をもち獰猛な性格であることが知られている。この衣装には、青年の静かな野心が込められたデザインとなっている。

漁網でも服を表現することは可能なのだ。

このマントを身に纏い威風堂々と屋根が落ち、床が抜けてしまっている工場を歩いている。
「祖父の遺した漁網工場を再興させる」という覚悟の現れから毅然とした態度があふれている。

漁網はこんな使い道もある。

「ギョモック」と名付けたハンモックに揺られながらもっと使い道はないかと考えていると舞台は鎌倉に移される。

シーン② 「古着に命を吹き込む」
漁網工場のあった三重県四日市市から約300km。
ここ鎌倉でも先程の青年と場所や扱うものが違えど志の似通う団体があった。

偶然青年が縁に恵まれたこの団体は「MeijiGakuinCloset」略して「MGC」という学生団体で、「古着に命を吹き込む」を目的として、衣服の大量消費、大量廃棄の原因となっている「ファストファッション」への警鐘を鳴らす。

今回のファッションショー「I was___.」はこれら2団体の創作作品となっている。

ファッションとは流行り廃りの激しいものであり、衣服としての機能を備えているにもかかわらず、廃棄されてしまう。
そうした昨今のファッション業界の現状の中で「MGC」は着物やネクタイ、人々の「思い出」や「青春」“だった”ものにリメイクを加えることで新たな彩りを生み出す。

ここ鎌倉は源頼朝が鎌倉幕府を作り、日本の中心“だった”場所だ。そんな古い歴史のあるこの場所の寺院が第二のファッションショーの舞台である。

漁網から連想される海が今回のファッションショーのコンセプト。漁網✖︎古着の衣装には、それぞれに魚のイメージが込められている。

2着目の赤を基調とした衣装は、鮮やかな赤と白が特徴的な「クダゴンベ」がイメージされている。透明なテグスの網で魚の背ビレを表現している。

3着目は薄ピンクと黒の「アカネハナゴイ」をイメージ。また、レトロなワンピースとしての良さを残しつつ、リボン状の漁網で漁網に捕まった魚を表現している。

4着目は紫が特徴的な「オーキッドドッティバック」が連想される。ジャケットの裾やポケットに漁網をポイントで使い、素肌に着用することでジャケットの既存のイメージ破壊とジェンダーレスを表現している。

「MGC」の次世代をになう1年生が主体となって出来上がった今回のファッションショーにおいて、このシーンでは、漁網や古着の新たな使い道について話しあっている。
彼女らのこれからの活躍や漁網や古着がどう生まれ変わるんだろうというワクワクがこみ上げてくる。

シーン③ 「鎌倉の海」
先程のシーンでの話し合いの結果、舞台を鎌倉の海へと写すことにした。漁網から連想される海でとるべきだと判断したためだ。

今回のファッションショーで最も大切な衣装には以下のことがメッセージとして込められている。

1つは、ファッションショーのタイトルにもなっている
「I was___.」そして、もう一つがジェンダーレス。

この二つには接点が無いように見えて多様性や未来生といった共通点を内包している。

使わなくなった漁網に一昔前のデザインの衣装が基盤となっているのは、「I was___.」(一度役目を終えたもの)が新しいものに生まれ変わる、そういった思いが込められている。
また、現代社会において、ほとんど見られることのない漁網の多様性は、それぞれの衣装の中で表現されている。

視覚的に楽しみながら、サスティナブルとは何か、それが作り出す未来が何かを考えて欲しいという製作者の願いが込められている。

5着目の漁網を黄色のスカーフに見立てた衣装は「パープルファイヤーゴビー」をイメージしている。淡い色の衣装とのコントラストを意識したこの衣装は、他のスカーフでは表現できない漁網ならではの強みを表現している。

6着目は、カラフルな「クラゲ」をオレンジの漁網で表現。また、このシーンではジェンダーレスを際立たせている。全衣装共通の白のアイラインが特徴的なメイクを男性のモデルにも施している。また、メンズ服では珍しいシャツの上から後ろで結ぶ形のベルトはウエストマークは女性らしいイメージもあり、ジェンダーレスな思いも込めている。

6着目と7着目の間には漁網のレジャーシートの上でお弁当を食べながら談笑する「MGC」のメンバーがいる。このシーンでは漁網の新たな可能性を示唆しながらこういったワンカットを差し込むことで従来のファッションショーとは異なるファッションショー自身の新たな可能性も指し示している。

また、このカットに差し込まれたパンジーの花壇に書かれた
「I was___.」の文字がある。黄色のパンジーの花言葉は「慎ましい幸せ」、紫のパンジーの花言葉は「思慮深い」。これは漁網と衣服という廃棄寸前のものから生み出された価値による小さな幸せとこのファッションショーに込められたジェンダーレスやファストファッション、アップサイクルや後継者問題といった、日本に内在する社会問題や環境問題への思慮深さを表現している。

7着目は「エイ」と「クマノミ」を模したデザインで海藻の周りをクマノミが泳いでいることを表現している。こちらは着物に漁網を纏わせることで日本の伝統衣装と漁網産業において歴史的な面を持つ四日市の漁網を違和感なく融合させた。また、蝶々の刺繍が施されている袖の部分に漁網をつけることで漁網に捕まった漁網を表現している。

この表現は、魚などの海産物をも超えて様々なものや人の心を掴無ことができるということを表現している。

8着目は、「イワシの大群」をイメージしている。
光に当たるとピンク色になる部分を漁網を用いたポイントマークで表現。海と言えばマリンルックなデニムコーデを連想するが、漁網を縫い付けたポイントマークによって唯一無二なデザインを表している。また、パールのネックレスで泡を表現している。

