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シューティングゲームの誕生

 1960年なると、多くのハッカーを産み出すことになったコンピュータ「PDP-1」がDECより発売されました。PDP-1はマサチューセッツ工科大学に寄贈され、多くのハッカー達がプログラムを作成していきました。

 そんなプログラムの中で初めて生まれたゲームが「Space War!」(1962年2月、Stephen R.Russell)です。このSpace War!は二機の宇宙船を二人のプレイヤーが動かし、お互いを撃ち合うという対戦型のシューティングゲームで、同大学に在籍していた天才ハッカー、スティーブ・ラッセルが作成しました。

 スティーブ・ラッセルはPDP-1というコンピュータを使って何か面白いことができないかと考えており、当時の彼がハマっていたSF小説「The Skylark of Space」(1928年、Edward Elmer Smith)にインスパイアされて「画面内に宇宙船が飛び回って戦う」というシナリオをまとめたのでした。

 ウィリアム・ヒギンボーサムもそうでしたが、 彼もまた「コンピュータを使って面白いができないだろうか」ということを考えてゲームアイディアを捻出させた点は大変興味深いところです。「どうやったらプレイヤーを楽しませることができるのか」というエンターテイメント的な発想はゲームのアイディアを生み出す原動力ですから、その原点が遙か昔からあったのは面白いですよね。

 シナリオを完成させたスティーブ・ラッセルは、約半年という長い時間をかけてプログラムを組みました。初めて遊べるようになったのは1962年2月です。

 このバージョンはとてもシンプルな構成をしており、背景にはランダムに描かれた星を用い、燃料を積んだ二機の宇宙船が飛び交って撃ち合うだけのものでした。宇宙船から放たれたフォトントーピド(宇宙魚雷)、つまり弾はどちらかの宇宙船に当たるまで画面内を飛び続けていました。

 ここへハッカー仲間が次々と新しいアイディアを考え、改良を加えていくようになります。

 ピーター・サムソンはランダムに描かれる星を見て気分を害したのか、スティーブ・ラッセルを呼び止め「これはリコールだ」と言ったあと、AENA(American Ephemeris and Nautical Almanac)のデータを用いて現実にある恒星の並びを画面に表示させるような改良をしました。

 ダン・エドワーズはスキルの高いプレイヤーが有利に戦えるよう、「Heavy Star」(ヘビースター)と呼ばれる重力惑星を画面の中央に配置することを提案しました。そして、この重力惑星を実装する際には二つの考えを盛り込みました。

 ひとつは「重力に従って画面上のものがすべて影響を受ける」ということ、そしてもうひとつは「画面上を弾が埋め尽くさないよう、重力惑星に当たった弾を消滅させる」ということです。

 重力惑星を実装した後、惑星に引き込まれて落ちていく宇宙船の軌道がCBS(CBS Broadcasting)のオープニングに似ていることから、「CBS Opening」というあだ名で呼ばれるようになりました。

 マーチン・グラーツにより組み込みまれた「ハイパースペース」という、自機が姿を消すというアイディアもありました。しかし、ハイパースペースは最終的には取り除かれてしまいました。

 プログラムに改良を加えていく一方でSpace War!は重要なデバイスの発明をもたらすことになりました。

 アラン・コトックとロバート・サンダースは、小さな木の箱とワイヤ、ベークライトの板、それからスイッチボードを使って「コントロールボックス」と呼ばれるものを作り上げたのでした。これは後にジョイスティックと呼ばれる機器の祖先です。

 横向きのスイッチは宇宙船を左右に回転させる制御を行い、ボタンを押せばフォトントーピドを発射できます。縦向きのスイッチは二つの機能を操作するためにつけられたもので、奥側に倒すとハイパースペースの制御、手前側に倒すとロケットの推進力を制御することができます。

 このような改良や発明の他、宇宙船が壊れるときに破片となって爆発する「クロックエクスプロージョン」というアイディアも追加されました。

 ひと通りのアイディアが盛り込まれたSpace War!が完成したのは、最初のバージョンが完成した1962年2月から2ヶ月経った4月のことでした。そして翌5月、同大学のサイエンスオープンハウスでお披露目されました。現代では、このお披露目されたバージョンのSpace War!が「オリジナルバージョン」と呼ばれています。

 また、同じく5月にニューベッドフォードで初めて開催されたユーザ交流会「DECUS(Digital Equipment Computer User's Society)」でもSpace War!は発表されました。その資料の一ページ目には大げさなタイトル「SPACEWAR! Real-Time Capability of the PDP-1.」がつけられたそうです。

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