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小説|瑠璃色の瞳2(7)

「ーーーーテヌートさん」

芽依の屋敷。城の兵士達は帰ってしまったのか、門番は今、テヌートしか居なかった。
トキが堂々と話しかけても、誰も気に留めない。芽依は既に中で、三津流に説明している頃だろう。

「残るんですか?」
「……お前が居れば大丈夫だろ」

テヌートは横目にトキを見る。
トキは何かを考えるような間を取ってから、言葉を発した。

「……芽依に、何か頼まれたんですか?」

先程到着した芽依は、テヌートと会話をしてから中に入っていった。その時からか、テヌートの表情が少し、硬い気がする。

「んー?…………まぁ、それもあっけど……」

テヌートは珍しく言い淀み、城の方角をじっと見つめる。

「………………少し、確かめたい事がある」

三津流に一通り説明し終えた芽依は、弟の頭をそっと撫でた。

「……ごめんね」
「だいじょうぶだよ。裕祇斗さん、来てくれるんでしょ?」
「うん。…………三津流、少し熱があるね。気分悪い?」
「ううん。だいじょうぶ。……それより、姉さま。僕のおまもり知らない?今日、起きたらなくなってて……」
「御守りって、母様の?」
「うん」
「見てないなー……ごめん。テヌートに探させるよ。三津流は今日はもうおやすみ」

一瞬、三津流の瞳が不安げに揺れた。しかし、芽依の言葉に素直に頷く。

「…………おやすみ、なさい。姉さま」
「おやすみ、三津流。ーーーー行ってきます」

三津流が瞼を閉じ、規則正しい寝息を立て始めたのを確認して、芽依は部屋を後にする。
ーーーー 一人になった部屋で、三津流の呼吸音だけが静かに響く。
……そっと、三津流の瞼が震えた。


ーーーーずっと昔、母と、ある約束をした。

『ーーーーお前と母の、二人だけの秘密ですよ』


誰にも秘密。母と三津流だけの、二人だけの秘密。
芽依も知らない、御守りの意味。三津流が屋敷から出られない本当の理由……。
知られてはいけない。それが、母との約束だから。
この先も、誰かに『それ』を告げる日は来ない。
熱が上がってきたのか、息苦しそうに浅い呼吸を繰り返す三津流の目から、静かに涙が滑り落ちたーーーー。




芽依が戻ってくると、門には既に迎えの馬車が待っていた。

「やあ」

馬車の前に立つ人物は、芽依を見つけると、右手を軽く上げる。

「お待たせして申し訳ありません。柊夜様」

国王との話で、行きの道中同行すると進み出てくれたのが、裕祇斗の兄、第二王子の柊夜だった。

「気にするな。私も国へ帰る予定だった」
「……もう帰られてしまうのですか?二日前にいらしたばかりだと伺いましたが」

芽依の言葉に、柊夜は堪らず笑いを溢す。

「…………ふっ」
「?」
「くくっ……、いや。……裕祇斗と全く同じ事を言うものだと思ってね」
「……褒められていない事は分かりました」

少しムッとした表情の芽依に、柊夜の口が楽しげに弧を描く。

「貴女は弟の大切な婚約者。私にとっても可愛い妹だ。裕祇斗が来れないのであれば代わりを務めるのは当然」

そう言うと、柊夜は芽依に右手を差し出す。

「さぁ、お手を」

柊夜は先程までのからかうような笑みではなく、既に王子としての顔に戻っている。
芽依もそれに倣ってそっと微笑んだ。柊夜の言葉にただ頷き、その手を取る。
馬車に乗ると、柊夜も向かい側の席に座る。護衛である数人の兵士とトキは、馬車を囲む形で馬に跨がった。
発車する直前、芽依は視線をテヌートに向ける。

「ーーーー……」

テヌートは、何も言わなかった。芽依も、何も言わない。数秒見つめ合い、そっと視線を外す。
ーーーー大丈夫。
何も、確認出来る事なんてない。なのに、テヌートの瞳を見ると、何故かそう思えた。
パシン!と鞭を叩く音がして、馬車が動き出す。
芽依は、布で包まれた宝珠を抱く手に、そっと力を込めたーーーー。


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