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Reproレシピ「基本の合わせだし」

 今回はRepro開発チームのレシピ「基本の合わせだし」について説明します。
このレシピは日本料理アカデミーの研究をベースにした、いわば「だしの教科書」とも言えるものです。
「だしのひき方は店によってさまざまだけど、本当はどういうひき方がベストなんだろう?」
こんな疑問から始まった、瓢亭さんや菊乃井さんなど京都を代表する料亭の料理人たち(現日本料理アカデミー)と京都大学農学部の共同研究の結果が2002年に発表されました。

昆布を60℃で1時間抽出した後に取り出し、85℃まで加熱して火を止めてから、 かつお節を投入する

これが科学が導き出したベストなだしのひき方。
和食の真髄「だし」の抽出方法に「科学の眼」が入った画期的な研究です。
「だしのひき方」の評価基準は、従来の料理の現場からすれば「うまいか?まずいか?」という、多分に「主観」が入る問題。
しかしこの命題を科学の視点で置き換えれば、「昆布のうまみを構成するグルタミン酸などを最も効率的に抽出しながら、えぐみなどの原因になる物質はできるだけ抽出しない方法は何か?」という「客観的・定量的」な問題設定になるので、明確な一つの「最適解」が導き出されるわけです。

  実際には、昆布によって60〜70℃まで最適温度は微妙に異なったり(例えば利尻昆布は65〜70℃など)、かつお節を使うのかまぐろ節を使うかによっても85℃という「節」の抽出温度も異なりますが、瓢亭さんも菊乃井さんも、今でも基本的にこの研究結果をベースにだしを引いているようです。
実際、NHKの番組で瓢亭の高橋義弘さんが、昆布をドサッと入れた大きな鍋に温度計を突っ込んでガスコンロの火加減を手動で調節している映像を見たことも、Reproを開発しようと思った一因でした。

伏高 尾札部白口浜元揃

ここでちょっと、このレシピ(日本料理アカデミーの研究成果)の「現代的意味」を考えてみたいと思います。

アプリのレシピには材料として築地の伏高さんで買った「尾札部白口浜元揃」の昆布をあげていますが、この昆布はいまや購入することができません。道南 渡島半島の太平洋側に面する「白口浜(尾札部や川汲など)」は最高級真昆布の産地ですが、この4年間 天然の真昆布がまったく収穫できていないのです。
「良い昆布が採れる海は、良い森がある」と言われるように、豊かな森は、さまざまな栄養分を海に送る一方で、海に流れ込む土砂の量をコントロールし、魚や昆布が暮らしやすい環境を作っています。
一説によると昨今の温暖化の影響で、北海道に台風が上陸したり、集中豪雨が襲ったりすることにより、森から大量の土砂が流れてきて海底が土で埋め尽くされたことが不漁の原因とも言われています。
昆布が取れなくなった本当の原因はまだわかっていませんが、4年間もまったく採れないとなると、マクロな気候変動の影響があるのでは?とも思ってしまいます。

伏高の薩摩型本節

かつお節もレシピには伏高さんの「薩摩型本節」と書かれていますが、これもまた今は買うことができません。「薩摩型」とは、かつお節の3大産地の一つ、鹿児島県枕崎市の伝統的なかつお節のカット方法「薩摩切」をしたもの、を意味していますが、その唯一の伝統継承者が廃業してしまったのです。
廃業の背景はシンプルで、かつお節を削る家庭が日本中でほとんどなくなってしまったから。
さらに追い打ちをかけているのが、かつおを巡る世界の市場動向です。
「ツナ缶」がハラル食品であり、「シーチキン」という商品名が示すとおり「肉の代替品とも言えるおいしい味」なことが世界に知られ、中東や中国を始め、世界的なツナ缶需要は高まる一方。タイには世界の需要をまかなう巨大なツナ缶工場群が立ち並び、いまや世界のかつお相場の決定権を持つのはバンコク市場。
漁獲競争も激しく、入漁料も高騰し、年々良質のかつおは手に入りづらくなっています。

