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失われた気球

小学〜中学頃の友人にお気に入りの存在が居た。
名前は浦島だ(一応仮名)。
独特の感性を持ち、中学そこそこで自分の意思/思想を巡らせていた。
英語のテストでは、英語は大嫌い&そもそもいらなくなるという論理を元に、毎回テストの時間は自分の名前をレタリングしていた。
最後のテストでは先生も根負けしてなんとレタリングに点数をつけていた。
(もちろん先生は落第を避けさせるために英単語を数百書かせるということをやっていたがそれすら、浦島は他友人に委託していた)

1年に1度あるかないかだったが、浦島はパッタリと1週間ほど居なくなることがあった。メールをしても出ないし(時代だね)家に行っても居るのかわからないが出てくることはなかった。再会した時に何してたの?と聞くのだがいつも、「親孝行してた」とか「山籠りしてた」とか本当か嘘かよくわからない曖昧な返答で煙に巻かれていた。

割と仲良く遊んでいたが中学の途中から2人では遊んでくれなくなった。浦島曰く、お前の熱量が大きすぎて御しきれなくなったと。この頃はなんだか浦島が遠くに行くのではないかと思って割と踏み込んで遊んでいたので(深夜まで遊んでいたり、半ば強引に家に居座ったりした)、距離を取りたくなったんだなと解釈した。悪気等はいっさいない純粋な気持ちだと分かっていたので学校では変わらずつるんでいた。

浦島とは馬鹿話をよくしたが、この世の価値についてよく語っていたように思う。
意味がないことに価値があると言っていた。
遊んでいた頃はよく意味のないことに熱中していた。
例えば、実家はマンションで、外に通じる道はレンガのようなタイルで出来ていたのだがそのタイルの1枚を今後の歴史を鑑みても1番踏んだ人間になろうとそこのタイルの上で連続足踏みをして一万回踏んだ人間になった。なので私は実家のタイルの1枚を世界で1番踏んだ人間なのだ。(おそらく)

文字通りなんの意味もないのだけども
意味がないことに熱中するというのはなんだか嫌いではなかった。

浦島とは小学生からの仲ということになるが、浦島は少し人間味がない。
私はここが浦島の良いところだったと思う。
私は中学のときに母を亡くしてるのだが、担任が少し熱血で、私の意思とは無関係に私の母が亡くなったことをクラスの人達に伝えていた(父には聞いていたのかな?)。そのため母の葬式には、クラスの全員と、私と繋がりのある友人が何人か来ていた。
全員どういう顔をしていいのか分からないという顔をしていた(今もわからないので当然だが)。
浦島は葬式には来なかった。私と浦島は同じ部活で浦島以外のメンバーは全員参加していたが、面倒臭いという理由で来なかったらしい。共通の友人には怒っている奴もいたが参加するしないは私としてもどうでも良かった。

忌引の休み期間が終わり学校に行くと全員が全員、普通を壊さないように取り繕った「普通」が存在していた。本当にありがたい話なのだが内心「バレバレじゃん」と思ってしまった。
しかし、浦島は違った。
まず初手で母が亡くなったことをイジった。
筆者家のKD(Kill Death:FPS用語で何人殺して死んだかの割合、一回やられるまでにできるだけ多く敵を殺した方が上手い)ちょっと悪くなっちゃうね。と。
不謹慎過ぎるのと、嫌味で言っていないことが分かっているのでとても面白かった。
私も「俺が最低2killしないとな」と冗談で返すと笑っていた。その後もいつも通りの態度、馬鹿話で変わらぬ日常を浦島は展開してくれた。

その後浦島とは高校・大学と別れるので疎遠になった。といっても帰省のタイミングが合えばグループで麻雀などをする仲だったが。

お互い別の都道府県で就職し、4年程経った日にLINEが届いた。内容は当たり障りのないものだった。私はちょうどカフェで会社の指定資格を取るため勉強中で、仮に合格すれば会社から報酬金6万円が貰えると話した。本当になんの他意もなく今勉強中だったから話したのだが、そこで何かのスイッチが入ったのか、浦島が税理士事務所に入り、外資系の企業に転職し年収があがりひいては、投資も成功して年収2000万以上あると捲し立てられた。

私は驚愕した。
どっかの有名大学に行った、学歴、年収しかモノサシがありませ〜んみたいな輩の話ならいざ知らず。
この世のモノサシ全部要らないというようなヤツのはずなのに。
どうしちゃったんだ浦島よ。

こんなにも人間が変わってしまうことがあるというのは本当に悲しくなった。
何があったのか、はたまた何もないのか分からないが浦島は変わってしまった。

この夏帰省してみて、浦島とも遊んだ。
前会った時と全く変わらないように思えたがどこかで一線を引いてしまっている自分が居た。

孤高にポツンと空に浮かび、
どこかに運んでくれそうな気球はいつの間にか無くなってしまった。
また実家に寄ると、廊下のレンガが付け替えられ刷新されてしまっていた。

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