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出汁のとり方、もう一度復習〜昆布編〜

基本のレシピ、出汁のとり方を復習します。出汁とは「水溶性の旨みや香り成分を水分に抽出したもの」です。様々な食材から出汁は抽出できますが、現在の和食で用いる一般的な素材は昆布と鰹節です。

昆布の種類によって味わいが異なる

まずは昆布の話から。水1リットルに対して昆布の量は10g(1%)が家庭的な量とされていますが、昆布の種類によって旨み成分の量は大きく変わってきます。

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(うま味インフォメーションセンター webページより引用)

単純にグルタミン酸ナトリウム量でいえば関西で好まれる真昆布がダントツ。ただし水出ししたデータでは羅臼昆布がトップです。羅臼昆布にはグルタミン酸やアスパラギン酸以外のアミノ酸が多いので、甘みも強く感じると思います。京都で利尻昆布が好まれるのは「昆布の風味が淡白=昆布臭さがない=上品」だからです。

昆布には種類の他に、等級による分類もあります。葉幅が広く、肉厚のものは1等や2等、短かったり、細いものは3等に格付けされ、当然、3等や4等の方が安価です。

松本仲子先生が「こんぶの等級とだし汁の成分の関係」という論文で、1等、2等、3等の比較を行っていますが、それによると上等な昆布ほどタンパク質や旨味成分が多く、利尻昆布と真昆布の1等を比較すると真昆布の方がこれらの成分が多かった、とのこと。ただし、これは原材料の話。利尻昆布の1等、2等、3等を用いて、だし汁の成分を分析したところ、アミノ酸やヌクレオチド等の成分には顕著な差はみられませんでした。つまり、出汁に使うのであれば等級はあまり関係ないのです。

問題は料理屋さんで好まれる熟成させた昆布。熟成によってグルタミン酸の量は増えないのですが、脂質酸化物が揮発し、メイラード反応が起きることがわかっています。熟成させた昆布の方が色が濃い出汁が引け、鰹節を入れても濁りづらいのはメイラード反応と脂質酸化物が揮発した結果。熟成させた昆布にはいわゆる「昆布臭さ」がないので、それゆえに好まれるわけですが、熟成には等級の高い昆布が向いているそうで、このあたりが単純にはいかないところ。

いずれにせよさきほど1Lに対して10gと書きましたが、これはあくまで目安という点だけ理解してください。例えば利尻昆布10gと真昆布10gでは味がまったく異なる、ということです。さきほど引用したうま味インフォメーションセンターの資料を参考に100%うま味が抽出されると仮定すれば使用量が割り出しやすくなります。もちろん、個体差もありますが、充分目安になる、ということです。

昆布の使用量は最終的には「どんな出汁が引きたいか」で決まります。単純にグルタミン酸の量を増やせば後味のうま味の余韻が長く、逆に鰹節の量を増やせばアタックの強い出汁になります。あるいは日本料理店で尊ばれる「キレ」のある出汁にしたければ昆布のグルタミン酸と鰹節のイノシン酸を低い濃度、それも1:1(最もうま味の相乗効果が起きる割合)に近づければ、うま味を強く感じつつも、アミノ酸濃度自体は少ないので、後味が軽い味になる、ということです。

うま味の抽出温度について

さきほど引用した松本先生の論文はかなり面白いもので、旨味と嗜好性について示唆的な内容になっています。さきほどは出汁の旨味成分の量はあまり差がない、と書きましたが、官能評価では差が出てきます。昆布の等級と抽出温度の関係を調べたところ10℃から100℃で5分の加熱条件(一般的な沸騰直前に昆布を引き上げる方式)だと1等>2等>3等の順番に評価が高く、100℃で5分(ぐつぐつ煮出す方式)だと3等>2等>1等の順番に評価が逆転するのです。

また、真昆布と利尻昆布では真昆布のほうが評価が低い、というもの。強すぎる旨味は昆布臭い、として評価が落ちるのです。ただし、これは1991年の論文であることに留意する必要があります。例えば「めんつゆ」なんかも時代を経るごとにうま味の量が増えて(代わりに塩分は減った)いますから。

