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回想と回顧(その5)

結末から先に言うと、Aさんには交際を申し込んであっさり振られた。
···まぁ、散々引っ張った話題をたった一言で終わらせるのは、あまりにもサービス精神に欠けるというか、芸がないので、もう少し詳細を書きます。

大学には留年、休学期間を挟んで約6年在席していた。その間、作詞作曲をちまちまやってはいたものの、プロのミュージシャンになるという確固たる決意はなかった。
お笑いはやるものではなく、あくまで見るものだった。
かと云って、手堅く就職することには、前向きになれなかった。
大学生活は、高校生と社会人の間のモラトリアムだと、しばしば揶揄されるが、僕はモラトリアムにどっぷり浸かっていた。

ところが、Aさんと出会ったことで、Aさんと結婚して家庭の経済を支えるために働こう、とあまりにも急な人生設計の転換。
交際すら始まってない段階なので、見切り発車ですらない。何も見ずに発車である。
恋の暴走列車に片道切符1枚持って乗る愚かさ。

Aさんに対しては、まず食事に誘ったりしてアプローチしていたけど、やんわり断られるというより、返事を先延ばしにして、何となく立ち消えになる感じだった。
しかし、当時、道立近代美術館で開催されていたゴッホ展に誘った時は、「職員が学生と学外で交流はできない」とはっきり断られた。
この辺で脈ナシと悟るべきだと、今なら分かるが、恋の暴走列車に乗車中だったので、終点まで降りられなかったのである。

学生とは付き合えない。
だったら学生じゃなくなればいい。
あまりに短絡的な思考。
自主退学して、改めて交際を申し込んだが、当然答えはNO。
そういうことじゃないんだよ。
Aさんはある種の優しさで、断る理由としての建前で、学生と職員はダメだからと言って、僕を傷付けないように納得させようとしただけだ。
なんでロミオとジュリエット的な身分違いの恋だと思っちゃうんだよ!
ロミオとジュリエットも、まずくっついてから、お互いの家柄の問題に発展したわけで、前提条件が全然違う。

こうして、僕の始まってもいない恋は終わった。
しかし、これこそが本格的な精神的煉獄の始まりだったのである。

つづく







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