Reproで作る瓢亭の朝がゆ

 和食がユネスコの世界無形文化遺産だと言っても、このように、その真髄「だし」の主たる材料はすでに「風前の灯」となっているのです。

でも「だからもう食べるのはやめよう」と言うのでは、もちろんありません。

ここで思い出してほしいのは、京都大学と料理人たちの共同研究の「昆布のうまみを構成するグルタミン酸などを最も効率的に抽出する」という部分です。
貴重な資源だからこそ、むだにしないで最後まで「だし」を取りきることが大切です。

昆布の水出し

例えば昆布の水出し。前の晩から水に漬けて冷蔵庫に。とても手軽ですし、えぐみもなくすっきりしただしが取れます。
でもそのやり方は本当にうまみを取りきっているでしょうか?
そもそもグルタミン酸は「水溶性」と言われますが、決して水に溶けやすい物質ではありません。どのくらい溶けにくいかと言えば、水温25℃の時、塩が100gの水に36g溶けるのに対し、グルタミン酸はわずか0.8g、実に45分の1の溶解度です。
だから、「水出しだとうまみが取り切れず、60℃1時間の方が優秀」と断言できれば話は分かりやすいのですが、さまざまな論文を見ると、「60℃で1時間」が最も良かったという実験結果もあれば、「冷蔵庫で水出し10時間がベスト」という実験結果もあり、なぜか結論はまちまち。
なぜこんなことになるのかは不明ですが、開発チームが想像する原因は「実験に使った昆布のクオリティが異なるから」。
たいていの実験は利尻昆布とか真昆布とか、昆布の種類を限定するだけで、昆布の品質に言及しているのは、料理家の樋口直哉さんがnote記事「出汁のとり方、もう一度復習〜昆布編〜」で紹介している女子栄養大学の松本仲子先生の研究ぐらいです。

5年蔵囲いの利尻昆布 奥井海生堂

熟成した昆布はうまみが取りやすい

昆布の品質は1等検、2等検、3等検とランク分けされ、最上級の1等検の昆布は、真昆布だと「ひね」とか「大ひね」とか呼ばれ、利尻昆布だと「蔵囲い」などと呼ばれる、熟成(数年間寝かせる)がかけられることがよくあります。
昆布は熟成するに従って細胞壁の破壊が進み、よく熟成がかけられた昆布の断面を切ってみると、表皮のすぐ下にまでグルタミン酸の結晶が析出しているのが見えます。
この状態だと「水出し」しても、うまみのかなりの部分が抽出できるでしょうが、採れたての昆布だと、まだ細胞壁もしっかりしているので、うまみを取り切れない可能性が高いと思われます。こうした差が実験結果の差(特に水出しの場合の)を生んでいるのかなあと。
「こっちがいい!」と断言できないのは歯がゆいですが、「水出し」であれ「60℃で1時間加熱」であれ、できるだけ効率的にうまみを取りきることは重要。

「だしがら」をかじる

大事なのは「だしがら」チェック

うまみを取り切れたか、取り切れていないか、を確認する方法は簡単です。
「だしがら」をかじってみてください。
だしがらを食べて味がしなければうまみを取りきっている、まだうまみが残っていれば取りきっていない、です。
「60℃1時間」と「水出し」、いつも使っている昆布を両方試してみて、「だしがら」がまずい方が、おうちの昆布には合っていると…
(「うまみ」以外の部分を、水出しと60℃1時間で比べてみると、水出しはクリアな風味ですが、昆布らしい風味が豊かなのは60℃1時間の方。ここも選択する大事な要素のひとつです)
いずれにせよ日本料理アカデミーのだしのレシピに「現代的意味」があるとすれば、それは貴重な資源を最も効率的に「だし」として利用できる方法は何か?というテーマを投げかけていることなのだと思います。

基本の合わせだし
水                  1.5L
真昆布             30g
かつお節     30g

水は軟水で

 前置きが長くなってしまいましたが、基本の合わせだしの材料から説明します。
まず「水」ですが、やはり硬度が高いと昆布だしが抽出しづらいので、できるだけ軟水を選んでください。ちなみにRepro開発チームの御用達は、安定して調達できる「サントリー 南アルプスの天然水」です。
昆布は、先ほど話していた「ひね=熟成したもの」をできるだけ選んでください。どんなに良質の昆布でも新物は、磯臭い昆布臭がありますが、年月を経るにつれて、その磯臭さが減っていきます。有名料亭のお椀などに感じる枯れた風味は、まず間違いなく最低でも2〜3年ぐらいはひねた良質の昆布の風味です。