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1リットルの水に昆布を入れて数時間置きました。この水出し法は「良質なだし汁」が得られる方法とされていますが、たしかにうま味であるグルタミン酸は水溶性のため、水につけておいても出汁はとれます。

しかし、落ち着いて考えてみるとそれほど賢い方法とは言えないかもしれません。うま味は水溶性ですが、香り成分は水に溶けづらく、加熱することで引き出した方が効率的だからです。また、うま味成分も加熱した方がうま味が早く引き出されます。(ただし、加熱しすぎると香り成分が揮発するので適切な温度を保つことが重要です)

従来の昆布だしは「昆布と水を鍋に入れ加熱し、沸騰直前に引き出す」というものでした。その抽出方法に対し、水出しという方法が推奨されているわけです。しかし、前述の論文のなかで松本仲子先生が

従来、水出し法は良質のだし汁が得られ、沸騰させるとこんぶくさく、くどくなるので避けるべきこととされてきた。 このことは、旨味成分量の多い上等のこんぶにはよくあてはまり、低温で溶出を抑えて得られる旨味成分量のだし汁が好まれ、沸騰させたものは旨味が濃すぎて好まれない。また上等こんぶを大量に使用する営業においては、一番だし汁をとった残渣を二番だし汁、 塩こんぶ等に利用することが多いため、残渣旨味成分を残しても、それは二次的に十分に利用される。
一方、旨味成分量の少ない安価なこんぶを使用するのが普通である一般家庭では、一回の使用量も少量であることから、残渣を廃棄してしまうことも多い。このような場合には、こんぶを沸騰水中で加熱して旨味を充分に溶出してしまうのがむしろ効果的な用法で、沸騰直前に引き上げる必要はないと考えられる。

このように述べている通り、この2つの方法にこだわる必要はないのでしょう。家庭出汁においては昆布の量を減らす代わりに入れたまま沸かし、抽出温度を上げることで、旨味成分を無駄なく使い切る、というのも合理的な方法です。

いずれにせよ昆布の資源量が不安視される現在、いい昆布を使って、淡い味を引き出す、というのはやや不合理。ここで目的としたいのは「なるべく少ない昆布の量で、出したい味を出す」ということです。

昆布だしの加熱時間と抽出温度は①30℃ ②60℃ ③80℃ ④30℃を途中から60℃に上げる+60分加熱というケースを比較した実験があり、その結果60℃で60分が最もグルタミン酸の抽出量が多かった、という結果があります。この方法で「昆布の風味が薄い」となった場合は例えば

1  昆布を砕く(表面積を増やす)
2 加熱温度を上げる、あるいは抽出時間を伸ばす

などのアプローチが考えられます。温度を上げることで昆布の粘り成分などが出てくるというデメリットもあるので、このあたりとの兼ね合いで量を検討をする必要が出てきますね。とはいえ、素材を砕いたり、温度を上げても元の素材に含まれている以上のうま味は抽出できないことは言うまでもありません。

実際に昆布だしをとってみる

昆布だしをとるには60℃で1時間の抽出が必要なわけですが、温度をコントロールする調理器具として登場するのが以前にも紹介した「Repro」です。

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温度調整機能がついているIHクッキングヒーターです。プリセットレシピに基本の合わせ出汁が入っているので、まずはこれを基準にしてみましょう。

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1Lとることにしました。プリセットレシピとは異なりますが、とりあえず暫定的に昆布の使用量は1%=5gとしました。ちなみにプリセットレシピでは伏高の白口浜真昆布を水に対して2%の量、使用することになっています。

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reproは鍋プロファイルといって温度制御するための鍋のデータを選択する必要があります。今回使いたかったジオプロダクトの片手鍋16cmが入っていなかったので、アプリから転送します。

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使用するプロファイルとして選択します。

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水に昆布を入れます。ちなみに今回使用したのは日東海藻さんの知床産天然、羅臼昆布です。

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OKを押して加熱スタート。

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タイマーが動くので1時間抽出します。温度を安定させるためと加熱中に揮発する風味を減らすために蓋をずらした状態でかけておくのがポイントです。

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昆布を取り出しました。

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舌で味を確認。うん、うま味はほとんど残っていません。どうやらこの昆布の場合は60℃で1時間でいいようです。続いて鰹節の話に移りますが、それはまた明日!


撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!