この鎌倉の海のシーンでは、今回のファッションショーのテーマであるファストファッションやアップサイクル、ジェンダーレスや後継者問題といった環境問題や社会問題に対する新たな可能性を表現している。

サステナブルとは何か。楽しみながらも苦心し、追求する、そんな心情が込められている。

シーン④ 「海から海へ」
鎌倉の海から海を渡り、四日市にシーンは移る。

稲葉三右衛門によって、四日市港が開かれてから三重県の経済の中心であり続けた四日市市。

しかしながら、四日市には今なお「四日市公害」の印象が色濃く残っている。「四日市公害」が四日市の町に甚大な被害をもたらしたのは、もう半世紀前のこと。街自身は、その被害の面影はほとんどなく、海も次第に戻り始めている。

それでも、四日市の町は「四日市公害」のしがらみを断ち切り、次世代に向かい切れていない。そんな印象を感じるのだ。

そんな場所で戯れる高校生の二人。
手には、かつてこの地を支える産業であった漁網を持って走り回っている。

9着目となるオレンジと黒が特徴的な「アカククリ」の衣装には時代の変化が込められている。
その時代の変化を肩パッド入りのレトロなジャケットに現代風のチュールスカートを次世代を担う高校生の彼女が着ることで表現している。黒のチュールに白のチュールが重なっていることは滅多にないが、それを漁網のテグスを使うことで違和感の無いように新鮮味が加えられている。

まさに次世代への時代の変化を表した1着であると言える。

10着目となる黒を基調とした衣装はチョウチンアンコウがイメージされている。この辺りからだんだんと海底に近づいていっている。また、全体をモノトーンにすることで胸のブローチや帽子のテグスが映えるデザインとなっており、漁網の小物としての可能性も示唆している。

ここから舞台は四日市の夜へ。

シーン⑤ 「公害の街、四日市」
四日市コンビナートの夜景は、四日市の町の観光スポットの一つだ。
夜景クルーズでは、船に乗って夜景を楽しむことができる。

しかしながら、この夜景は四日市公害を生み出したコンビナートから見える皮肉な美しさを感じてしまう。
そう、この四日市の街自身もいまだに四日市公害のしがらみから逃れられず、もがいているのだ。

でも、やはり美しい。
そんな皮肉をこのシーンには込めている。

このシーンを彩る衣装は、海底近くに棲む「イカ」を表現している。あえて真っ白ではなく黒のリボンを用いることでイカの墨を表現している。
また、イカは光に集まってくるという習性がある。
美しいコンビナートの光につられて集まってきたのだ。
イカはその光がどんな光なのかは知る由もない。

シーン⑥ 「再興への兆し」
横浜、四日市と舞台を移し、再びあの漁網工場に帰ってきた。夜の漁網工場は昼の雰囲気に増して異様な雰囲気を醸し出していた。ほんとにこんな場所から新たな価値が生まれるのだろうか。

そうすると、何やら網っぽい巨大なオブジェが見えるじゃないか。あれは一体何なのか。そう思っていた次の瞬間、昼と同じ場所とは思えない煌びやかな漁網イルミネーションが写し出される。

「なんて綺麗なんだろう。それに、この美しい衣装を着た女性は一体誰なのか。そして、女性は歩き出し、漁網イルミネーションの全貌があらわになる。

漁網トンネルの奥には何やらさらに煌びやかな空間が見える。先程の漁網イルミネーションに比べると光は淡いがどうやらこれも漁網イルミネーションなるものらしい。実はこの漁網イルミネーションがこの漁網再生計画の全ての始まりだった。

この漁網イルミネーションオリジンのそばにはこれでもかってぐらいの漁網の在庫の山が積み上がっている。まだこんなに価値は眠ったままなのか。

そうすると場面は切り替わり、先程通ってきた漁網トンネルから先程の女性が出てきた。服の全貌も明らかになった。よくよく見ると色とりどりの漁網が見える。漁網ってこんなにもいろんな種類があるのだと気づく。そしてどうやらこの空間は先程漁網トンネルの間から少し見えていた煌びやかな空間みたいだ。

彼女の衣装は幻の深海魚「リュウグウノツカイ」をイメージしたものだ。漁網の美しさを凝縮した作品だ。

あえて様々な色に染まりやすい白を全体にまとうことで
I was(漁網という過去)、I will(洋服へと変わる)というあらゆる可能性を秘めている。

重厚な機械に青白い光が映される。どうやらあの大量の漁網たちは、この巨大な機械から生み出されたものらしい。その光に照らされる女性も彼女がきている漁網で彩った衣装もほんとに美しい。

そして、いよいよクライマックスだ。ずっと気になっていた煌びやかな空間がようやく映し出される。青を基調としたカラフルな空間はとても綺麗でこの世のものとは思えない。光の届かない深海にもこのような空間が広がってるのではないかという期待が込められている。

この空間の背景にあるこの漁網工場で最も大きい漁網を編む機械は網がかかっており、まるで海底で漁網に絡まり身動きが取れなくなってしまった海洋生物みたいだ。

それに、機械の前に敷かれている網の上に置かれたペットボトルも元は松坂港に漂着した漂着ごみだ。そういった海洋ゴミを彷彿とさせるこの空間は皮肉だが美しすぎる。

あれ、この今は動くことのない網をあむ機械で編まれようとしていた最期の網はよく見ると天井を伝って入り口につながっているではないか。そうか、漁網イルミネーションで最初にみたあの空間はここからつながっていたのか。

ゴミだと廃墟だと思い込んでいたものをこんなにも美しく輝かせることができるのか。廃棄寸前の漁網、そして衣服に命を吹きこまれ「兆し」を感じさせられた瞬間だった。

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