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「炎上」とか「匿名掲示板」についての思い出話

自分はポリティカルには匿名表現の自由について擁護する立場なので、せっかくなので個人的な立場として匿名表現についての考えというか思い出話をまとめておこう。

ちなみに匿名表現の重要性については山花郁夫前衆議院議員が端的に論考を文章と動画にしていらっしゃるので、インターネットを利用する以上は全ての人に一度は目を通しておいて頂きたい。

匿名であるからこそ例えば公益通報、内部通報のような形で社会は正常化していくという機能も持っています。

ですから、匿名かどうかということが問題なのではなくて、匿名表現で行われた且つそれが人権侵犯事案だというときに、どういった法的な手立てが必要なのか、という限定された議論が必要なのではないかと考えております。

匿名表現について。(山花郁夫)

たかが同時接続ひとけたの匿名掲示板は存在しないのと同じ。

出だしから切って捨てるが、匿名掲示板の力の本質は「世論形成」にある。
匿名のぼやきや愚痴でも、世論が形成できるだけの数があれば政治的な思惑から人が動きだすわけだが、それには少なくとも数百人程度の人間が同様の意見を共有していないといけない。

同時接続ひとけたしかない掲示板は、その点において、ネット上の価値としては「存在しないのと同じ」である。

公益性の高い告発をするにしてもここでは盛り上げようがないので、もし強い問題意識があるというならば、公的な機関の窓口から相談やタレコミを行うことを強く推奨したい。

ちなみに

  • インターネットトラブル全般を包括的に担当しているのは総務省。

  • アプリからの課金などの金銭トラブルであれば、消費者庁

  • また刑法上の性犯罪とまではいえない性暴力に関する相談ならば内閣府の男女共同参画局。

以上がそれぞれに窓口を用意している。

警察や弁護士への相談とは異なるため、自分の受けた被害への補償があるわけではないが、同様の相談が大量に寄せられれば政治マターとして事態が動くことが大いに期待できる。
匿名の数の力は最大限に発揮できる手段で用いるのが知恵だ。

公益性が認められない匿名による人権侵犯事案に関する「思い出話」

公益性の高い匿名表現の場合は前項で説明した通り、「最低でも数百人と意見を共有する必要がある」ので、そのためにどうするのかを考えるべきである。

では次は到底公益性は認められない人権侵犯事案にでくわした時の話をしよう。

前項までの客観性の高い文章からは一転して、
ここからはあくまでも「第三者として、被害者のために奔走する人の手助けをした私の視点からの思い出話」として読んでもらいたい。
それも、たかだか数人の噂話の域をでないような匿名掲示板などではなく、最低でも数千人程度に情報が広まる規模で起こった事案の話だ。

あくまでも「思い出話」なのは、こちらは全くと言っていいほど「最適な対処法」のヒントすら示せないからだ。
全文読んでもモヤッとするだけだろう。

そんなモヤっとした話を読みたい方は続きをどうぞ。

私がリアルタイムで見聞きした中で最悪の匿名掲示板の被害者は未成年だった。

数年前にある投稿が未成年者個人のTwitter(当時)アカウントから連続して行われた。

投稿内容を要約すると

  • 「都内の学生の文化活動を支援する団体主催の展示会で、一般投票によって奨励賞を受賞したことの報告」

  • 「(その受賞作品が下着やアルコールなどを描いていたため)道徳保守的な匿名アカウントに目をつけられたよ!という発言」

以上の2点。

「道徳保守的な匿名アカウント」というのは一般的には「ツイフェミ(Twitterフェミニスト)」と呼ばれるが、彼ら彼女らの主張をフェミニズムと呼び習わすこと自体が混乱を招くので、より正確な表現として「道徳保守的な匿名アカウント」とする。

この未成年者の投稿をきっかけとして、美術館という最も自由に表現を受け入れねばならない場を舞台にして、「展示に相応しくない」というバッシングがTwitterを中心に巻き起こり、
この未成年者の所属学校名、同級生や先輩らの顔写真を含めた個人情報を拡散する悪質な投稿が匿名掲示板にて連日行われるまでに話題は拡大した。

個人情報の拡散を行う者を批判せねばならない局面であるにもかかわらず、多くの大人たちが「個人情報をたどれる状態でこんな作品を発表した未成年者の責任だ」という物言いを行った。
「未成年が危険な目に遭うから良くないよね」という枕詞の後ろに、「だから未成年であるおまえが生意気な表現をしてはならないのだ」と続ける倫理観を、私は子供を守る義務を負う大人として一切理解しかねるが、彼らの中では何かしらの整合性が取れた理屈だったらしい。

数千人規模で情報が拡散されている大炎上でありながら、
本当に大人が子供を守ろうとする際に取るべき対応をしていた人物は、恐ろしいことに皆無だった。
(あとからたった一人だけが、大人として当然の対応を独力で行なっていたことを知る)

