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小説|ユリテルド村の村長

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3大国の中央に位置するユリテルド村。 これは、その村の村長として暮らす、1人の少女の物語ーー。
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2022年8月の記事一覧

小説|ユリテルド村の村長(11)

小説|ユリテルド村の村長(11)

アレンはランシェルの事を先程よりも強い力で引き寄せる。

「こっち!父さん達がここに来る!」
「えっ!」
「とりあえず、隠れないと……ッ」

ランシェルはアレンに導かれるまま走り出す。去り際、不安げな顔でこちらを見るベルニカと目が合った。
 ランシェルは、大丈夫だと安心させるように、彼女に対し頷いてみせる。
 ガタンッという鈍い音が響いて壁の扉が倒されるのと、アレン達が部屋の奥の壁の小さな格子に滑

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小説|ユリテルド村の村長(10)

小説|ユリテルド村の村長(10)

闇に包まれた空の下。リュウはひたすら馬を走らせる。
今までは森の木々に阻まれて見る事の出来なかった星々が空一面に広がっている。国境まであとほんの数メートルという所で、リュウは馬の足を止めた。
辺りを見渡し、先程から感じる妙な違和感の正体を探ろうとする。

「………………は、………………です」

リュウはすっと目を細める。確実に誰か、いる。
馬から降り、そっと声のしたほうに近付いていくと、2人の男達

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小説|ユリテルド村の村長(9)

小説|ユリテルド村の村長(9)

それから2時間ほど経過した店内には、空のジョッキがあちらこちらに散らばっていた。男達もあの後さんざん飲み散らかし、今は眠ってしまっている。
そんな中、空の酒樽を前に立っているのは、アレンとランシェルだけだった。

「ランシェって、酒に強いんだな。びっくりしたよ」
「……いや、僕も今日初めてお酒飲んだから、ここまで飲めるとは思わなかったよ。逆にこっちがびっくりしてる」
「酒場に行きたがってたわりに、

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小説|ユリテルド村の村長(8)

小説|ユリテルド村の村長(8)

酒場に入った時、ランシェルを出迎えたものは、沈黙だった。
皆がみな、見かけない客に対して不信感を顕にしている。どこもかしこも、見渡せば黒髪に黒の瞳を持つ者ばかり。淡い茶色の髪を持つランシェルとは、似ても似つかぬ容姿だった。

「みんなー、注目!」

アレンがひときわ大きな声を上げると、皆の視線が彼に集まった。アレンは強面の男達の視線に物怖じすることなく、隣のランシェルを手の平で指し示した。

「こ

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