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美女と野獣にがっかりして(割れたメッキを抱えて生きる)

今朝がた聴いていたラジオから、ディズニーアニメ『美女と野獣』のメインテーマが流れてきた。吹奏楽バージョンで、歌はない。

ディズニー作品では『美女と野獣』が小さい頃から1番好きだった。本の虫で博識な美女・ベルが、それ故なのか、なんと動物それも野獣に恋をするという奇天烈なラブストーリーに、他のディズニー作品にはない、至上のエロスと愛情を感じたものだ。そんな曲が不意に流れてきて、重苦しい曇天の朝でも気分は上々だった。

イントロが終わり、メロディーのボリュームが最高潮に達する——さぁくるぞ……!というタイミングで、突然音楽がフェードアウトしていった。

「ここで交通情報です」と、アナウンサーの冷たい声。
音楽を遮り、とある路線で遅れや運休が発生している旨を淡々と話しはじめた。背景には変わらず、例のメインテーマが流れている。

その曲が流れるシーンというのはこうだ。
ベルは黄色いドレス、野獣は青いタキシードに身を包み、両端の赤い階段から向かい合って降りてくる。それを遠くから見守り、うっとりするような美声で歌い上げるポット夫人。野獣側の召使いが固唾を飲んで見守るなか、ふたりは細長いテーブルの対面に座って夕食をとる(野獣は犬のような食べ方をする)。すると食事の途中でベルが立ち上がり、野獣の手(鋭い爪つき)を引いて黄金のダンスホールに踊りはじめる——この映画の、1,2位を争う名場面。

「いや、今か〜い!」

と突っ込まずにはいられなかった。

たしかに朝の電車の遅延は致命的だ。ラジオ放送を頼りに予定を調整する人だっているだろう。しかし、なにも音楽に重ねなくとも……と思ってしまった。せめて音楽が終わってからでは、だめだろうか。だって一番盛り上がるパートなんだもん……という、呑気に家で聴いているリスナーのほざき。

そんな傲慢な聴取者からの不満や音楽のムードにも流されず、アナウンサーは冷静に1分ほど喋り続けた。ようやく交通情報が終わり、満を持して耳をすませる。

あれ?

さっきと同じパートにループしている。
多少の雰囲気は変わっているが、メロディーは全く同じだ。

肩透かしを食らったような気分になりつつ、やっぱり聴き続ける。

「タララララ〜♪」

転調しただけだ。
あれ、美女と野獣のメインテーマって、こんなに単調な曲だったっけ!?と思いながら、懲りずに耳を傾ける。

やっぱり同じメロディーだ。
どうしよう、つまらない。
ワンパターンではないか。
おれはこんな音楽を好きだと思っていたのか。

吹奏楽版で、歌詞がないせい? 歌のない『美女と野獣』は、おそろしいほどに退屈だった。アニメに出てくる、あの黄金のダンスホールのメッキが、バリバリと音を立てて崩れていくようだった。嘘じゃない。盛ってもいない。本気でそう思ったのだ。

心から好きだったものが、ある日突然、このようにしょうもない理由で好きじゃなくなる瞬間がある。何度か経験してきたが、やっぱり慣れない。
ショックで若干気分も悪くなるし、好きだった昔の自分もばからしく思えてくる。けれども好きだったのには間違いなく、その感動や感触は手に取るようにいまだ体に残っている。だって、今の今までは好きだったんだもん。
これは毎回痛い。そしてせつない。

例えば、昔好きだった音楽やバンド。アイドルグループ。蛙化現象に近いかもしれない。

歌っている時はカッコよかったのに、ふつうに喋っている様子がなぜか生理的にダメだったバンド。愛聴していたポッドキャスト番組で、ツボにハマったのか急にひとりだけ声をうわずらせて喋るパーソナリティが気持ち悪くなり、聴くのをやめた番組。好意があってようやく付き合えたものの、メガネを外したときの目がすごく小さいことに気づいて、急に嫌になった中学生時代の元彼。

どれもバリバリと「好き」のメッキが剥がれていく音がした。メッキをなくした対象は他と一緒になってしまう。なんの区別も贔屓もない。こんなに悲しく、そして申し訳ないことはない。

これまでの二十数年間、けっこうな数を感覚的な理由で「好きじゃなく」なってきた(もちろん人に関しては直接言わない)。うしろを振り返ると、私が通ってきた道は剥がれたメッキのくずで埋め尽くされている。綺麗にも、残酷にも見える。

きっと、私はこれからもメッキをボロボロと剥がしながら生きていくのだろう。今好きなものだって、いつか突然興味の失せる時が来るかもしれない。
そう考えるだけでも末恐ろしい。いささか他力本願ではあるが、どうか、どうか最後まで生き残ってほしい。今私が好きでいるものには。
「まぁ仕方ないよ、時が経てば人も変わるさ」と流せるようなすずしい潔さを、私はまだ持ち合わせていないのだ。










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