未成年者をプロのライターはじめとした大人が寄ってたかって責め立てる異常な事態。

同学に所属する他生徒の個人情報までもが暴露され、悪意あるデマと共に拡散される事態にまで発展しながら、
最初に無責任なバッシングを行なったTwitterの「道徳保守的な匿名アカウント」らはまったく反省の色を見せなかった。

それどころか赤木智弘というフリーライターが、取材もせずに
「展示会の主催側でもやはり問題になっている様子」
「"不快感を与えたりする恐れのあるものは出品を断る場合がある"(展示会のルールの引用)」
などとTwitter投稿を行ったため、この未成年者の作品のために展示会のルールが変更されたというデマまでもが拡散されることになった。
(引用されたのは何年も前から使用されているルールの文言であり、当該の未成年者の作品とは一切関係ない。むしろこの未成年者の作品はこのルールを通過したからこそ展示されて受賞をしている

「道徳保守的な匿名アカウント」らが赤木氏の投稿を受けて、自身の正義をより意固地に主張しだした形だ。

フリーライターというのは厳密かつ正確で公平な文章を書く義務や技能を有した職業ではないことを私は知識として理解しているが、この誤解を広めた投稿を目にして未成年者への攻撃を過激化させていた一部匿名アカウントは赤木氏を「記者」と認識しており、新聞やテレビなどの権威的なメディアの関係者が自分たちにお墨付きを与えてくれたと大喜びしていた。

Twitter内での赤木氏のツイートの拡散自体は大したことはなかったが、問題は赤木氏のこの投稿が行われてから匿名掲示板上で執拗に個人情報暴露を行なってきた人間の活動が活発化してしまったことだった。
「ジャーナリズムという権威のお墨付き」を得て、狂った正義感がさらに暴走したのである。

私がこの辺の匿名掲示板上での状況を把握したのも、ちょうど赤木氏のツイートが行われたこの時期であった。

ずっと独力で未成年者の個人情報暴露の削除依頼をしていたYさんと出会う。

「独力で個人情報の削除依頼をしている方の手伝いをしているが、手が回り切らないかもしれない…」
という相互フォローの方の投稿をTwitterで目にしたのが最初であった。

未成年者を攻撃する目的での個人情報の拡散が、どうやら自分が考えていたよりも深刻な規模らしいと知り、その相互フォローの方にDMで手助けを申し出たことで、独力での削除依頼をしていた方と知り合うことになった。

その方を仮にYさんとする。

Yさんはずっと大規模匿名掲示板に張り付いて、顔写真などの個人情報が貼られるたびに削除依頼を行なっていた。
被害に遭っている未成年者は、巨大匿名掲示板の削除基準のルール的には「準公人」扱いであり、単なる誹謗中傷程度の書き込みでは「公益性あり」とみなされて削除依頼が認められないため、やむなく個人情報の暴露にのみ対応していたそうだ。

また匿名掲示板自体に画像アップロード機能がないために、顔写真等の画像は海外のアップローダーを利用して掲載されており、英語で対応を求めねばならないのも、Yさんの手を煩わせていたようだった。

使えるものはパターナリズムでも権威主義でも使うと肚を決めてYさんに協力をした。

まず真っ先に手を打ったのは英語での削除依頼をするにあたって、より強い文言をネイティブ英語話者に作ってもらう事だった。

英語話者の多くが属しているキリスト教圏はそれぞれの宗派や地域にもよるが、基本的にアジア人である我々の理解をやや超えたパターナリズムで倫理観を構築している面があるし、
(日本人が素朴に考える以上に)拙い英語に対する差別的扱いが顕著だ。

なので、いかにも非英語話者が機械翻訳でつくったらしい文言にしない事が重要と考え、ネイティブ英語話者の友人に「できる限り強い表現で、未成年者の人権が侵害されているということを伝える英文を作成してほしい」とお願いをした。

本来ならばこういったパターナリズムを振りかざしての削除依頼は私の政治信条的にはやりたくないことだったし、今ももっとマシな手段が取れていたならよかったと考える部分はあるが。

そして、次にやったのは「美術館展示作品の制作を指導してきた実績がある美術教育関係者」という私の肩書きを出して、
「赤木氏の投稿は誤りであり、未成年者に対する攻撃を助長している」と発信することだった。

赤木氏の投稿が誤りであることを確認するための問い合わせでも、この肩書きを大いに使わせてもらった。

赤木氏のように(見せかけの)権威を狡猾に利用した情報発信ではなく、裏は間違いなくとったが、それでも私がやったのは権威主義に対して別の権威主義をぶつけたに過ぎない。

これもまた私の信条からは大きく逸脱する行為だった。

やり場のない処罰感情と被害者の不在のもどかしさ。

ここまでの行動は未成年者の個人情報の拡散を抑えるというのが主目的ではあったが、「自らを正義と思い込んで未成年への攻撃をやめない人間たちに正しく報いを与えたい」という処罰感情も大いにあった。

