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口裂け女

 『口裂けインベーダー』の話が出たついでに、このゲームの基本アイディアとなった「口裂け女」の説明をしましょう。「口裂け女」は1979年の春ごろから岐阜県を中心に流布した都市伝説で、主に小中学生女子の間で噂になり、たった半年ほどで全国へ広まったと言われています。

 口裂け女は顔の半分を覆うほど大きなマスクをしており、子供を捕まえては「私、綺麗?」という質問をして回ります。もし「いいえ」と答えてしまえば、即座に鎌で切り殺されてしまい、逆に「はい」と答えると「ほんとに綺麗ィィィィィ!?」とマスクを剥がしながら耳まで裂けた口をあらわにし、ニタッと笑うのです。裂けた口を見て子供が驚いて逃げた場合でも、やはり鎌を振りかざし、殺すまで追いかけてくるのです。追いかけてくる速さは100mを7秒という俊足だと伝わっています。

 著者のところでは、口が大きく避けてしまったのは整形手術に失敗したことが原因だったと伝わってきました。そして、その担当医師がポマードを愛用していたということで、もし口裂け女が追いかけてきたら「ポマード!」と叫べばよいという撃退法も一緒に伝わっています。

 「ポマード!」と叫ぶのは、口が裂けてしまったときのトラウマを喚起させるためで、口裂け女が(フラッシュバックにより)怯んでいる間に逃げるように、と友人同士の間では言われていました。なぜなら口が裂けてしまった原因は手術中に 「主治医のポマード臭から顔を背けた瞬間に、不可抗力で口が裂けてしまった」というのが原因だったと言われていました。

 「口裂け女は学校のトイレに隠れており、いきなり飛び出して襲ってくる」という話もありました。実際に著者の学校でも、口裂け女がトイレに隠れたという騒ぎになったことがありました。トイレの前に恐々ながらも10人くらい、10mくらい離れたところに50人くらいの人だかりができ、 数人の教師を巻き込んでの大騒ぎとなったのです。この一件以来、しばらくは休み時間以外に一人でトイレに行けない子供が続出しました。

 この都市伝説は全国各地の小学生や中学生に尋常ではないほどの恐怖を与え、福島県郡山市や神奈川県平塚市では口裂け女騒ぎのためにパトカーが出動する騒ぎとなりました。北海道釧路市では集団下校することを指導し、子どもの安全確保に当たりました。単なる都市伝説にすぎない話でしたが、社会的に大きな影響のあった事件でした。

 口裂けインベーダーは口裂け女をモチーフにしたということはすでに述べましたが、子供が恐怖を感じる存在までも遊びの中に組み込んでしまう大人の世界というのは、ある意味凄いのかもしれませんね。 口裂けインベーダーに限らず、口裂け女をモチーフに取り入れたゲームは他にも存在します。それは当時、大学生たちが作ったゲームデザインしたことで有名となった『平安京エイリアン』(1979年、電気音響)の原作です。

 口裂け女から無事に逃げる方法は様々あるようですが、前述した「ポマード!と叫ぶ」という方法のほか、「べっこう飴を与える」というものもありました。べっこう飴は口裂け女の好物で、これを口裂け女に与えると無我夢中で舐めはじめるため、その隙に逃げられるそうです。この「べっこう飴」というアイテムを取り入れたのが平安京エイリアンです。

 「べっこう飴ボタン」を押すとべっこう飴を置くことができ、 しばらく敵を足止めすることができるのです。しかし、当時のアーケードゲームのハードウェアの制約からボタン3つを利用することができず、アーケードゲームで発売される際には「べっこう飴ボタン」はなくなりました。

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