「だしが命」は4% 「キレの良いだし」は2%

 そして、もう一つポイントは「だしの濃度」。このレシピでは、昆布とかつお節の合計が水の4%(重量比)になっています。
これは「だしが命」的な京都の名料亭が使うレベルの、かなり濃いだしです。こうした和食店の「お椀」は、まさに「だしを味わう」もので、「だしのうまさ」こそが店の格を決めるといった趣きすらあります。
家庭で普段使いするなら、昆布・かつお節をそれぞれ半量にすると、すっきりして、煮物などを作ると素材の味が前面に出るようなだしになります。

公式アプリで「基本の合わせだし」のレシピを見ると、「作り方」の下の「マルチステップ」のコーナーに、マルチステップの内容が表示されています。
「水温」と書かれたアイコンは「このステップは水温ターゲット=温度管理する対象は水(煮汁)ですよ」と言う意味です。
「外部センサー」と書かれたアイコンは、「外部センサー(鍋などに直接セットする温度センサー)」と「本体センサー(トッププレートの中央部にある温度センサー フライパンで炒め物をする際などに使います)」というReproの2つの温度センサーのどちらを使うのかを示しています。

最初のステップは、「外部センサーを使って水温を管理して、60℃で1時間加熱します」ということを表しています。つまり日本料理アカデミーレシピの「昆布を60℃で1時間抽出」という部分ですね。

次のステップは、「本体のスキップボタンを押すまで加熱を一時停止(=待機)します」ということを表しています。この「待機ステップ」は主に「調理上必要な作業時間」を確保するために使います。このレシピで言えば、昆布を60℃で1時間抽出した後に、昆布を取り出すための作業時間を確保するためのステップです。
この待機ステップを設けないと、次のステップは85℃に加熱してしまうので、昆布を取り出すタイミングまでReproの前でトングを持って待ち構えなければいけなくなります。
しかし待機ステップがあれば、1時間経過して「ピッ」というアラームが鳴るまで、Reproの前を離れていられます。「ピッ」と鳴ったら加熱が一時停止するので、それから昆布をゆっくり取り出す時間ができ、スキップボタンを押せば、次のステップへ移行します。

3つ目のステップは、かつお節を抽出するために水温を85℃に上げる工程です。このステップは「85℃まで加熱して、本体のスキップボタンを押すまで85℃をキープします」という意味です。
Reproでは「目標温度に達したら、その温度をいつまでキープするのか?」について、「時間で管理」か「スキップボタンを押すまで」かの2つを選択することができます。(これを「トリガー選択」と言います)
このレシピでは「スキップボタンを押すまで」を選択しているので、85℃に温度を上げたら、かつお節を投入する準備ができて、ユーザーがスキップボタンを押すまでは85℃をキープし続けます。

4つ目のステップは、日本料理アカデミーの研究結果の後半部分、「85℃まで加熱して火を止めてから かつお節を投入する」を再現したものです。前のステップで85℃に達したら、もう一度スキップボタンを押し、かつお節を投入します。このステップでは加熱を停止して50秒をカウントダウンするので、カウントダウンが終わりアラームが鳴ったら、すぐにかつお節を漉します。
この50秒(実際の作業時間としてみれば約1分)という、かつお節の抽出時間は、「吸い地(お椀の汁)」にも使えるが、煮物やおひたしなどいろいろな料理にも使える汎用性を考慮した時間です。「かつお節は香り付け」ぐらいの繊細な「吸い地」にしたければもっと時間を短くしたり、と用途に合わせて抽出時間は調節してみてください。

最後のステップは、「終了ステップ」と呼ばれるもので、作業終了をReproに対して明示的に指示するためのもので、ユーザーがレシピを作成したときには自動的に、マルチステップの一番最後に挿入されます。
それでは早速、作っていきましょう。

左がRepro本体TOP画面 右がアプリのレシピ詳細ページ

最初に、アプリからレシピをReproに転送しておきます。(「基本の合わせだし」は工場出荷状態ではプリセットレシピにも入っていますが)
まずRepro本体をTOP画面にしてください。安全上の観点からアプリとの通信は基本的にTOP画面でしか行えない仕様になっています。
TOP画面にしたら、アプリのレシピ詳細画面一番下の「調理スタンバイ」ボタンをタップします。