なので、被害に遭っている未成年者自身に法的な訴えを起こしてもらって、展示会の規約改変があったというデマ拡散の端緒を開いた赤木氏や、匿名掲示板で個人情報暴露を行なっている人間たちを処断してもらいたいのが正直な気持ちだったのだ。

(おそらくは私と同様のことを考えたらしい方から「裁判費用のカンパを被害にあっている未成年者に申し込みたい」という相談も受けた)

しかしながら、第三者の処罰感情はどこまでいっても「お気持ち」で、現状が如何に酷いことになっているかを訴えても、警察や教育委員会を動かすことすらできない。

被害を受けている未成年者自身は法的な訴えを起こすことを選ばず、誹謗中傷や個人情報の暴露に対しても沈黙することを選んでいた。

そして、今思えばだが、
おそらく私ふくめたどの大人よりずっと賢明だったのは「同学の生徒や教諭、家族のために沈黙を選んだ」未成年者だったのだろう。

被害者は同級生や部活仲間のために沈黙したが、折れなかった。

自身の個人的法益を侵害されたときに訴え出るのは重要な権利であるので、決して「沈黙こそが最も賢い」とは言わない。

ただし「沈黙し難いときに沈黙を選び取れることは、最も重要な美徳のひとつだ」とは言える。

くわえて被害者は数年間沈黙はしたが、
無分別な大人たちによって個人情報を拡散されてデジタルタトゥーを背負っている名前のままで、成年してからしっかり帰ってきたのだ。

数千人規模に情報拡散された炎上に巻き込まれてしまえば、簡単にはネットの上のアーカイブは消えない。
今もこの被害者の名前を検索すれば、過去の心ない匿名掲示板の書き込みが出てくる。
それでも以前と変わらずに絵を描くことを選択した若者に対して、ただただ賞賛するほかない。

匿名による人権侵犯に最適な対処法は現状はない。

ここまで長々と書いたが、結論としては匿名による人権侵犯に最適な対処法と呼べるものは現状何もない。

Yさんの善意は悪意の前では数で負けかけていたし、
私の対処は相手が振りかざしているのと同じパターナリズムや権威主義という悪徳をそのまま打ち返しただけ。
そして被害者自身が立ち向かう覚悟をして法的な訴えを行なった場合であっても、「処罰感情を満たす」ことすらろくにできないのが現状だ。

以下は実際に匿名による人権侵犯に対して訴えを起こした方を取材した記事からの引用であるが、法定の罰則が軽微なため、示談金という形を取るほかなかったことを証言している。

現行法の刑罰では、名誉棄損(きそん)罪が3年以下の懲役、もしくは罰金50万円以下、侮辱罪が1日以上30日未満の勾留となる。これについて春名さんは「現行法ではやったことに対する処罰が甘すぎる」と正直な思いを吐露。示談に応じることについては「生活する上で誰にとっても必要なお金という目に見えるものを失うことでしか、あなたのしたことが悪いことですと(投稿者へ)教えられる手段がない、という悲しい現実を知った」と明かしている。

“はるかぜちゃん”こと春名風花さん、SNS誹謗中傷の示談成立 被告が示談金315万円支払いへ

どう関わっても気持ちの悪い思いをさせられるのが、匿名での中身のない悪口や嫌がらせである。

明らかに悪質な言いがかりや攻撃であればこの記事に書いたように、被害者の知らぬところで勝手に義勇軍が結成されることもあるが、
被害者本人に何か有益な報いを与えられるかといえばまあ疑問だ。
どこまでいっても防衛戦以上のことはできない。

一番最初の見出しで
「たかが同時接続ひとけたの匿名掲示板は存在しないのと同じ」
と書いたが、極論、相手が数千人規模になろうがおなじ心構えで対峙するしかないのかもしれない。

ただ、10代の未成年が「数千人だろうが数万人だろうが、公益性のない匿名表現に対しては無視すればいないとの同じ」という選択をして、成年になった今もデジタルタトゥーを逆手に取るぐらいのつもりで活動を続けている現実が間違いなくあることは、心強いものではある。

数人程度しか貼りついてない掲示板の噂話に過剰反応した挙句に身近な人たちに当たり散らす大人さえいる中で、この未成年と出会えたことは私の中では得るものが大きかった。
本人にとっては悲惨な被害体験でしかないので、勝手にいい思い出扱いされるのも不快ではあろうが、尊敬できる"行い"として間違いなく記憶に残っている。行動の賢明さや尊さに年齢は関係ない。

もやっとした話ではあったが、この未成年の話はどこかでまとめて書き残しておきたかったのもあるので、こうして記事として出してみた。

インターネットという人の破滅の一歩目に踏み出したみなさんの、なにかしら指針になれば幸い。

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