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「地方銀行の雄スルガ銀行が陥った甘い罠」

静岡県の地方銀行である「スルガ銀行」によるシェアハウスオーナーへの不正融資事件。改めて都銀をはじめとする各金融機関が置かれた厳しい経営状況がはからずも浮き彫りとなったと言えるのではないか。

 ゼロ金利からマイナス金利へ。これまで日銀に預けてさえいれば、一定の利息はそのまま収益となっていた銀行の業務活動がいまや、自ら各種の取引手数料収入をあげる、融資に一定のリスクテイクをしなければ、純益を稼げなくなってしまう。

 だが、法人相手の設備投資資金は需要そのものが低調。そこで個人向けのカードローンをはじめとするリテール融資をコツコツ積み上げていく。

 今回、その舞台の大半となった支店である「スルガ銀行横浜東口支店」は、過去何度も社内表彰を受けてきた実績がある優良支店であったという。そうした栄光を背負ってしまった歴代の支店長達は、いつしかそれを上回るノルマとなっていった。

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 これまでは他行に先駆けいち早く手がけた“新リテールビジネス”の店舗は地元での評判も良く、新富裕層と呼ばれる“ニューリッチ”へのアプローチを強化するなど、横並びの意識が強かった業界の中でも、異色の存在として注目を集めてきた。

 同行の独自のビジネスモデルとして過去、筆者も注目をしていたのが、地方銀行ながら全国を相手にした「ダイレクトバンキング」と、首都圏をターゲットにした「パーソナルバンク」、従来から地元の顧客を大事にする「コミュニティバンク」と呼ぶ三つの形態をうまく使い分けていたことだ。これぞ新時代の地銀のあるべき姿なのではと思った。

 都銀地銀入り乱れた金利競争を勝ち抜く必要がある法人営業中心から、いち早く抜け出し個人向けの取引を重視した数々のオリジナルな手法を考え出したところは他になかったように思う。

 今でこそ当たり前のようにどの金融機関もリテール営業重視を訴える。 

 何でもスルガ経営陣はアメリカの金融機関を視察に言った際に、「スーパーリージョナルバンク」と呼ばれる幾つかの銀行の視察で、そこで行われていた「リテール金融」というモデルの重要性に気づいたという。

 本拠地の沼津市は、地方銀行の雄である横浜銀行と静岡銀行という強大な地銀勢力に挟まれた難しい立地。そこから逃れなれない中で、普通のことをやっていても勝てないと思った。時代を先取りしてスタートしたインターネットバンキング等もそのうちのひとつの手段である。

 ネットには県境がないので全国の消費者を相手に商売が出来る。

 法人取引はどうしてもその地域の景気の浮き沈みや、将来性に左右されてしまう。個人重視の姿勢に至った流れはこうして編み出された知恵の勝利でもあった。こうして生まれた全国を相手した革新的なサービス商品は逆に地域リスクを回避する効果もあった。

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「地銀が全日空と提携した衝撃」

 オンライン支店も単なるダイレクトバンキングには終わらず、当時、ブームとなり始めていた「マイレージカード」と、「電子マネーエディ」を一枚のクレジットカードに組み合わせたもので、「スルガ銀行ANA支店」としたことで一気に全国がターゲットになった。こうした取組みは一層進化して2年前には東京日本橋に「ANA支店フィナンシャルセンター」という、まるで空港ラウンジのような雰囲気のコラボ店舗まで誕生させている。中は飛行機の様々な展示があり、一見すると銀行の店舗には見えない。無駄な投資と言ってしまえばそれまでだが、地銀でありながらここまでやるかという意気込みを見ることができた。 

 「サロンドコンシェルジュ」と名付けられた支店はビルの上層階で、1対1の資産運用コンサルを受けられた。他にもソフトバンク支店など目的に合わせた複数の支店を持つユニークな取組みを次々と実現させている。本当にアイデアマンなのである。

 こうしてリテールに力を入れすぎた結果が産んだ今回の事件なのかと思うと残念に思える。「かぼちゃの馬車」というネーミングの妙とシェアハウスという、まだあまり聞き慣れないビジネスが舞台となったことで、必要以上にマスコミにたたかれている感がなきにしもあらずなのだが、広く世の中にそうした危険なシェアハウスビジネスモデルの存在を知らしめた。

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 スルガはオーナー経営者が続く銀行であっただけに、思い切った経営方針が可能だった反面、チェック機能が働かずに一部行員の暴走とも組織ぐるみを疑われかねない一大不正融資に至ったのである、“地銀の優等生”が陥ったガバナンスの緩みがどこから生まれていったのか、その過程にも興味を持つところである。今後は業界第5位、横浜の家電量販店であるノジマという異業種のもとで、再建計画がどう進むのか。信頼失墜からの立ち直りへの道のりは長いと言わざるを得ない。

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