Repro本体のレシピ受信画面

レシピが本体に転送され始めるとコンパネ画面はこんな感じに。

「基本の合わせだし」のマルチステップが転送されています

アプリとの接続が終了し、本体のマルチステップモードを選択すると、アプリ上のマルチステップ=レシピが表示されます。これでReproの準備は完了。

まずは昆布を乾いたふきんなどで軽く拭き、汚れを落とします。よくレシピ本に「昆布の表面の白い粉はマンニットといううまみの素なので拭き取らないように」と書かれていますが、ここは考えどころです。
この状態ではまだ細胞壁の内側にいるグルタミン酸に比べ、マンニットは、昆布乾燥時の水分蒸発とともに表面に析出しています。グルタミン酸より遥かに水に溶けやすい状態にある上に、糖アルコールの一種であるマンニットは水に溶けると酸性になります。
実際、「マンニットがあると、うまみがきつすぎる」と、きれいに拭き取ってしまう料理人もいます。ここは自己判断で。

昆布を適当な大きさにカットして水を入れ、鍋に外部センサーをセットしたら、先ほどのマルチステップの画面を表示させスタートボタンをタップ。

スタートボタンをタップすると、鍋プロファイルの確認画面が表示されます。お使いの鍋が水温ターゲットに表示されていれば、そのままスタートボタンをもう一度タップすれば加熱が始まります。鍋プロファイルを変更したいときにはOKボタン(写真で「決定」とあるボタン)をタップするとアップダウンボタンで別のプロファイルを選択できるようになります。

加熱が開始したら、ふたをずらしてかけましょう。Reproを使うと「気化熱」がどれだけ水温に影響するかを痛感します。ふたをずらしてかけるだけで、驚くほど温度が安定します。
削り節(あらかじめかつお節が削ってある製品)を使う人は、このまま1時間経って昆布の抽出が終わり、「ピッ」というアラームが鳴るまでテレビを見るなり、他の仕事をするなりくつろいでいてください。

「かつお節を節から削る」という本格派は、昆布を火にかけたこのタイミングから削り始めましょう。令和のこの時代、改めて本枯節を削ってみると、その鮮烈な香りに「くらっ」ときます。しかしかつお節の酸化のスピードはかなり早く、削りたてでも30分ほどで酸化が始まります。高級な料理店だと、だしをひき終えるギリギリのタイミングでかつお節を削ります。ちなみに高級和食店では、作業効率との見合いを考えて、「お椀(吸い地)」を張る時は節を削り、煮物などに使う時は「削り節」を使っているようです。

1時間経ってアラームが鳴ったら、昆布を取り出します。この状態では「待機ステップ」に入っていますので、昆布を取り出したら、ふたたびふたをずらしてかけ、スキップボタンを押してください。かつお節のだしを抽出する85℃に加熱を開始します。

85℃に達したら、スキップボタンを押して、削ったかつお節を投入します。加熱停止状態で、50秒間のカウントダウンが始まります。

アラームが鳴ったらかつお節を漉します。血合いが入っている場合は、ぎゅうぎゅう絞り出したりしないでください。

黄金色の「合わせだし」の完成です。
Reproには電気炊飯器のような「タイマー」機能がついています。
「鍋に昆布と水を入れて、起きる1時間前にタイマーをセットしておけば、かつお節を抽出するだけで、朝から美味しい味噌汁が飲める」と考えたあなた、開発チームが思い描く「理想のユーザー」です。
「いや、『60℃で1時間』という最初のステップを『待機 10時間』に変更して、起きる10時間前にスタートボタンを押すのが正解じゃないか?」と思ったあなた、さらに鋭いです。今すぐRepro開発チームへの転職をご検討ください。

最後に改めて。
「昆布の佃煮」とか「おかか」とか、だしがらを有効活用するレシピがよくありますが、それを作ってみて想像以上に美味しかったら「危険信号」です。
本来だしがらはうまみが抜けきって、そんなに美味しくないものです。味付けでなんとかすると言ってもおのずと限界が。
それが想像以上に美味しかったら、だしを取る時にまだ素材のうまみを抽出しきっていないという可能性も。
希少資源を有効活用して、「サスティナブルな?だし取り」を目指しましょう。

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