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Exidyが遺したもの

 Exidy社は1974年に創立された会社で、Ramtek社の倒産後、ポール・カウフマンを中心に同社のメンバが再び集まって興しました。Exidyという名称は「素晴らしさを原動力にする」という意味合いがこめられ、「Excellence in Dynamics」から取られています。しかし、Exidy社の名を世に知らしめることとなった最初のゲームは、残念ながらExcellenceとは言い難いものでした。

 Exidy社は1975年に公開されたシルベスタ・スタローン主演の映画『Death Race 2000』(1975, アメリカ)にインスパイアされたゲーム『Death Race』(1976, Exidy)を発売しました。 ゲームの内容も映画のストーリーに沿ったもので「レース中に人を殺すとポイントを獲得する」というアイディアをそのままゲームへ取り込み、 画面内で暴れる小悪魔「グレムリン」を轢き殺すとスコアが上がるという設定にしました。

 ゲーム中に登場するのはグレムリンだけではなく、「糸人間」と呼ばれる人型のキャラクタも存在していたため、 非常に野蛮で暴力的な内容のゲームとして取り沙汰されました。CBSニュースは「ゲームが精神的にどのような影響を与えるのか」というテーマで60分の特別番組を放映、大きな議論を巻き起こしました。

 Death Raceの発売により、Exidy社は「世界ではじめて暴力的なゲームを作った会社」として認知されてしまうことになってしまったのです。もちろん、社長であるポール・カウフマンはメディアから叩かれました。

 1978年春、日本においてもDeath Raceのゲーム内容は議論されました。社団法人青少年育成国民会議は「これは交通殺人ゲームだ。青少年の健全育成上、また交通安全対策上、行きすぎ」として、関連団体や輸入業者に対して営業自粛を求め、警視庁・警察庁に対しては速やかな対策を講じるよう申し入れました。また、全日本遊園協会や横浜市の輸入業者に対しては1978年4月17日付の文書で要望を提出しています。それでも自粛措置は取られず、国内販売が細々と続く状態でした。

 5月に入ると神奈川県警はDeath Raceを製造・販売していた 「ボナンザ・エンタープライゼス」「エスコ貿易」「インターナショナル・コインマシン」の3社に対し、「型式認可の表示がない」として電器用品取締法違反で摘発、家宅捜索を行いました。関係書類などを押収され、店頭のゲームは使用を禁ずるという措置が取られます。結果、エスコ貿易を除く2社から計4名が逮捕されました。読売新聞も「「殺人ゲーム」まっ殺」という見出しを打つなどしたため、半ば強引に沈静化された形で収束しました。

 しかし、Exidy社は汚名返上するかのように1977年にはヒットするゲームを開発しました。Break Outを発展させたゲーム『Circus』(1977, Exidy)です。Circusはパドルでシーソーを動かし、画面内を飛び回る人間をキャッチして、 シーソーの反対側に乗っている人間を再び空中に飛ばし、画面上部にある風船を割るというゲームです。Circusでのヒットに続き、スターウォーズにインスパイアされて開発した『Star Fire』(1979, Exidy)がブレイク、Exidy社は良質なゲームを作る会社として徐々に変わりつつありました。

 Star Fireはスターウォーズに登場する「X-WING」に似た戦闘機へ乗り込み、「TIEファイター」に模した敵戦闘機を撃墜するシューティングゲームです。当時としては珍しく、カラフルで大きなキャラクタが動き、擬似3D画面の迫力あるビジュアルで遊べるため、一躍人気となりました。

 Star Fireはリアリティを追求したゲームでもあります。ゲーム構成は非常にシンプルでしたが、自機へのダメージが部分的な損傷で済むなどディテールも作り込まれ、ビデオゲーム史上では初となるコクピット型筐体を採用しています。プレイヤーはコクピットへ乗り込み、操縦桿で機体をコントロールしながら敵を破壊していくという、体験としてのリアリティも再現されました。

 また、Star Fireはビデオゲーム史上ではじめてハイスコアネームを登録できるようにしたゲームでもあります。同時に、その新しい機能を用いて遊び心を持たせた点が非常に好感が持てます。たとえば「TZM」と入力すると開発者から友人TEDへ向けたメッセージ「ようTED、フォースがあなたと共にありますように」と表示されるような仕掛けを持たせたのです。

 残念ながらExidy社は設立から10年余りで姿を消してしまいましたが、ゲーム業界へ残したいくつかのプレゼントは、その後のゲームたちによって受け継がれているのです。

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